ゲーテのファウストを読んだ時、神々が後から後から押し寄せてくる展開に辟易したが、『新曲』も基本的な骨格は同じ。
つまり、『新曲』はゲーテも手本とした西洋文化の源流の一つだということだろう。
(双方に共通する、登場人物・神々の多さは、教養書としての役割もあるのだろう。)
読んでいる最中だが、明晰な作品世界は、宗教書というよりは、科学の本に近い印象だ。論理的で強い一貫性を感じさせる。
多層な地獄の世界は、同じく多層な仏教の悟りの世界を想起させる。
(ただ、仏教はより壮大でイメージしづらいが。
もしかしたら、アーリア民族の原記憶を表しているのか、とも思う。
または、仏教はキリスト教の影響で体系化した、という話もあるので、こっちかもしれない。いずれにせよ、基本構造は酷似している。)
地獄の各層は、シンプルな分、明晰な基準によって分けられている。
トルストイの小説のようなリアルさもある。
ダンテの、時代を超えて優れた頭脳・筆力を感じさせる。
シェークスピアには驚かされたが、ダンテも同じだ。
西洋には、優れた人々がたくさんいる。
西洋の精神の本質はこの覚醒した意識である、ということを再認識しながら読んでいる。
理知主義ということだ。
(ただ、我々からすれば少々シンプル。)
別な説明をすれば、作品世界が一つの統一されて閉じられた宇宙になっている、ということ。
つまり、他の宇宙と交わらない。
作品にはその作品世界のルールがあり、他と比較していくら特殊であろうとそれで統一されていればよい、ということ。
(しかし、この閉鎖性は危ない。
トルストイは、もう一つのナポレオン戦争を作った、と言われた。)
東洋の作品世界は現実世界を反映している。
西洋を考えるうえでも、東洋と西洋の違いを考えるうえでも最も基本的な作品だ。
というより、それらを知る上で、瞠目すべき作品だ。
(それにしても、あのようなあくまで意識的であろうとする感覚はどこから生まれてくるのだろうか?乾燥した明るい地中海世界の環境からであろうか?)
(追加)
逆接的な言い方だが、神と科学は同一である西洋精神(イスラムも同じだろう。つまり、神は真理そのものだ。)の実態を肌で感じる。
科学精神と乾燥した気候は切り離せない。
なぜなら、一年後、厳密に元の位置に復帰する天体は、この世が誰かによって作られたとする認識を生む。それを最も強く感じさせるのは、毎日繰り返される乾燥した明晰な夜の天体だ。神はその延長線にある。星々は人類の発祥とともにあり、人類を今日まで導き、そして今後の人類の在りようを規定する。我々はそこから逃れることはできない。自然の規則性に気づいてしまった人類の宿命だ。夜空は人類を決定している。そして、飽くなき規則への憧れ、反発……
こんなところまで思いを馳せてしまう作品だ。
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神曲 地獄篇 (河出文庫 タ 2-1) 文庫 – 2008/11/20
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1300年春、人生の道の半ば、35歳のダンテは古代ローマの大詩人ウェルギリウスの導きをえて、地獄・煉獄・天国をめぐる旅に出る……絢爛たるイメージに満ちた、世界文学の最高傑作を最高の名訳で贈る。第1部地獄篇。
- ISBN-104309463118
- ISBN-13978-4309463117
- 出版社河出書房新社
- 発売日2008/11/20
- 言語日本語
- 寸法10.6 x 1.9 x 14.9 cm
- 本の長さ509ページ
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商品の説明
著者について
1265年フィレンツェ生まれ。西洋文学最大の詩人。政治活動に深くかかわり、1302年政変に巻き込まれ祖国より永久追放。以後、放浪の生活を送る。その間に、不滅の大古典『神曲』を完成。1321年没。著書に『帝政論』他
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2008/11/20)
- 発売日 : 2008/11/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 509ページ
- ISBN-10 : 4309463118
- ISBN-13 : 978-4309463117
- 寸法 : 10.6 x 1.9 x 14.9 cm
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- - 1位イタリア文学研究
- - 5位ギリシャ・ラテン文学
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2023年9月18日に日本でレビュー済み
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2023年8月29日に日本でレビュー済み
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「第一歌」について。
主人公ダンテは、光指す、幸福な生き方が見えていながら、彼自身の罪や堕落に遮られて、完全に人生に行き詰まってしまいます。
自分の意志や能力だけでは、もはやどうすることも出来なくなった時、「人間理性」を象徴する、詩人ウェルギリウス登場。
彼はダンテの精神を救うための、導き手となる事を約束します。
救済の手段として、直接上昇するルートを諦めて、なんと一旦、正反対に堕ちるところまで堕ちるプランを提案するのです。
この様な人生の行き詰まり、この様な発想の転換。
現代の読者にとっても、大切なメッセージを含んでいると思います。
「地獄篇」について。
著者ダンテは13~14世紀当時のキリスト教の倫理に則って、それに従えなかった人間を、「悪人」として地獄に据えています。
が、ダンテ自身の内なる倫理観は、必ずしもそれに従属していたわけではないようです。
その時代の絶対的な権力や価値観と、ダンテが本当に伝えたい真実と、相反する要素をギリギリのバランスで執筆したところに、この「地獄篇」の面白さ、素晴らしさがあるように思います。
形式的には中世の権威を敬いつつ、内面的には様々な詩や暗喩を駆使して、ルネサンス精神を謳いあげた名著ではないでしょうか。
主人公ダンテは、光指す、幸福な生き方が見えていながら、彼自身の罪や堕落に遮られて、完全に人生に行き詰まってしまいます。
自分の意志や能力だけでは、もはやどうすることも出来なくなった時、「人間理性」を象徴する、詩人ウェルギリウス登場。
彼はダンテの精神を救うための、導き手となる事を約束します。
救済の手段として、直接上昇するルートを諦めて、なんと一旦、正反対に堕ちるところまで堕ちるプランを提案するのです。
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「地獄篇」について。
著者ダンテは13~14世紀当時のキリスト教の倫理に則って、それに従えなかった人間を、「悪人」として地獄に据えています。
が、ダンテ自身の内なる倫理観は、必ずしもそれに従属していたわけではないようです。
その時代の絶対的な権力や価値観と、ダンテが本当に伝えたい真実と、相反する要素をギリギリのバランスで執筆したところに、この「地獄篇」の面白さ、素晴らしさがあるように思います。
形式的には中世の権威を敬いつつ、内面的には様々な詩や暗喩を駆使して、ルネサンス精神を謳いあげた名著ではないでしょうか。
2023年4月9日に日本でレビュー済み
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外国語の詩は、原文を読まない限り、詩として味わうことはできない。
翻訳は、原文の意味を反映した翻訳者の書いた「詩」である。
しかし、翻訳であっても、原意を把握することはできる。
神曲は欧米文化に大きな影響を与えたので、読む意味がある。源氏物語や古今和歌集が日本の文化に与えた影響のようなものか。
この本は、貴族と政治家の俗世界への執着、怨念、宗教的迷信だらけで退屈だが、翻訳の表現は美しい。原文がどうかは知らない。
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この本は、貴族と政治家の俗世界への執着、怨念、宗教的迷信だらけで退屈だが、翻訳の表現は美しい。原文がどうかは知らない。
2014年1月22日に日本でレビュー済み
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この世界観が今の世界にも当てはまるのか・・
微妙ですが・・・
消化しながら読む感じです
微妙ですが・・・
消化しながら読む感じです
2022年12月27日に日本でレビュー済み
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名前だけは知ってましたが、50手前ではじめて読みました。
まだ読みきってませんが、ああ面白い!
キリスト教、ギリシャ神話、ローマ世界など無知に等しい私ですが、未知のその世界が、ダンテさんの天才としか言い様の無い文章力のおかげで、まるで自身がこの物語の場にいて、実際に五感で体験しているかのような錯覚をおぼえます。
700年の時空を超える地獄巡りの旅。現実の旅よりリアルで貴重かも。
まだ読みきってませんが、ああ面白い!
キリスト教、ギリシャ神話、ローマ世界など無知に等しい私ですが、未知のその世界が、ダンテさんの天才としか言い様の無い文章力のおかげで、まるで自身がこの物語の場にいて、実際に五感で体験しているかのような錯覚をおぼえます。
700年の時空を超える地獄巡りの旅。現実の旅よりリアルで貴重かも。
2019年8月19日に日本でレビュー済み
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誰もが名前は知っているが読んだ人は少ない、そうした古典の代表がこの神曲だろう。
しかし、実際に読めばこれほど興味深く面白い古典はないと断言できる。特にこの地獄篇は面白い。
実は、私は40年前の学生時代にこの本の訳者の平川祐弘先生の神曲講義を受講していた。平川先生の講義は訳文の何節かを艶のあるバリトンで朗々と読み上げてから解説を加えていくという形式で、地獄の門の有名な碑文などはイタリア語の原文も朗読されていたことを昨日のことのように印象深く覚えている。
この翻訳は当時の河出書房新社の緑版を基本的に引き継ぎ、何カ所か訳文と注を改訂したようであるが、わかりやすい口語で書かれていて、かつ叙事詩ゆえに朗読に耐えるようなリズムのある文体になっている。したがって、読者は朗読するようにゆっくりと味読すべきである。各歌ごとに最初に訳者の要約が置かれ、末尾に詳しい訳注が加えられているのも親切である。
ちなみに、岩波文庫の山川訳は文語体で書かれているうえ解説が少なく、また集英社版の寿岳訳はブレイクの挿絵が美しいがあえて擬古文で書かれていて読みづらい。やはり平川訳がもっとも優れていると感じる。
今回、Kindle版で読み直したが、本文の字が大きく読みやすいうえ、ドレの挿絵を拡大すると細部がよくわかってうれしい。
13世紀のフィレンツェの人であるダンテは、中世神学の影響を受けた中世人であると同時に、ルネサンスの胎動期にあってトスカーナ方言による革新的口語詩を書いたルネサンスの人でもある。しかも、イタリア都市国家の市民の例に漏れず、熱い政治的人間であり、神曲を書いた時代は政争に敗れてフィレンツェを追放されていた。そのため、地獄篇では当時のイタリアの政財界、教会の著名人物が次々と登場し、生前の悪行と死後の応報をダンテに生々しく、時にはユーモラスに語るのである。この人間の業の深さと罪悪に因果応報する多種多様な地獄の刑罰を描く想像力のすごさがこの地獄篇の大きな魅力になっている。
もちろん、悪行だけではなく、不義の恋愛ゆえに殺されて地獄をさまようパオロとフランチェスカの美しい物語や、老いても冒険心やまずジブラルタルを超えて航海に乗り出して難破したオデュッセウスとその仲間たちの物語など、魅力は尽きない。
神曲の構成は、導入の1歌(暗い森に迷う)と地獄篇、煉獄篇、天国篇各33歌の合計100歌からなる叙事詩であり、形式上も内容上も実に均整がとれており、詩人ダンテが作品を磨き上げたものといえる。
なお、「神曲」の原題はDivina Commedia(神聖喜劇)であり、ダンテ自身はCommediaと名付けたらしい。「神曲」というネーミングは森鴎外が「即興詩人」の中で名付けたことに由来する。
(煉獄篇レビューに続く)
しかし、実際に読めばこれほど興味深く面白い古典はないと断言できる。特にこの地獄篇は面白い。
実は、私は40年前の学生時代にこの本の訳者の平川祐弘先生の神曲講義を受講していた。平川先生の講義は訳文の何節かを艶のあるバリトンで朗々と読み上げてから解説を加えていくという形式で、地獄の門の有名な碑文などはイタリア語の原文も朗読されていたことを昨日のことのように印象深く覚えている。
この翻訳は当時の河出書房新社の緑版を基本的に引き継ぎ、何カ所か訳文と注を改訂したようであるが、わかりやすい口語で書かれていて、かつ叙事詩ゆえに朗読に耐えるようなリズムのある文体になっている。したがって、読者は朗読するようにゆっくりと味読すべきである。各歌ごとに最初に訳者の要約が置かれ、末尾に詳しい訳注が加えられているのも親切である。
ちなみに、岩波文庫の山川訳は文語体で書かれているうえ解説が少なく、また集英社版の寿岳訳はブレイクの挿絵が美しいがあえて擬古文で書かれていて読みづらい。やはり平川訳がもっとも優れていると感じる。
今回、Kindle版で読み直したが、本文の字が大きく読みやすいうえ、ドレの挿絵を拡大すると細部がよくわかってうれしい。
13世紀のフィレンツェの人であるダンテは、中世神学の影響を受けた中世人であると同時に、ルネサンスの胎動期にあってトスカーナ方言による革新的口語詩を書いたルネサンスの人でもある。しかも、イタリア都市国家の市民の例に漏れず、熱い政治的人間であり、神曲を書いた時代は政争に敗れてフィレンツェを追放されていた。そのため、地獄篇では当時のイタリアの政財界、教会の著名人物が次々と登場し、生前の悪行と死後の応報をダンテに生々しく、時にはユーモラスに語るのである。この人間の業の深さと罪悪に因果応報する多種多様な地獄の刑罰を描く想像力のすごさがこの地獄篇の大きな魅力になっている。
もちろん、悪行だけではなく、不義の恋愛ゆえに殺されて地獄をさまようパオロとフランチェスカの美しい物語や、老いても冒険心やまずジブラルタルを超えて航海に乗り出して難破したオデュッセウスとその仲間たちの物語など、魅力は尽きない。
神曲の構成は、導入の1歌(暗い森に迷う)と地獄篇、煉獄篇、天国篇各33歌の合計100歌からなる叙事詩であり、形式上も内容上も実に均整がとれており、詩人ダンテが作品を磨き上げたものといえる。
なお、「神曲」の原題はDivina Commedia(神聖喜劇)であり、ダンテ自身はCommediaと名付けたらしい。「神曲」というネーミングは森鴎外が「即興詩人」の中で名付けたことに由来する。
(煉獄篇レビューに続く)
2019年12月11日に日本でレビュー済み
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若干、焼けが感じられましたが、全体に殆ど綺麗でOKでした。