博覧強記の鬼才、澁澤氏の愛好物「玩具」を中心に、人類の夢想の系譜を博物誌形式で綴ったもの。自由奔放なイメージの拡がりと高い知見が、読む者を夢と奇想の世界に誘う。著者のメタモルフォシス嗜好も強く出ている。中編「玩具について」と「天使について」、「アンドロギュヌスについて」、「世界の終りについて」の短編三作を収録。
著者の言う「玩具」とは、びっくり箱、自動人形、機械時計等に留まらず、庭園、噴水のような建造物までに及ぶ。それは「役には立たないかもしれない遊具」であるが、創造手にとってはマニエリスム的な情熱を賭けた魅惑的シロモノである。このため、著者は古典主義時代や18世紀以降の「玩具」は評価しない。また、創造手と言っても、命令側(皇帝や大貴族)と実際の作り手の職人がいるが、彼等は「「芸術家の猿」かつ「技術家の猿」(猿は褒称)」と呼ばれる。著者はタップリと事例を示してくれるが、中でもハプスブルク家の「妖異博物館」の常軌を逸した蒐集振りは凄い。魅惑には"他人を驚かせる"事も含まれるのだ。マルコ・ポーロの「驚異の書」中の挿絵も不可思議。「玩具」王の一人、皇帝ルドルフが西欧の精神的な政治的統一を試みたとあるが、"諸神混淆"もまた「玩具」の属性の一つである。「各時代のデカダンスは時代固有の「玩具」を所有していた」とのテーゼは著者らしい。尚、ホムンクルス、ゴーレム、アレクサンドレイア時代、怪物、貝殻については、詳しい註釈が載っていて、これ自身、夢幻的小宇宙を構成している。特に「怪物」の挿絵は圧巻。短編も「天使=両性具有」、「アンドロギュヌスと宇宙原初論」、「生殖に奉仕しない愛欲」、「終末論とエロス」等、著者らしい論考が楽しめる。
「胡桃の中の世界」、「思考の紋章学」の原型とも言うべきスタイルで、「思考の形象化」を図っている様が窺える。まさに夢想が織り成す小宇宙群を描いた魅惑的エッセイ。
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夢の宇宙誌: コスモグラフィア・ファンタスティカ (河出文庫 121I) 文庫 – 1984/10/1
澁澤 龍彦
(著)
- 本の長さ273ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日1984/10/1
- ISBN-104309400965
- ISBN-13978-4309400969
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登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (1984/10/1)
- 発売日 : 1984/10/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 273ページ
- ISBN-10 : 4309400965
- ISBN-13 : 978-4309400969
- Amazon 売れ筋ランキング: - 213,691位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 895位河出文庫
- - 3,835位近現代日本のエッセー・随筆
- - 9,277位評論・文学研究 (本)
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2009年11月12日に日本でレビュー済み
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2017年3月1日に日本でレビュー済み
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怪物や天使やアンドロギュヌス等、気に入った話が満載で、読み応えがありました。ただ、些か難しいのと、自動人形についての項目が矢鱈長かったので、読むには根性が必要です。それさえ乗り越えれば知識が身に付きます。
2003年2月25日に日本でレビュー済み
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何故コスモロギア(宇宙論)ではなくコスモグラフィア(宇宙誌)なのか。それは前者がロゴス(理性)によって対象を腑分けし、かき回し、ずたずたにするのに対し、後者がただグラフェイン(記述する、描く)することに関係があるのではないか。内容は時にグロテスクで世界の終わりにまで話が及ぶのにそれが決して暗くなく、あまりにも純粋無垢な著者のまなざしを感じることのできる。ただただ描かれた逸品。
2015年6月9日に日本でレビュー済み
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『胡桃の中の世界』に続いて読んだが、この本に比べると本書の文章はいささか重たい。
とりわけ最後の章「世界の終わりについて」には「エロティシズムの歴史」に関する実に長い脚注がある。
重たいテーマを軽やかに語るという『胡桃の中の世界』の作者は、ここにはいない。
もっとも、本書の半分以上を占める章、「玩具について」、は素晴らしい。
これだけでも、本書を読む価値はある。
とりわけ最後の章「世界の終わりについて」には「エロティシズムの歴史」に関する実に長い脚注がある。
重たいテーマを軽やかに語るという『胡桃の中の世界』の作者は、ここにはいない。
もっとも、本書の半分以上を占める章、「玩具について」、は素晴らしい。
これだけでも、本書を読む価値はある。
2022年1月11日に日本でレビュー済み
この本の書き出しで語られているものは余りにも大きい。第一、「玩具について」と題されていながら、これから語られるのは<機械と玩具の合いの子>のことらしい。ここからすでに人を食っている。この論考が収められることになる『夢の宇宙誌』は「わが魔道の先達、稲垣足穂氏に捧」げられているが、タルホは本のことを“暗い玩具”と呼んだ。つまり、「うしろめたい」ものととらえているのである。「非実用的」であり、「隠微な裏切りにも似た、ふしぎな欺瞞の快楽にわたしたちを誘い込むもの」ととらえているといってもいいだろう。また、「虚をつかれること、驚かされること、恐怖せしめること」をこそ人生の最大の愉しみととらえているところがある。つまり、これこそアンダーグラウンド宣言であり、オルタナティヴ宣言といっていい。決して表通りを闊歩しようなんて野心のない、きわめて個人的な愉しみこそ無上のことととらえる潔さが心地よい。この姿勢の終始一貫が澁澤龍彦を今に生き永らえさせる原動力となった。その意味において、ここで語られていることは、澁澤のベーシックな考え方の基盤となっただけでなく、その後に続く魔道の愛好者にとって、欠くべからざる指南書となったと思われる。