神戸の中学生による連続殺人事件の被害者となった山下彩花ちゃんの御母堂,
山下京子さんの綴った手記である。
犯罪被害者家族の手記はいくつか読みました。
山下さんの手記は,娘さんを犯罪で亡くすという痛ましい経験が,
独特の「哲学」ないし「信仰」に昇華されており,
他の手記とはかなり異なる特徴を持っています。
もし娘さんを失わなかったら,
山下さんは「普通」の考えをもった「平凡」なお母さんとして,
一生を過ごされたのではないだろうか。
本書を読みながら,
山下さんが苦しみを乗り越える過程で,
「生きる力」を見出していった,その人間の潜在的な力の素晴らしさに,
落涙とともに震えるような感動を覚えた。
本書のクライマックスは,
その「生きる力」の章である(89-103頁)。
少年の悪意そのもののハンマーによる一撃を頭に浴びて,
彩花ちゃんはICUで意識不明のまま,
激しく顔を腫らします。
しかし事件から5日後の21日になって,
彩花ちゃんの顔の腫れは一気に引き始めます。
お母さんは,その腫れの引きを見て,感じられます。
「少年の狂気のハンマーは,彩花の頭蓋骨を打ち砕きました。
しかしそのハンマーも,彩花の命の内面を打ち砕くことはできませんでした」(96頁)と。
そして,命は誰も作ることができないし,終わらせることもできない,
「少年の凶行など,彩花の生死を微塵も左右するものではないことを,
彩花の命の力が高らかに宣言した」(97頁)と考えるのです。
彩花ちゃんはこの世の悪や業を浴びて一たび倒れたが,
最後にそれを乗り越えたのだ,と。
その翌日には,彩花ちゃんの顔はまるで笑っているようにもなり,
その顔は「凱旋者の微笑み」のようであったと言います。
そしてその姿に,
この世の悪意や耐えがたい苦しみを乗り越えていこうとする「生きる力」を,
お母さんは得たと言います。
山下さんはもともと,ご自身のお母さんとの関係が色々あって,
素朴な母親らしい愛情に飢えており,
「割烹着の似合う母親を理想」(42頁)としていたと言います。
「お母さん」になるということが,山下さんの理想だったようです。
このような「お母さん」としてあろうとする山下さんの理想と,
彩花さんからもらった「生きる力」が交差して,
最後に驚くような境地に山下さんは達します。
山下さんは,最後に犯人の少年に呼び掛け,
「あなたは私の大切な息子なのだから」(196頁),と語りかけるのです。
最後に,
彩花ちゃん,僕からもありがとう。
あなたとあなたのお母さんの愛が少年に届きますように。
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彩花へ――「生きる力」をありがとう (河出文庫 や 13-1) ペーパーバック – 2010/8/3
山下 京子
(著)
「神戸少年事件」で犠牲となった山下彩花ちゃん(当時十歳)の母が綴る、生と死の感動のドラマ。絶望の底から見いだした希望と、娘が命をかけて教えてくれた「生きる力」を世に訴える。ベストセラーの文庫化。
- 本の長さ216ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2010/8/3
- 寸法10.7 x 0.9 x 15 cm
- ISBN-104309406580
- ISBN-13978-4309406589
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商品の説明
著者について
神戸市須磨区の小学生連続殺傷事件で殺害された山下彩花ちゃんの母親。著書『彩花へ――生きる力をありがとう』。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2010/8/3)
- 発売日 : 2010/8/3
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 216ページ
- ISBN-10 : 4309406580
- ISBN-13 : 978-4309406589
- 寸法 : 10.7 x 0.9 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 380,769位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 143位その他の事件・犯罪関連書籍
- - 274位事件一般関連書籍
- - 1,518位河出文庫
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トップレビュー
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2013年7月7日に日本でレビュー済み
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2019年10月25日に日本でレビュー済み
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著者の山下京子さんは、2017年6月に乳がんにより亡くなられました。
その山下さんが著書で述べていますが、娘の彩花さんが亡くなったのは運命であったと。そしてその最後の時を知っていたかのように、娘さんは前日や数日前に家族と楽しい時間を過ごしたと。
私も母を突然失くしたので、山下さんの書かれた文章が身に染みて理解できます。著書でも書かれてる事を私も経験しましたが、突然亡くなった人は亡くなる前に、どうして残った者に自分の存在を強く印象付けるのでしょうかね。残った者は、助けてあげる事ができなかったのか、と強い自責の念に襲われます。その自責の念を、まるで軽くするかのように、亡くなった人は生前に思い出をたくさん残してくれます。
残った者が、「なぜ自分は生かされているのか、亡くなった人は自分に何を望んでいるのか」と考えた時。亡くなった人の生前の思い出を思い出して、亡くなった人の思いを活かしていこうと考えるのではないのでしょうか。著者もきっとそのように考え、下を向いて泣くのではなく、魂が昇った上を向いて娘さんに語りかけたのではないかと想像します。
生かされた山下さんは、被害者の思いと娘さんの思いを、たくさんの方に伝えることができたのではないかと思います。そして、生かされた意味を考えぬいた山下さんもまた、お若いですが天寿を全うされたのではないのでしょうか。ご冥福をお祈りいたしますと共に、山下さんの前を向く気持ちを私も思い出す事ができました。
ありがとうございました。
その山下さんが著書で述べていますが、娘の彩花さんが亡くなったのは運命であったと。そしてその最後の時を知っていたかのように、娘さんは前日や数日前に家族と楽しい時間を過ごしたと。
私も母を突然失くしたので、山下さんの書かれた文章が身に染みて理解できます。著書でも書かれてる事を私も経験しましたが、突然亡くなった人は亡くなる前に、どうして残った者に自分の存在を強く印象付けるのでしょうかね。残った者は、助けてあげる事ができなかったのか、と強い自責の念に襲われます。その自責の念を、まるで軽くするかのように、亡くなった人は生前に思い出をたくさん残してくれます。
残った者が、「なぜ自分は生かされているのか、亡くなった人は自分に何を望んでいるのか」と考えた時。亡くなった人の生前の思い出を思い出して、亡くなった人の思いを活かしていこうと考えるのではないのでしょうか。著者もきっとそのように考え、下を向いて泣くのではなく、魂が昇った上を向いて娘さんに語りかけたのではないかと想像します。
生かされた山下さんは、被害者の思いと娘さんの思いを、たくさんの方に伝えることができたのではないかと思います。そして、生かされた意味を考えぬいた山下さんもまた、お若いですが天寿を全うされたのではないのでしょうか。ご冥福をお祈りいたしますと共に、山下さんの前を向く気持ちを私も思い出す事ができました。
ありがとうございました。
2021年5月16日に日本でレビュー済み
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辛い事件で心が苦しいのですが、綾香さんのお母さん思考に心が洗われます。偉大な方です。
2019年9月3日に日本でレビュー済み
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関連本
何冊か読みましたが
もしこのお母さんに
少年Aが育てられていたら…
あんな事件は
おきなかったでしょうね
生きる意味を
教えてくれる気がします
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2020年4月24日に日本でレビュー済み
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この事件が起こったとき、私は大学生でした。自分のことで精一杯だったあの頃、ただ忌まわしい事件が起きたという記憶しかありません。
最近たまたま、少年Aに関する記事を読むことがあり、少年Aに関する本(絶歌、「少年A」この子を生んで、淳、彩花へ)を読みました。
「淳」では淳くんのお父様が少年法改正という大きな功績を残されたことを恥ずかしながら初めて知りました。
そして、この「彩花へ」は読み終わった後、何とも言えない前向きな気持ちになりました。
彩花さんのお母様は、悲劇に見舞われたにも関わらず、苦しみの中に希望を見出し、生き抜こうとされました。このような素晴らしい人が存在する限り、この世界は捨てたものではないと思わせてくれました。
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2019年9月6日に日本でレビュー済み
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哲学書です。
当、事件への興味心を満たす類の本ではないと思います。
子を持つ親、また個人として、生き、また生かす事の尊さが著されています。
妻にも読んで欲しいと思います。
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2019年3月17日に日本でレビュー済み
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本物の、強度ある言葉に涙が流れた。
少年Aと同年代の僕は事件当時、なにかがおかしい時代だから、こういう事もあると感じていた。その後のオウム真理教の事件も起こるべくして起こったと感じていた。異常な時代だから、異常なことが起こるんだと。その感覚は今だって、ある。
それを当たり前と思わず、美しく尊い目に見えないものは、確かに存在するんだと、そういうもののために努力したいとこの本を読み思った。いや本当はそれが全てなんだろうなあ。今の世は、汚れた言葉が多すぎて麻痺してしまいそうになる。そういう時は目を閉じてあなた達を感じたいと思います。
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2019年9月6日に日本でレビュー済み
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最後は、犯人をせめないで、運命の一つ、何か意味があることと、とらえたお母様に涙がとまりませんでした。