化学薬品を飲んだ一人の女子大生が病床に伏したまま21年後に亡くなり、友人がただ一人火葬に立ち会う。
という場面から始まる長編小説です。
主な登場人物は、高校時代を北京で彼女とともに過ごした三人の男女です。二人の女性はどちらも事件後にアメリカへと移住しています。北京に残り、急速な経済成長下でビジネスマンとして成功した泊陽(ボーヤン)は、彼女の死を二人へメールで伝えますが、返信はありません。誰が彼女に毒を盛ったのか。または自殺か、事故だったのか。章ごとに過去と現在が行き来します。
犯罪ミステリーの要素が物語として読ませる原動力になっていますが、「誰が悪いのか」といった責任追及や断罪が主題ではないと思います。
著者のイーユン・リーは登場人物と同じように中国で生まれてアメリカに移住した作家ですが、もともとは免疫学を学ぶ留学生として渡米したそうです。イーユン・リーが書いた別のエッセイから以下の一節が訳者あとがきの中で引用されています。
「<免疫のある>(イミューン)という言葉は、英語で好きな言葉の一つだ。病気に対し、愚かさに対し、愛に、孤独に、やっかいな思いに、癒えない痛みに対し、免疫を持つことは、私の登場人物たちと私自身のために手に入れたい特質だ。」
本書の登場人物たちは、人生の毒として残留し続ける過去の事件から精神を防御するために、「独りでいる」(=隔離状態を作る)ことを自らに課しています。隔離ではなく、免疫をもつという対処ができないか。抽象的ですが、それがタイトルにもつながる本書のテーマになっていると思います。
そして、本書の大きな魅力は、内面描写の文章にあると思います。
「『君はわかってるはずだ。僕が君を好きなこと。とてもね。だから一緒ならどう過ごしても僕は幸せなんだ』
いや、幸せを本当に信じてはいないのに『幸せ』と言うのは間違いだっただろうか。」
「時は古い時だろうと新しい時だろうと、生きた時だろうとこれから生きる時だろうと、彼女の心の中にある死体にすぎない。」
「でも孤独は、愛と同じぐらいこの世の関係性を妄信することだ。人は愛と同じように、孤独を感じることによって自らの隣に他者ー友人、恋人、トイプードル、ラジオのバイオリニストーに満たしてもらう場を彫り抜くのだ。」
輪郭だけの絵に陰影の線が書き込まれていくように、会話や行動だけの文章に上のような描写が挿入されていきます。
イーユン・リーは、一番細いペンで微細な線まで書き込むように、登場人物の心理の陰影を緻密に表現していると思います。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
独りでいるより優しくて 単行本(ソフトカバー) – 2015/7/2
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥2,860","priceAmount":2860.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"2,860","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"gRtZ5rsfTnVLJY87uzvqHCR5YS9XXLvBMbQwE8JprB%2Fr3AW28vO%2FV8mcdBH93WJxuW0%2BKABfC9UN2O6%2BHidxh1vq3cRpLvvuQvt%2B7U9VeGf12fh6QOMas9%2BhUuQaKdQhOdMksU5whwo%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}]}
購入オプションとあわせ買い
ある女子大生が被害者となった毒物混入事件を核に、事件に関係した当時高校生の3人の若者が抱えつづけた深い孤独を描く。中国の歴史の闇を背景に、犯罪ミステリーの要素も交えた傑作。
- 本の長さ392ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2015/7/2
- 寸法14 x 2.5 x 19.8 cm
- ISBN-104309206751
- ISBN-13978-4309206752
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 独りでいるより優しくて
¥2,860¥2,860
一時的に在庫切れ; 入荷時期は未定です。
注文確定後、入荷時期が確定次第、お届け予定日をEメールでお知らせします。万が一、入荷できないことが判明した場合、やむを得ず、ご注文をキャンセルさせていただくことがあります。商品の代金は発送時に請求いたします。
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
イーユン・リー
1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。
2005年、短篇集『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞,
PEN/ヘミングウェイ賞など数々の賞を受ける。現在カリフォルニア州在住。
篠森ゆりこ
金沢生まれ。出版社勤務を経て渡米。ミルズ・カレッジ英米文学修士課程修了。
訳書にイーユン・リー『千年の祈り』『さすらう者たち』、クリス・アンダーソン『ロングテール』、
サム・ゴズリング『スヌープ!』他。
1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。
2005年、短篇集『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞,
PEN/ヘミングウェイ賞など数々の賞を受ける。現在カリフォルニア州在住。
篠森ゆりこ
金沢生まれ。出版社勤務を経て渡米。ミルズ・カレッジ英米文学修士課程修了。
訳書にイーユン・リー『千年の祈り』『さすらう者たち』、クリス・アンダーソン『ロングテール』、
サム・ゴズリング『スヌープ!』他。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2015/7/2)
- 発売日 : 2015/7/2
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 392ページ
- ISBN-10 : 4309206751
- ISBN-13 : 978-4309206752
- 寸法 : 14 x 2.5 x 19.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 131,945位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,460位エッセー・随筆 (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.4つ
5つのうち4.4つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
10グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2024年6月3日に日本でレビュー済み
どの登場人物にも共感できない不思議な小説でした。
高校時代を一緒に過ごしたのにいまは疎遠になって、大人になった彼らは利己的で倫理観すら失っているように見えます。
景気は右肩上がりだけれど、政治的な発言は許されなくて、面倒なことには目をつぶって自分の利益だけを追求する時代。そんな時代に思春期を過ごした彼らは何かが壊れてしまっています。
イヤミス的な印象でした。
高校時代を一緒に過ごしたのにいまは疎遠になって、大人になった彼らは利己的で倫理観すら失っているように見えます。
景気は右肩上がりだけれど、政治的な発言は許されなくて、面倒なことには目をつぶって自分の利益だけを追求する時代。そんな時代に思春期を過ごした彼らは何かが壊れてしまっています。
イヤミス的な印象でした。
2017年6月26日に日本でレビュー済み
読後丸一日経ったというのに、まだ悲しみの余韻。物語はシャオアイという少女が毒を盛られた、一体誰に?というミステリ仕立だけど、犯人探しが主題じゃない。
ミステリと思って読むともどかしくて途中で嫌になると思う。
作風で言うと村上春樹と江國香織を足した感じ。両者好きな方は飽きずに読めるかも。
しかし、文体は美しいんだけど、好きな系統なんだけど、読みにくいのは、訳者ばかりのせいでもないような。原書読んでないからなんとも言えないんだけど、この作者が中国人だけど、英語で書いた小説だからっていうのも少なからず影響してるのではと予想。英語を母語とする人とは違う言語体系、が産む違和感というのか。それがある種の魅力にもなり、引き込まれる作風になっているのでは。
やるせないのは、モーランの善良がいい方向に作用しなかったこと。でもさ、自分もモーランなら、あそこで打ち明けるしかない。黙っていることなんて出来ない。でも、苦しくても、間違っていても、黙っていることが良いこともこの世にはあるんだよね。黙然(モーラン)の意味は無口。なんて皮肉。
ボーヤンがなんか、子どもの頃は可愛かったのに大人になったら結構下衆ヤロウで引いた。でもボーヤンも、あんな事件を経験しちゃって、無邪気に恋愛が出来なくなっちゃったんだろね。でも、最後にスージュオと恋愛出来るのかなあと期待してたら、あっさり別れたのは何故。ルーユイが帰ってきたから?納得いかないのだが。
ミステリと思って読むともどかしくて途中で嫌になると思う。
作風で言うと村上春樹と江國香織を足した感じ。両者好きな方は飽きずに読めるかも。
しかし、文体は美しいんだけど、好きな系統なんだけど、読みにくいのは、訳者ばかりのせいでもないような。原書読んでないからなんとも言えないんだけど、この作者が中国人だけど、英語で書いた小説だからっていうのも少なからず影響してるのではと予想。英語を母語とする人とは違う言語体系、が産む違和感というのか。それがある種の魅力にもなり、引き込まれる作風になっているのでは。
やるせないのは、モーランの善良がいい方向に作用しなかったこと。でもさ、自分もモーランなら、あそこで打ち明けるしかない。黙っていることなんて出来ない。でも、苦しくても、間違っていても、黙っていることが良いこともこの世にはあるんだよね。黙然(モーラン)の意味は無口。なんて皮肉。
ボーヤンがなんか、子どもの頃は可愛かったのに大人になったら結構下衆ヤロウで引いた。でもボーヤンも、あんな事件を経験しちゃって、無邪気に恋愛が出来なくなっちゃったんだろね。でも、最後にスージュオと恋愛出来るのかなあと期待してたら、あっさり別れたのは何故。ルーユイが帰ってきたから?納得いかないのだが。
2018年4月7日に日本でレビュー済み
この著者の短編は一冊読んだことあったのですが長編としては初めて読みました。 主人公出てくる人の一人一人の 心の動きの描写が素晴らしく 思わず引き込まれてしまいます。 あの時こうすればよかったあの時こうすればもっといい方向に変わっていたとか考えて何度も読み返しますが やはりそれはそうなる運命だったのかと納得させられます。
2015年9月6日に日本でレビュー済み
思想と言論が抑圧された中国社会で起きた一人の秀才の服毒事件と、周囲の人々のその後を描いた作品。
事件を心に刻みながらも、自由な世界での人生を求め、各自が葛藤していく様に哀愁が漂い、時代背景も相まって、引き込まれる作品。
著者の作品は初めてだが、他の作品も読んでみたくなった。
事件を心に刻みながらも、自由な世界での人生を求め、各自が葛藤していく様に哀愁が漂い、時代背景も相まって、引き込まれる作品。
著者の作品は初めてだが、他の作品も読んでみたくなった。