この本は、メガロポリス東京の盛り場の変遷に照準して、
都市を構成する多層の蠢きをダイナミックに描出した都市史を扱ったものです。
通常の歴史は、むしろ政治や経済に注目して、時期区分をし、
割にかっちりとした時代意識をあてがいつつ、時間軸に沿って展開し、
また同時代の文化や社会現象をもとらえてゆくものですが、
この本では、上野、浅草、銀座、新宿、渋谷、原宿…などと、
時代とともに移ろい行く過渡的な場所(トポス)を若者の集い場として追いかける中で、
当の時代において、大衆的な欲求だとか、未来への展望的足がかりだとか、
といったことを風物や出来事の中に探求し、そうした営為をつうじて、
重複したり交錯したりしながら蠢く領域性での、多層の離合集散を描出し、
ひとつの開かれた都市史としているようです。
(因みに、本書が出たのは1980年代なので、その頃まではよくカバーされています。
学問にも流行があるので、その後を追った都市論もあるにはあるようですが、
当時は都市論が最ブームだった点を付言しておきます)
盛り場といえば、「盛り場徘徊」などが雑多な事件の温床化したりもしてきましたが、
少なくとも、明治期~高度成長期~80年代にかけての都市のすがたは、
内国勧業博覧会の開催や近代的なパビリオンの設営などにも象徴されるように、
新時代の到来とともに民衆芸能も新たな局面を迎えるなど変化をこうむったわけで、
それは多くの分野の文学作品などにも如実に反映されています。
やがて、戦後を迎えると、今度はその復興と新規の経済成長が課題となる中で、
若者の抱える課題も変化を受け、緩やかな群集行動なども芽生え、
例えば新宿あたりには、フーテンやにせヒッピーという人々もむれつどい、
それぞれに自己主張をし、20年も過ぎると今度は、まちなかを暴走族ライダーが疾駆し、
竹の子族らが原宿あたりで踊り始めましたが、しかしそれらに飽き足らぬ孤独な少年少女も現れ、
睡眠薬や鎮痛剤、シンナーなどの有機溶剤に手を出したり、と深刻は度を極め、
まさに社会問題化していったのでした。ときあたかも、乱塾時代の幕開けと重なり、
学校教育にも大きな影を投げ、その合間をぬうように、蜂の巣パーマやクモの巣アタマなどがはやり、
松田聖子ら数々の流行歌を生んでいったのでした。
戯曲家・演出家の如月小春さんも、その都市論の中で、
いろんな刺激に満ちた都市生活と交流の契機について述べていますが、
喧騒と猥雑に満ちた都市は一個のハレ舞台でもあり、日常的なケの世界とは異質な部分もあるので、
例えば本書で扱っているドラマ性も、そうした重複的、多層的な都市の流動性を指しているとも解されます。
東京南部でアルバイトをし、多摩川べりをジョギングなどしていた90年代初めのあのころ、
この本と出会いました。当時まだ出たばかりで、初見の折には斬新さを感じたものでしたが、
今は少しデータは古くなってはいるけれども、都市論や社会史の手法を知るうえでは、
とくに問題ないと思われるので、ここにおすすめしておきます。
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都市のドラマトゥルギー (河出文庫) (河出文庫 よ 8-1) 文庫 – 2008/12/4
吉見 俊哉
(著)
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「浅草」から「銀座」へ、「新宿」から「渋谷」へ――人々がドラマを織りなす劇場としての盛り場を活写。盛り場を「出来事」として捉える独自の手法によって、都市論の可能性を押し広げた新しき古典。
- 本の長さ423ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2008/12/4
- 寸法10.6 x 1.6 x 14.9 cm
- ISBN-104309409377
- ISBN-13978-4309409375
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商品の説明
著者について
1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専攻は社会学・文化研究。著書に『博覧会の政治学』『メディア時代の文化社会学』『カルチュラル・ターン、文化の政治学へ』『親米と反米』など多数。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2008/12/4)
- 発売日 : 2008/12/4
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 423ページ
- ISBN-10 : 4309409377
- ISBN-13 : 978-4309409375
- 寸法 : 10.6 x 1.6 x 14.9 cm
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年2月1日に日本でレビュー済み
2021年7月14日に日本でレビュー済み
まず序章は38pもあり、内容も専門的で、いきなり疲れてしまう。
講義始めの導入で聴者の興味をひくのではなく、いきなり専門用語いっぱいの持論を展開されるような感じです。
ただ本書が何を議題としているのかが書いてある章でもあるので、後の各章の内容を議題に照らして、と言う形で振り返ってくる。
盛場の形成を出来事、盛場の街を舞台、街並みや施設、娯楽を舞台装置として、集う人々は観客か演者か?
集う人々はどのような人々で、そこは彼らによる盛場なのか、彼らの為の盛場なのか? 時代と共に変遷する盛場とその特徴を、出来事、舞台として見ていこうとする。正確ではないだろうがザックリとそんな感じに受け取り読み進めた。
第Ⅰ章は先達の研究や議論を紹介、比較したり、分類、体系化きたりと、とにかく論文然とした、資料研究であって、当時の盛場の光景を雰囲気を想起させる様なこともほぼない為、明治モダンや大正ロマン、昭和レトロ、戦後と続く盛り場の変遷やそこでの人々の姿や文化を本書に求めた読者は、この時点で読むのを止めるかもしれない。
しかし第Ⅱ章からは一転、
明治の文明開化以降、西洋化の流れの中での上野などにおける、江戸の盛場からの変容。
東京で繁華な浅草の変容と、歴史と街の特殊性。
銀座とその周辺の創られた街の誕生とその裏側。そして大震災後日本の盛場の中心たる銀座、その浅草との違いは何なのか?
戦後〜60年代の新宿の興り、70年代〜の渋谷の興りなど、東京という都市と人々の生活の変容、どんな人々が集まる街なのか?、言われてみると肯けるような内容となっており非常に興味深く、読み物として面白いです。
上記した各盛場をもっと詳しく著した書籍は沢山ありますが、時代に則した全体としての変遷や相対的な比較、ボリュームとして腹八分目と言った感じでちょうど良い。
タイトルにも書きましたが、美味しい所だけ食べたいなら、序章は飛ばして第Ⅱ章から読むのがオススメです。
講義始めの導入で聴者の興味をひくのではなく、いきなり専門用語いっぱいの持論を展開されるような感じです。
ただ本書が何を議題としているのかが書いてある章でもあるので、後の各章の内容を議題に照らして、と言う形で振り返ってくる。
盛場の形成を出来事、盛場の街を舞台、街並みや施設、娯楽を舞台装置として、集う人々は観客か演者か?
集う人々はどのような人々で、そこは彼らによる盛場なのか、彼らの為の盛場なのか? 時代と共に変遷する盛場とその特徴を、出来事、舞台として見ていこうとする。正確ではないだろうがザックリとそんな感じに受け取り読み進めた。
第Ⅰ章は先達の研究や議論を紹介、比較したり、分類、体系化きたりと、とにかく論文然とした、資料研究であって、当時の盛場の光景を雰囲気を想起させる様なこともほぼない為、明治モダンや大正ロマン、昭和レトロ、戦後と続く盛り場の変遷やそこでの人々の姿や文化を本書に求めた読者は、この時点で読むのを止めるかもしれない。
しかし第Ⅱ章からは一転、
明治の文明開化以降、西洋化の流れの中での上野などにおける、江戸の盛場からの変容。
東京で繁華な浅草の変容と、歴史と街の特殊性。
銀座とその周辺の創られた街の誕生とその裏側。そして大震災後日本の盛場の中心たる銀座、その浅草との違いは何なのか?
戦後〜60年代の新宿の興り、70年代〜の渋谷の興りなど、東京という都市と人々の生活の変容、どんな人々が集まる街なのか?、言われてみると肯けるような内容となっており非常に興味深く、読み物として面白いです。
上記した各盛場をもっと詳しく著した書籍は沢山ありますが、時代に則した全体としての変遷や相対的な比較、ボリュームとして腹八分目と言った感じでちょうど良い。
タイトルにも書きましたが、美味しい所だけ食べたいなら、序章は飛ばして第Ⅱ章から読むのがオススメです。
2011年8月30日に日本でレビュー済み
はじめタイトルに惹かれました。
これ、文庫本なのですが、1260円。
高いなぁと思いつつ、買ったのですが、
内容は奥が深く、とても面白かったです。
浅草、銀座、新宿、渋谷の順に、
これらの町が都市(“盛り場”)になっていく過程を追っている内容です。
ブラタモリとか好きな人は、きっと楽しめる内容だと思います。
個人的には、<新宿的なるもの>が非常に興味深かったです。
この先も、戦後ほどではないにしろ、都市が移ろっていくことを思えば、
刺激になる内容が多かったと思います。
これ、文庫本なのですが、1260円。
高いなぁと思いつつ、買ったのですが、
内容は奥が深く、とても面白かったです。
浅草、銀座、新宿、渋谷の順に、
これらの町が都市(“盛り場”)になっていく過程を追っている内容です。
ブラタモリとか好きな人は、きっと楽しめる内容だと思います。
個人的には、<新宿的なるもの>が非常に興味深かったです。
この先も、戦後ほどではないにしろ、都市が移ろっていくことを思えば、
刺激になる内容が多かったと思います。
2012年11月12日に日本でレビュー済み
興味深いテーマでありますし、実際面白く読みましたが、正直不満だらけであるのも事実です。最大の不満は、結局ここには「活きた人間」が出てこないということ。盛り場に集う人々はある階層や集団として括られているだけで、結局盛り場に赴く「心性」がまるで問題とされていない気がします。特にそれは浅草について顕著で、しかもそこでは吉見氏の視線は完全な「上から目線」で官僚的な立場に終始します。新宿のところだけは1960年代後半の若者文化との絡みで若干その「心性」が書かれますが、その後の渋谷も含め、全体としては社会現象のみに注目したにとどまるとの感が強いです。要は生きた人の活きた動きを追っていないと思うのですよ。今現在渋谷を闊歩する少年少女にこの本の表現(劇場とかまなざしだとか)や結論を伝えたところで、「何それ?わけわかんない!」と言われて終わりでしょうな。飲み屋をはしごするオヤジには「ぶつくさゴタク並べてないでちゃんと働け!」と怒られるな。「盛り場」に赴くその心性、「盛り場」が提供してくれるものを把握し、理解しないならば、しょせんは政策担当官僚が審議会で述べる作文と同じ冷たい文で終わってしまうよ。ほか、結論部で言及される「家郷(出郷)」云々などはむしろ的外れにすら思いますし、同感できないところは多いなあ。いろんな分析概念を披歴して道具立ては立派なんだけど、結局対象に愛情やこだわりが感じられないんだよね。学者センセイってのはこんなものなのかな?