地元の書店で購入させていただきました。
春日武彦さんは本書奥付によるなら「一九五一年、京都府生まれ。日本医科大学卒表。医学博士。産婦人科医を経て精神科医に。精神科専門医。(中略)現在、成仁病院院長。『ロマンティックな狂気は存在するか』『顔面考』『無意味なものと不気味なもの』『幸福論』『病んだ家族、散乱した室内』『臨床の詩学』『鬱屈精神科医、占いにすがる』『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』など著者多数」ということです。
本書はタイトルに「私家版」とありますから、正式な精神医学辞典を求めても肩透かしをくらってしまうので注意が必要です。「正式な精神医学辞典」が欲しい方は『縮刷版 精神医学辞典』(弘文堂、2016)などはどうでしょうか。
本書は精神分析で用いられる自由連想法よろしく自由に思考をさまよわせ、それぞれの着想の<弱いつながり>でもって各項目をつなげていく手法を取っています。
春日さんと同業者の斎藤環さんが帯の惹句に書いていらっしゃるように、「稀代の博識精神科医の脳内を、/自在な「連想」に導かれつつ/観光できる、/前代未聞の医学事典」といったところでしょうか。
本書は上下二段組で、かつ490ページもあり、それで税抜き2800円ですから1ページあたり約5.7円で、上下二段組を考慮するとそのコストパフォーマンスは2倍になると思われるので1ページあたり約2.9円と考えて差し支えないのだから相当なお買い得本ではあるまいか、などと蓮實重彦さんのようなことを考えてしまいます。
自由連想法的なことをやってらっしゃるのにも関わらず、昨今リバイバル・ブームの感がある精神分析医ジャック・ラカンや著名な精神科医・精神分析家であった故・小此木啓吾さんには辛辣で、そこがまた考えさせられるところです。
当該箇所を引用しておきます。
ジャック・ラカンについて:「越後にある山里の松山村には、鏡というものがなかった。(中略)ラカンの著作をわたしはいまひとつ理解出来ないのだが、それは鏡像段階といった言葉に出会うと、たちまち松山村に住む人たちや先天性の盲人などはどうなのかといった疑問ばかりが気になって、その先へ全然読み進めなくなってしまうからなのである。ラカンを学ぼうとしても、松山村の呪いがわたしを阻止するのである」(pp.18-19)
故・小此木啓吾さんについて:「(レビュアー註:小此木さんの文章を引用したあとに続けて)いかにも上から目線の慇懃無礼な文章で、しかもヒエラルキーの頂点にいるのが精神分析医であるかのようなニュアンスが鼻に衝く。そうした態度の裏側に、脇の甘さとピーター・パン的な未成熟さを嗅ぎ取らずにはいられない」(pp.371-372)
先述のとおり、上下二段組の490ページにわたる大著ですが、それぞれの項目が半ページかそこらで書かれているので、寝しなに読むのにちょうどいいです。精神医学的ショート・ショートのような感覚で。
もちろん春日さんご自身が書いていらっしゃるように「本書は事典としての実用性に乏しい」(p.1)のですから、そこはもう一度注意を促しておきたいと思います。
この本に興味を持たれた方、春日さんに興味を持たれた方は、春日武彦『臨床の詩学』(医学書院、2011)もどうでしょうか。とてもいい本だと思いますよ。
オススメです。
¥3,080¥3,080 税込
配送料 ¥460 6月15日 土曜日にお届け
発送元: 明文堂書店 高岡射水店 販売者: 明文堂書店 高岡射水店
¥3,080¥3,080 税込
配送料 ¥460 6月15日 土曜日にお届け
発送元: 明文堂書店 高岡射水店
販売者: 明文堂書店 高岡射水店
¥950¥950 税込
配送料 ¥350 6月16日-18日にお届け
発送元: ノースブックセンター(不備・不具合があれば返品・返金対応致します) 販売者: ノースブックセンター(不備・不具合があれば返品・返金対応致します)
¥950¥950 税込
配送料 ¥350 6月16日-18日にお届け
発送元: ノースブックセンター(不備・不具合があれば返品・返金対応致します)
販売者: ノースブックセンター(不備・不具合があれば返品・返金対応致します)
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
私家版 精神医学事典 単行本 – 2017/8/22
春日武彦
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥3,080","priceAmount":3080.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"3,080","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"2h2GDqnvXius3ETWT5EPsAORMa5DUBvsC5HitVhL8YBXJfX6M6kGawsPztEvTQePBT8jWLyGBEgpxqeTC5duy7aHF5VgwuMvZ38OkohieZZz0VrIC3eXhtCp28ff2hviY4kAeFD1KYbGDpxOVIMNEOk7KdGrJJJImB829vPI2Jzn%2BE2yFYXROfZegE2ZZe22","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥950","priceAmount":950.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"950","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"2h2GDqnvXius3ETWT5EPsAORMa5DUBvszLRNPiG8od749SSb%2Br9pBNEh0XDdHBHVDsHUkGrs8OvAsEce4u5hbBKPzQsAhWLl8apyEp6M%2F6OrV3zM1%2BIRVPY%2F5T3uFtqyiyjAm%2FTftpUoo1%2BWRDZohCWyKBo9WoFh5s7nF9eZmTiHXAvrqcPaqg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
五十音順でもABC順でもなく、「連想」で見出し語を立て、医学的記述とガラクタめいた知識を並列させる、前代未聞の精神医学事典。
:::::::::::::
【推薦】
妄想は、アタマで「理解(リカイ)」しようとすればツケ上がる。だからこの事典は、どんどん「野放し」にして妄想を吐き切らせ、心に「口(クチ)」を割らせたのだ!
――荒俣 宏(作家・博物学者)
先生、僕は自分の中の詩人を殺しながら生きているので、呼びさますのはやめて頂けませんか。
――円城 塔(作家)
稀代の博識精神科医の脳内を、自在な「連想」に導かれつつ観光できる、前代未聞の医学事典。
――斎藤 環(精神科医)
:::::::::::::
【推薦】
妄想は、アタマで「理解(リカイ)」しようとすればツケ上がる。だからこの事典は、どんどん「野放し」にして妄想を吐き切らせ、心に「口(クチ)」を割らせたのだ!
――荒俣 宏(作家・博物学者)
先生、僕は自分の中の詩人を殺しながら生きているので、呼びさますのはやめて頂けませんか。
――円城 塔(作家)
稀代の博識精神科医の脳内を、自在な「連想」に導かれつつ観光できる、前代未聞の医学事典。
――斎藤 環(精神科医)
- 本の長さ496ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2017/8/22
- 寸法13.9 x 3.7 x 19.7 cm
- ISBN-104309248179
- ISBN-13978-4309248172
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 私家版 精神医学事典
¥3,080¥3,080
残り1点 ご注文はお早めに
¥1,672¥1,672
最短で6月14日 金曜日のお届け予定です
残り7点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
1951年京都府生まれ。精神科医。医学博士。
『私家版 精神医学事典』『ロマンティックな狂気は存在するか』『はじめての精神科』『問題は、躁なんです』『鬱屈精神科医、占いにすがる』など著書多数。
『私家版 精神医学事典』『ロマンティックな狂気は存在するか』『はじめての精神科』『問題は、躁なんです』『鬱屈精神科医、占いにすがる』など著書多数。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2017/8/22)
- 発売日 : 2017/8/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 496ページ
- ISBN-10 : 4309248179
- ISBN-13 : 978-4309248172
- 寸法 : 13.9 x 3.7 x 19.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 411,401位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.5つ
5つのうち3.5つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
12グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2021年6月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
初版98ページ[糖尿病]の項、『漫画ゴラク』休刊とあるが、休刊していません。『漫画サンデー』の間違いでは?
また、事実誤認ではありませんが、357ページ[詐病]の項、「まちがいの真似」は「きちがいの真似」のまちがいではないか?糾弾のがれのため、わざとかもしれませんが。
内容はとても面白い。
また、事実誤認ではありませんが、357ページ[詐病]の項、「まちがいの真似」は「きちがいの真似」のまちがいではないか?糾弾のがれのため、わざとかもしれませんが。
内容はとても面白い。
2018年7月22日に日本でレビュー済み
ウィキペディアのように次から次へと連想したワードにジャンプしていく変な事典。事典の名に違わぬ分厚さで読みごたえは十分です。まさか本格的に精神医学を学ぶのに本書を手に取る人はいないと思うので、それ以外の素人にとっては別に言葉の並び順がアイウエオ順だろうが”連想順”だろうが構わないわけですが、事典なのに事典っぽくないズレた感じが面白いですね。「それって精神医学と関係あるの?」みたいなワードも選出されてたりもしますが、そのへんは奇書の愛嬌なんでしょう。こんな感じなので実用性はありません。それから個人的には、文章の節々にややシニカルな表現が見受けられることが気になりました。患者の逃避のための妄想や暴走の説明には相性がいいのでしょう。あくまでまっとうな見解を述べているに過ぎないですが、読んでいてちょっとデリカシーに欠けているように感じました。
本の内容とは関係ないですが、装丁にルドンの絵を使うのはちょっと”狙ってやってる感”があってイマイチですね。
本の内容とは関係ないですが、装丁にルドンの絵を使うのはちょっと”狙ってやってる感”があってイマイチですね。
2018年4月25日に日本でレビュー済み
実用的な事典でないのは私家版と書いている時点でわかること。
帯に寄せた円城塔の推薦文が全てを表している。
「先生、僕は自分の中の詩人を殺しながら生きているので、呼びさますのはやめて頂けませんか。」
読み手の妄想を増幅させる装置として最高。
作家仕事をしている身にとってこんなおもしろい「事典」もなかなかない。
帯に寄せた円城塔の推薦文が全てを表している。
「先生、僕は自分の中の詩人を殺しながら生きているので、呼びさますのはやめて頂けませんか。」
読み手の妄想を増幅させる装置として最高。
作家仕事をしている身にとってこんなおもしろい「事典」もなかなかない。
2017年9月14日に日本でレビュー済み
辞典ということで、項目が細かく区切られていて読みやすいだけでなく、「連想」による各項目の繋がりがまとまりがあり読み応えがありました。
精神医学というとかたいイメージを抱いてしまうのですが、春日先生独特の雰囲気のある文章で非常に興味深く読み進めることができました。
今回初めて春日先生の作品を拝読したので、他の著作もチェックしてみたいです。
精神医学というとかたいイメージを抱いてしまうのですが、春日先生独特の雰囲気のある文章で非常に興味深く読み進めることができました。
今回初めて春日先生の作品を拝読したので、他の著作もチェックしてみたいです。
2017年9月6日に日本でレビュー済み
事典とあるが、ユルいエッセイ集である。ただ項目が細かく別れているので、外見上、事典に見えるだけ。装丁も事典っぽい。
いつも気の抜けたコーラのようなエッセイを書いている人なので、今回はしっかりしたものに取り組んだのかと勘違いさせられて中身も見ずに購入。
「精神医学事典」と名付けるなら、もっと「精神医学」に関するしっかりしたものにしてほしい。「本書は事典としての実用性に乏しい」と巻頭で弁明しているが、乏しいにもほどがある。そもそも「乏しい」と自覚しているならなぜ「事典」と名付けたのか。タイトル通りのものを期待して通販で購入すると、かなりガッカリするだろう。『春日武彦ショートエッセイ集』で十分。そのタイトルなら、いつものダラダラさがない分、評価はアップする。
それにしても精神医学ってこんなにブンガク的でいいのか。
いつも気の抜けたコーラのようなエッセイを書いている人なので、今回はしっかりしたものに取り組んだのかと勘違いさせられて中身も見ずに購入。
「精神医学事典」と名付けるなら、もっと「精神医学」に関するしっかりしたものにしてほしい。「本書は事典としての実用性に乏しい」と巻頭で弁明しているが、乏しいにもほどがある。そもそも「乏しい」と自覚しているならなぜ「事典」と名付けたのか。タイトル通りのものを期待して通販で購入すると、かなりガッカリするだろう。『春日武彦ショートエッセイ集』で十分。そのタイトルなら、いつものダラダラさがない分、評価はアップする。
それにしても精神医学ってこんなにブンガク的でいいのか。