鬼才、澁澤氏が古今東西の文学を題材に、「思考の形象化」を意図して綴ったもの。日本の古典も題材に採り入れている点と、その後の創作活動の起点になった点が特徴。
まず、柳田「遠野物語」に対する三島の感想と鏡花「草迷宮」を題材に、"小説を小説足らしめる"本質を語る。更に、「草迷宮」の迷宮性が"夢の同心円構造"にある点を明らかにする。加えて、秋成「雨月物語」や「今昔物語」を題材にして、夢の重層性を強調し、夢と現実との関係も同心円と喝破する。「虫めづる姫君」と「不思議の国のアリス」とを対比させ、共に精神分析学上のクリトリス段階期の少女の物語で、大人の女(蝶)として羽ばたく以前の蛹(繭)を描いたものとするのは面目躍如。古今伝授の例として、幻の三木三鳥を挙げ、"概念の内容を問う"事の無為性を語るのも印象的。また、鴎外「山椒太夫」を例に採り、日本人の心性における「姉の力」を強調するが、関連して紹介されるエジプト学者キルヒャーの奇説は気宇壮大。一転、「付喪神」のフェティシズム的解釈の斬新さ。古道具は自然(=精霊)の代替物であり、地獄観念が希薄化した後の"恐怖"の物質的表現であると共に、かつての"執着"の対象だった。フェティッシュと呼ぶ所以である。また、地中の骨壷中の宝石に永遠と無常のパラドックスを感じ、そこから浦島太郎、将棋・囲碁の時間性、神仙思想、ファウストと連綿と繋がる考察。カフカ「家長の心配(私が読んだ池内訳では「父の気がかり」)」のオドラデクの無意味性の魅力の分析。西行の人造人間創造譚とゴーレムと川端「片腕」。ポーと時計とイカロス神話。最後に「とりかへばや物語」が採り上げられる。性的倒錯が横溢する本書への著者の評価は卓抜。
著者の膨大な知識と明晰な論理には何時も通り陶然とするしかないが、自らの創作意欲の高まりが散見される点にアグレッシブさが感じられ、一際魅惑的な内容になっている。

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思考の紋章学 (河出文庫 121K) 文庫 – 1985/10/1
澁澤 龍彦
(著)
- 本の長さ250ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日1985/10/1
- ISBN-104309401295
- ISBN-13978-4309401294
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登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (1985/10/1)
- 発売日 : 1985/10/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 250ページ
- ISBN-10 : 4309401295
- ISBN-13 : 978-4309401294
- Amazon 売れ筋ランキング: - 520,372位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,998位河出文庫
- - 8,409位近現代日本のエッセー・随筆
- - 21,846位評論・文学研究 (本)
- カスタマーレビュー:
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2009年11月8日に日本でレビュー済み
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2010年8月5日に日本でレビュー済み
オーソン・ウェルズがカフカの「審判」を映画化したとき渋沢が鋭く指摘した若い看護婦(ロミー・シュナイダー)の手の両棲類のような膜のことは何で読んだんだか書庫をさがしたらこれだ。「オドラデク」カフカの超短編にあるわけがわからない物体のこと。ここで触れている。私が持っているのは文庫本ではなくがっちりした箱入れの本である。下手な?イラストも渋沢。渋沢と三島は親しくその圧倒的な知識に驚いたという。渋沢は例のサド裁判の被告で法廷にアロハシャツを着て出廷しようとして弁護士(中村稔。詩人)に背広を着てくださいと注意されたという。遅刻ばかりして特別弁護人の埴谷雄高を困らせた。本人は裁判のあとの新宿での飲み会が楽しみで出てきたそうだ。法廷にアロハシャツでもローリングストーンズのべろ出しTシャツを着て出てもかまわないが普通は学生でないかぎりスーツ(ダークか濃紺)にネクタイである。裁判官の心証を考慮して。どうもおもろい人だったらしい。
2018年5月20日に日本でレビュー済み
著者曰く「博物誌ふうのエッセーから短篇小説ふうのフィクションに移行していく、過渡期的な作品」であり、「初めて日本古典を題材にして書き出したエッセー」。
「ペンとともに運動をはじめた私の思考が、抽象の虚空に一つのかたちを描き出し」「鏡を利用したカレイドスコープという玩具があるが、そのように思考の軌跡がさまざまに変化して、無益な、無目的な、無責任な、しかも美しい紋章のようなかたちを描き出してくれたらと、考えたのである」という狙い通り、1篇20ページほどの長さの前半と後半を2つのエピソードで照応させ、そこに至る思考の閃きがめまぐるしく奔騰していく。
試みに『円環の渇き』という1篇。引用される名を連ねると、フィルダウシー→バートン→フローベール→ヴァレリー→ゲーテ→コラン・ド・プランシー→ネルヴァル→ファリード=ディーン・アッタール→ボルヘス→アンリ・コルバンと、わずか4ページだけでも、これだけの連想が織りなされる。
AIが思考の領域にどれだけ肉薄し、近い将来超えるといった議論が喧しくなって久しい。
AIが澁澤龍彦を超える日を、半身の構えで心待ちしたい(笑)。
「ペンとともに運動をはじめた私の思考が、抽象の虚空に一つのかたちを描き出し」「鏡を利用したカレイドスコープという玩具があるが、そのように思考の軌跡がさまざまに変化して、無益な、無目的な、無責任な、しかも美しい紋章のようなかたちを描き出してくれたらと、考えたのである」という狙い通り、1篇20ページほどの長さの前半と後半を2つのエピソードで照応させ、そこに至る思考の閃きがめまぐるしく奔騰していく。
試みに『円環の渇き』という1篇。引用される名を連ねると、フィルダウシー→バートン→フローベール→ヴァレリー→ゲーテ→コラン・ド・プランシー→ネルヴァル→ファリード=ディーン・アッタール→ボルヘス→アンリ・コルバンと、わずか4ページだけでも、これだけの連想が織りなされる。
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