2001年の本。著者は著名な脳神経学者だが、最近、惜しくも亡くなられた。すごくおもしろい本だった。
曰く・・・
生物学を突き詰めていくと化学に達し、化学を突き詰めていくと物理学に達する。
熱力学第二法則とは、放っておくと、物事はすべて確率の高い状態に向かって進んでいく、という万物の基本法則を表したもの、と解釈できる。
生命を維持するための営みとは、エントロピーを低く保つための営みである。動物にとって、低いエントロピーの源は食物である。
太陽のみが地球に富をもたらすエネルギーを与えてくれる存在であり、人間はその富を奪い合っているにすぎない。
昼。太陽からの光が地球に到達する。エントロピーの低いエネルギーの獲得。夜。地球から熱が宇宙に逃げていく。エントロピーの高いエネルギーの放出。このようにして地球のエネルギーはほとんど一定に保たれ、生命活動に必要な低いエントロピーが保たれる。
古来、人間はいかに正確に自分のこころを伝えるかに多大な努力を払ってきた。学問も芸術も、ひとのこころに宿った何かを伝える媒体として生まれた。言語そのものも、ヒトの脳に生まれた高い知性を他に伝えるための手段として発達した機能である。
ヒトは言語を教えられるのではなく、自分から獲得する。幼児は知性の発達とともに意思を持つ。意思の伝達法として自分の置かれた環境から言語機能を獲得する。
放っておくとランダムなパターンに移行してしまう系の中で何らかの意図的なパターンが作られていることが「情報」である。
あるニューロンネットワークが規則正しく、決められたパターンで秩序正しく興奮するか静止するかが決められている状態は、ランダム性の低い状態、つまり、エントロピーの低い状態である。ここにはたくさんの情報が含まれている。これが記憶である。熱力学第二法則によればエントロピーは常に増大する。記憶は次第に薄れていく運命にある。
民主国家では民衆の総意に基づいて論理的に法律が作り上げられることになっている。したがって、公理が必要となる。それが憲法である。憲法に照らして、法律の正当性を判断する。
脳とは、3つの入力(一次視覚野:視覚、聴覚、触覚)から情報を獲得し、連合野で処理し、1つの出力(一次運動野)へと送り出す自動制御装置のようなもの。大脳のほとんどの部分は連合野。
前頭前野がなくてもヒトは普通の生活を送れる。人間の条件は「理性を持ち、感情を抑え、他人を敬い、優しさを持った、責任感のある、決断力に富んだ、思考能力を持つほ乳類」である。ヒトが他のほ乳類と違った存在であるためには、前頭前野の機能を発揮しなければならない。前頭前野の機能は「人間として生きていくこと」に必須。
ヒトの言語が特別に発達した要因は言語機能そのものにあるわけではない。高度の言語機能を用いなければ伝達できなかった高い知能の存在が重要だった。その結果、必然的にヒトの言語機能が高度化した。ヒトがヒトたるゆえんは言語を得たことではなく、前頭前野の機能を持ち得たことにある。
幼児は高度な知能に支えられた思考機能の発達の過程で、与えられた環境の中から自己の思考を伝える媒体となる言葉を見つけ出し、(特別な教育を受けなくても)言語機能を獲得する。その反面、読字能力は正式な教育の結果として備わる能力である。
1944年、プランクの唯一の息子・アーウィンはヒトラー暗殺の陰謀に加担したとして死刑宣告される。実際に加担したのかどうかは不明。ナチスは、プランク(当時から高名な科学者だった)がナチスに入党するなら死刑を終身刑に減刑すると妥協案を提示するが、プランクは拒否し、アーウィンは処刑される。このときプランクは86歳。
みたいな話。
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いち・たす・いち: 脳の方程式 単行本 – 2001/9/1
中田 力
(著)
- 本の長さ154ページ
- 言語日本語
- 出版社紀伊國屋書店
- 発売日2001/9/1
- ISBN-104314009004
- ISBN-13978-4314009003
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
人の脳がどのようにして心や意識をもつのか。この究極の謎に迫る革命的理論の誕生。脳をめぐる複雑系の諸概念を説明しつつ、脳の作動原理、大脳チップと意識のモデルを提示。頭がガタガタにゆすぶられる知的興奮の1冊。
登録情報
- 出版社 : 紀伊國屋書店 (2001/9/1)
- 発売日 : 2001/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 154ページ
- ISBN-10 : 4314009004
- ISBN-13 : 978-4314009003
- Amazon 売れ筋ランキング: - 417,133位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 16,727位医学・薬学・看護学・歯科学
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トップレビュー
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2018年12月29日に日本でレビュー済み
2007年7月21日に日本でレビュー済み
この本の前半9割は本論とは直接関係しないものです。そのうえ、どうも腑に落ちない箇所も多々あります。
たとえばノイマンが算出した計算式が無ければ原爆の完成が無かった、とあるが(p38)、
これはどうなのか。長崎に落とされたプルトニウム原爆はそうかもしれないが、
広島ののウラン原爆はノイマンがいなくても完成されたのではないだろうか?
また、1+2+3+4+・・・=−1/12 という所でも、ゼータ関数の関数等式
の説明らしきものがあるが、非常に怪しい。
色々な科学の触りだけを知りたい人には良い本かもしれませんが、
それにしても1800円は高すぎる気がします。
たとえばノイマンが算出した計算式が無ければ原爆の完成が無かった、とあるが(p38)、
これはどうなのか。長崎に落とされたプルトニウム原爆はそうかもしれないが、
広島ののウラン原爆はノイマンがいなくても完成されたのではないだろうか?
また、1+2+3+4+・・・=−1/12 という所でも、ゼータ関数の関数等式
の説明らしきものがあるが、非常に怪しい。
色々な科学の触りだけを知りたい人には良い本かもしれませんが、
それにしても1800円は高すぎる気がします。
2015年1月26日に日本でレビュー済み
大脳のコラムにある鉛筆の芯に相当する空所(ラジアル線維が抜けたところ)に中脳網様体を熱源とする音波と渦波が発生し、コラムの最上層の出口から水の波紋のように波が脳全体に広がり、
その渦波によって意識が保たれている… 絵になっていますね。
ガスは直接、脳・意識に作用する
そう、麻酔は作用機序が分かっていないけど、脳にばっちり効きます。全身麻酔薬は気化して使ったり、そのものがガスであったり、お酒などのアルコールも揮発性ですね。
飛行機に乗って気圧が下がるとさらにお酒が効くことは皆も体験していることかもしれません。
実証可能かどうかはさて置き、科学よみものとしておもしろかった。
その渦波によって意識が保たれている… 絵になっていますね。
ガスは直接、脳・意識に作用する
そう、麻酔は作用機序が分かっていないけど、脳にばっちり効きます。全身麻酔薬は気化して使ったり、そのものがガスであったり、お酒などのアルコールも揮発性ですね。
飛行機に乗って気圧が下がるとさらにお酒が効くことは皆も体験していることかもしれません。
実証可能かどうかはさて置き、科学よみものとしておもしろかった。
2013年6月30日に日本でレビュー済み
著者は脳神経学の専門医であると同時に物理工学の専門家でもあり、ファンクショナルMRIの世界的権威と呼ばれているそうです。
本書は「脳と心」を様々な観点から分析しています。
本書で取り上げられている数々のトピックは、難しいものが少なくありません。具体的には、量子力学、デジタルコンピュータ、神経学、エントロピー、複素数空間、民主主義、進化論などです。しかし筆者はこれらの本質や魅力をとても平易な言葉で簡潔に説明してくれています。
本書は「脳と心」を様々な観点から分析しています。
本書で取り上げられている数々のトピックは、難しいものが少なくありません。具体的には、量子力学、デジタルコンピュータ、神経学、エントロピー、複素数空間、民主主義、進化論などです。しかし筆者はこれらの本質や魅力をとても平易な言葉で簡潔に説明してくれています。
2007年3月28日に日本でレビュー済み
21世紀の科学のフロンティアの最大のひとつが、「脳科学」なかでも、「人間の意識」の所在であることは、論を俟たないでしょう。
そんな難問にあっさりと答え(としての仮説)を提供してくれるのがこの本です。
「自然界には「全能の神」は存在しないのだから、目的を持ったデザインは作れない。すべてが必然的に自然発生しなければならないのである」
ここから、遺伝子上のDNAは『生物を作る青写真』ではなく、生物が自分の体を自己形成していくための『ルール』が書かれたものである、と看破します。だからハエの2倍しかないDNAで「生物としての人間」が記述できてしまうのです。
そんな難問にあっさりと答え(としての仮説)を提供してくれるのがこの本です。
「自然界には「全能の神」は存在しないのだから、目的を持ったデザインは作れない。すべてが必然的に自然発生しなければならないのである」
ここから、遺伝子上のDNAは『生物を作る青写真』ではなく、生物が自分の体を自己形成していくための『ルール』が書かれたものである、と看破します。だからハエの2倍しかないDNAで「生物としての人間」が記述できてしまうのです。
2005年6月19日に日本でレビュー済み
血沸き、肉躍る! とは、
まさに、こういう本に出遭った時に云う言葉。
・・と、いっても凡百のハードボイルドでは
ございません。
全文系あたま、大集合。
鍛錬不足の脳みそを、ここで一旦総復習しましょう。
現役理系学生に3時間で追いつく超ハードスペシャル課外授業の
始まりです!
わかんないとこは、無理せずとばします。
現役理系・・に、ない分は、
『経験』と『感』で、補います。
さあ、知の最前線へ、
力ワザで、漕ぎ出しましょう!
まさに、こういう本に出遭った時に云う言葉。
・・と、いっても凡百のハードボイルドでは
ございません。
全文系あたま、大集合。
鍛錬不足の脳みそを、ここで一旦総復習しましょう。
現役理系学生に3時間で追いつく超ハードスペシャル課外授業の
始まりです!
わかんないとこは、無理せずとばします。
現役理系・・に、ない分は、
『経験』と『感』で、補います。
さあ、知の最前線へ、
力ワザで、漕ぎ出しましょう!
2010年5月22日に日本でレビュー済み
20世紀の重要な物理法則に基づき、脳の仕組み(主に意識と心)についての仮説を提示する著作。
平易な語り口で難解な物理法則の神髄を説明してくれ、非常に有り難い。脳の働きが如何に数学的・物理的法則で上手く説明できるかが分かり、改めて養老孟司氏の、所謂「唯脳論」の有効性を感じる。すなはち、人間の脳が編み出した数学や物理の世界は必然的に脳のくせ(脳の仕組み)を反映していると言う考え方だ。
バイナリーシステムの話、記憶が大脳皮質のコラムに分散貯蔵される仮説、意識の源が皮質外の薄膜上に局在するとの仮説、囲碁とオセロの類比で記憶と情報処理機能を説明する点など極めて刺激的だ。
著者の分かりやすい、論理的な語り口の源泉は英語の思考が背景にあるのだろうか?
とにかく為になる本だ(H13.11.22)。
平易な語り口で難解な物理法則の神髄を説明してくれ、非常に有り難い。脳の働きが如何に数学的・物理的法則で上手く説明できるかが分かり、改めて養老孟司氏の、所謂「唯脳論」の有効性を感じる。すなはち、人間の脳が編み出した数学や物理の世界は必然的に脳のくせ(脳の仕組み)を反映していると言う考え方だ。
バイナリーシステムの話、記憶が大脳皮質のコラムに分散貯蔵される仮説、意識の源が皮質外の薄膜上に局在するとの仮説、囲碁とオセロの類比で記憶と情報処理機能を説明する点など極めて刺激的だ。
著者の分かりやすい、論理的な語り口の源泉は英語の思考が背景にあるのだろうか?
とにかく為になる本だ(H13.11.22)。
2004年5月4日に日本でレビュー済み
所要時間:数日から数週間。
最初に手にとって見て、この本は、物理か数学をやっている人の余興で書かれたもののようにみえる。しかし、実は、脳科学研究の世界の最先端にいる臨床家兼研究者が著者である。この本から、私が読み取れたのは脳についての知識は、とんでもなく遠くへきてしまったということであり、目が通しきれないほどある「心」を扱った本が、すべて古い手垢にまみれた知識をもとに作り上げられた神話になりつつあることを知らされた。
こころのありかにひとつの光が当てられた。
最初に手にとって見て、この本は、物理か数学をやっている人の余興で書かれたもののようにみえる。しかし、実は、脳科学研究の世界の最先端にいる臨床家兼研究者が著者である。この本から、私が読み取れたのは脳についての知識は、とんでもなく遠くへきてしまったということであり、目が通しきれないほどある「心」を扱った本が、すべて古い手垢にまみれた知識をもとに作り上げられた神話になりつつあることを知らされた。
こころのありかにひとつの光が当てられた。