本書は、冒頭に「人間の身体は自然の進化から生まれたが、私たち自身の歴史から生まれたものでもある。」と書きつけられたことにも明らかなように、〈自然なもの〉とみなされがちな身体を主題として、〈身体〉という場に走る様々な線を浮かびあがらせ、また様々な理論的思索的な線を書き込みながら、多様な文化を横断し交渉していくなかで〈身体〉を実践的に旅する書物である。
われわれにとって身近な異邦人である三島由紀夫「５照応への強要」は、最も興味深い議論の１つであった。『太陽と鉄』を直接的な対象として繰り広げられるリンギスの議論は、太陽から逃れ言葉の支配へと向かった三島の芸術世界に決定的な役割を果たした、身体（肉体）の特異な様相を見出していく。「ひとつの芸術作品として、力を通じてかたちづくられる身体、身体が固定させる、沈黙する均整のとれた美徳によってではなく、力の無数の光線の配分によって、豪奢の中でかたちづくられる身体の発見は、それ自体が言葉と釣り合うものだった。」一度、身体と言葉の関係が形成されるならば、今度は身体（筋肉）が想像力を駆動させていき、三島的な世界が構築されていく。──もっとも、三島はその宛先を見出せずに自決してしまうのだが……。
本書の全体は、４つのブロック１２のチャプターから構成され、文字通り移動することを通して「異邦＝違法」なものとしての身体と出会い直していく思想的な刺激に満ちた書物であり、身体論の新たなステージを切り拓く重要な参照点となることだろう。
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