最新の脳科学・神経科学の知見を簡潔に紹介したうえで、それを生命倫理という視点からどのように捉えるべきか、どのように活かすべきか、について解説している本です。
宗教や文化、哲学といった、人間の歴史が作ってきた観念だけからみた生命倫理についての論争は数多くありますが、科学的な知見を十分に踏まえたうえでの提言は本書を含めてもあまりないように思われます。このことだけからも本書は有益なものだといえます。
また最新の脳科学・神経科学から、人間とは如何なるものであることが分かってきたのか、ということが生・死・能力・意思・道徳といった観点から整理して書かれており、これらの分野について一通りの最新知識を得るということだけにでも十分に活用できるものだと思います。
更にこれらの知見を踏まえたうえで、既存の宗教や文化、哲学に過度に惑わされることなく、正しい知識のもとに倫理を考えなければならない、としています。
ただし、これらの思想を科学的ではないと単に否定するのではなく、それらは訴えられた時代における科学的な知識・推測をもとに作られ広められてきたものであるとし、それらを最新知識を活かして更新するという作業・思考の変換が必要である、としています。
そのうえで、生命倫理について考える際には、脳科学・神経科学で得られた知見を思考過程にも導入していくことが必要だとしています。つまり考える際に人間が陥りやすい罠、その背景にある人間の本性を認識したうえで、考え方や思考過程そのものに注意しながら倫理の在り方を検討すべきである、ということです。
あと、全般的に非常に読みやすい文章となっています。振り返ってみると一文一文が非常に簡潔に表わされており、また専門的な解説・補足を脚注に置いていることが読みやすさの理由ではないかと思います。
さすが、脳科学・神経科学の第一人者だけのことはあると思います。
2009/6/17読了
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脳のなかの倫理: 脳倫理学序説 単行本 – 2006/2/1
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- 本の長さ262ページ
- 言語日本語
- 出版社紀伊國屋書店
- 発売日2006/2/1
- ISBN-104314009993
- ISBN-13978-4314009997
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商品の説明
出版社からのコメント
生命倫理より派生した分野として、脳(神経)倫理(Neuroethics)がいま世界の注目を集めている。記憶力を高めたり、「賢い」脳をつくること、あるいは他人の脳の中を覗くことなど、脳科学の進歩がもたらすであろう新しい倫理・道徳の問題を考えようとするもの。2003年に命名された用語で、本書は世界で最初のこの分野の本である。著者は、スペリーと並んで左脳・右脳の研究で有名な神経科学者、ガザニガで、彼自身2001年より「大統領生命倫理評議会」にこの分野の研究者として初めて参加することで、この本は誕生した。
すぐに「どちらかに軍配が上がる」といったものではなく、ガザニガも悩みつつ率直に意見を述べ読者に判断をゆだねている点が、ホットなテーマたるところ。各章の最後に必ず「今後の展望」が述べられており、脳科学が将来なにを可能にしようとしていて、そこでどのような倫理・道徳と直面するかまとめられているところが、特に読みごたえがある。
ある意味では、このテーマはかつてはSFのテーマだったのだが、それが現実の問題となってきたということ。哲学・心理、倫理・法学などの人に読んでほしい。
すぐに「どちらかに軍配が上がる」といったものではなく、ガザニガも悩みつつ率直に意見を述べ読者に判断をゆだねている点が、ホットなテーマたるところ。各章の最後に必ず「今後の展望」が述べられており、脳科学が将来なにを可能にしようとしていて、そこでどのような倫理・道徳と直面するかまとめられているところが、特に読みごたえがある。
ある意味では、このテーマはかつてはSFのテーマだったのだが、それが現実の問題となってきたということ。哲学・心理、倫理・法学などの人に読んでほしい。
著者について
ダートマス大学教授。同大学認知神経科学センター長。2001年より大統領生命倫理評議会のメンバー。米国心理学会次期会長。左脳と右脳の研究で世界的に知られる。著書に『社会的脳』『二つの脳と一つの心』など。
登録情報
- 出版社 : 紀伊國屋書店 (2006/2/1)
- 発売日 : 2006/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 262ページ
- ISBN-10 : 4314009993
- ISBN-13 : 978-4314009997
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年10月10日に日本でレビュー済み
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右脳と左脳について知りたく、マイケル・S・ガザニガ氏の著書を選択しましたが、この本じゃない方がよかったかもしれません。ただ、これはこれで良い内容だと思いますので頑張って読もうと思います。自分には少し難しい内容ではありますが。。。購入金額も中古にしたので半額くらいで済んでおり、痛手感も少ないかなと思っています。
2008年12月12日に日本でレビュー済み
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タイトルの通り「脳(神経)倫理学」についての本です。
「脳神経倫理学」とは普通「人間の脳を治療することや、脳を強化することの是非を論じる哲学の一分野」と定義されるらしいですが、本書の著者であるガザニガはより広く、「病気、正常、死、生活習慣、生活哲学といった、人々の健康や幸福にかかわる問題を、土台となる脳メカニズムについての知識に基づいて考察する分野である」と定義しており、本書が扱うテーマも概ね著者の定義に沿ったものといえるでしょう。
脳に関わらず、一般的に「倫理学」といえば理系の科学者・研究者ではなく文系の人々が扱う学問であるイメージが強いですが、「現役の研究者が倫理について語ればこうなる!!」というのをとても面白い形で表現してくれています。
脳は勿論のこと、生命倫理、心理学、遺伝子学等に興味がある人には是非ともオススメします。
「脳神経倫理学」とは普通「人間の脳を治療することや、脳を強化することの是非を論じる哲学の一分野」と定義されるらしいですが、本書の著者であるガザニガはより広く、「病気、正常、死、生活習慣、生活哲学といった、人々の健康や幸福にかかわる問題を、土台となる脳メカニズムについての知識に基づいて考察する分野である」と定義しており、本書が扱うテーマも概ね著者の定義に沿ったものといえるでしょう。
脳に関わらず、一般的に「倫理学」といえば理系の科学者・研究者ではなく文系の人々が扱う学問であるイメージが強いですが、「現役の研究者が倫理について語ればこうなる!!」というのをとても面白い形で表現してくれています。
脳は勿論のこと、生命倫理、心理学、遺伝子学等に興味がある人には是非ともオススメします。
2012年4月11日に日本でレビュー済み
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著者は生命倫理委員会での経験から、神経科学や生物学一般の知識が倫理学に資するところがあるのではないかと考え本書を著したらしい。胚はいつ人間と見なせるのかという中絶などにかかる問題から脳と体のエンハンスメント、自由意志と有責性、脳波からのウソ発見という法が絡む問題へ、そして記憶の不確かさを通して倫理の生得性と普遍性へと、広いトピックを上手く繋げている。
ただ個々の議論は詰めの甘さを感じるところが多い。技術的に可能かどうかと、可能ならどうすべきかという話が明確に区別されていないところさえある。人間はなんだかんだ言って新しい技術と上手くつきあっていくだろうという楽観主義は共感できる。が、上手くつきあうにはどういうルールが必要かという議論にすすむべきところでそれを言うのは的が外れている。また脳のエンハンスメントは個人の問題だが体のエンハンスメントは集団全体に影響を与えるからダメだと言うのだが、著者がイメージしているのが脳は認知症などの治療、体のほうはオリンピック選手のドーピングのようなことで、比較できないレベルの話を同列に論じてしまっている。決定論と有責性のところでは「脳は決定論的に働くが、人間は自由に意志決定する事ができる」とか「人と人が関わるときに責任だとか価値観だとかが現れるのであって脳にあるのではない」と言うのだがその理由は論じられていない。好意的に解釈すると、脳の障害が原因だとかの理由で不法行為を免責するのは社会的に不都合があるから自由意志があることにして今まで通り対処しよう、ということかもしれない。でもそれを言うなら神経科学的ないかなる説明も必要ないし、自由意志や決定論の話も必要もなくなってしまう。
倫理学は専門外の神経科学者による、あくまで個人的な意見の披露だと考えればいいのかもしれないが…。
ただ個々の議論は詰めの甘さを感じるところが多い。技術的に可能かどうかと、可能ならどうすべきかという話が明確に区別されていないところさえある。人間はなんだかんだ言って新しい技術と上手くつきあっていくだろうという楽観主義は共感できる。が、上手くつきあうにはどういうルールが必要かという議論にすすむべきところでそれを言うのは的が外れている。また脳のエンハンスメントは個人の問題だが体のエンハンスメントは集団全体に影響を与えるからダメだと言うのだが、著者がイメージしているのが脳は認知症などの治療、体のほうはオリンピック選手のドーピングのようなことで、比較できないレベルの話を同列に論じてしまっている。決定論と有責性のところでは「脳は決定論的に働くが、人間は自由に意志決定する事ができる」とか「人と人が関わるときに責任だとか価値観だとかが現れるのであって脳にあるのではない」と言うのだがその理由は論じられていない。好意的に解釈すると、脳の障害が原因だとかの理由で不法行為を免責するのは社会的に不都合があるから自由意志があることにして今まで通り対処しよう、ということかもしれない。でもそれを言うなら神経科学的ないかなる説明も必要ないし、自由意志や決定論の話も必要もなくなってしまう。
倫理学は専門外の神経科学者による、あくまで個人的な意見の披露だと考えればいいのかもしれないが…。
2006年10月9日に日本でレビュー済み
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学術レベルで分かっていることを体系的に示し、そこに生じた、あるいは生じつつある問題点を指摘している。さすがに脳機能研究の専門家として名高いガザニガだけあって、科学データの部分は文句のつけようがない。概論書としてお勧めだ。
倫理的な諸問題についての記述は、一見あっさりしており、「こんなものか」と思われる方もいるかもしれない。が、この分野が、近年の脳科学研究、そしてゲノム科学研究の進歩に伴って生まれたばかりの分野であること、この分野で扱わなければならない問題が数多く存在すると言うこと自体が近年になって指摘されだしたたことを考慮すると、簡潔によくまとまっている。また、彼自身の立場からは、これ以上のコトはいえないだろう。
脳科学や心理学、遺伝子に関係した知識が少しでもある方にお勧めの一冊だ。まったくゼロからの知識で挑むには少々ハードルが高い可能性はある。
倫理的な諸問題についての記述は、一見あっさりしており、「こんなものか」と思われる方もいるかもしれない。が、この分野が、近年の脳科学研究、そしてゲノム科学研究の進歩に伴って生まれたばかりの分野であること、この分野で扱わなければならない問題が数多く存在すると言うこと自体が近年になって指摘されだしたたことを考慮すると、簡潔によくまとまっている。また、彼自身の立場からは、これ以上のコトはいえないだろう。
脳科学や心理学、遺伝子に関係した知識が少しでもある方にお勧めの一冊だ。まったくゼロからの知識で挑むには少々ハードルが高い可能性はある。
2009年4月19日に日本でレビュー済み
脳科学を切り口に、最先端科学から宗教まで、人間社会の非科学的な混沌とした倫理にかんする考察を一般の読者にもわかりやすい文章で綴った内容です。スポーツにおけるドーピングは倫理に反するが、知的(学力的な)ドーピングは問題にされない等、バランス感覚に優れた問題提起もさることながら、日本人の著作にありがちな2〜3の事例で自分の仮説を正当化するようなことはせず、ES細胞から始めて、歴史をさかのぼるように宗教の話と人類共通の倫理とはで終わる構成もすばらしい。
この本に「ニューロマーケティング」という用語は登場しませんが、その仕組みや応用の可能性については詳しく述べられています。部分的に読めば、SFのような内容ですが、現実もしくは極めて近い将来に現実になるであろう世界が解説されています。ちなみにこの本でも触れられているカート・ヴォネガットの短編『ハリスン・バージロン』(『 モンキー・ハウスへようこそ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF) 』収録)は『2081』(原題)というタイトルで映画化され、今年(2009年)、アメリカでの公開が予定されています。
日本人はなぜ、非科学的で統計学的にも妥当とは思えない血液型性格判断を無条件で信じるのか、ずーっと不思議でなりませんでしたが、第9章「信じたがる脳」を読むと、その仕組みがわかります。【信念】や体系化された【知識】を持つことで自分が【対応】できるようにしたがるのが人間であれば、世論や国民感情からマーケティングまで応用範囲が広いのはいいことですが、どういう人達がこの本の内容を精読し活用するかによっては、悪魔のマニュアルにもなりかねない内容でもあると思うのは私だけでしょうか。
この本に「ニューロマーケティング」という用語は登場しませんが、その仕組みや応用の可能性については詳しく述べられています。部分的に読めば、SFのような内容ですが、現実もしくは極めて近い将来に現実になるであろう世界が解説されています。ちなみにこの本でも触れられているカート・ヴォネガットの短編『ハリスン・バージロン』(『 モンキー・ハウスへようこそ〈1〉 (ハヤカワ文庫SF) 』収録)は『2081』(原題)というタイトルで映画化され、今年(2009年)、アメリカでの公開が予定されています。
日本人はなぜ、非科学的で統計学的にも妥当とは思えない血液型性格判断を無条件で信じるのか、ずーっと不思議でなりませんでしたが、第9章「信じたがる脳」を読むと、その仕組みがわかります。【信念】や体系化された【知識】を持つことで自分が【対応】できるようにしたがるのが人間であれば、世論や国民感情からマーケティングまで応用範囲が広いのはいいことですが、どういう人達がこの本の内容を精読し活用するかによっては、悪魔のマニュアルにもなりかねない内容でもあると思うのは私だけでしょうか。
2006年4月26日に日本でレビュー済み
冒頭から筆者自身の体験談として述べられているように、「科学」倫理学といえども、やはり実際に問題をディスカッションしているメンバーは哲学や倫理学といった文系の学問分野の人たちが多い。
そんな中、生粋の理系学者として、倫理の問題について立ち向かっていたガザニガのアプローチは、読んでいて従来の倫理学の本にはないすっきりとした印象を与える。
倫理の問題に対し、一通りの解答が与えられるということはまずもってありえない。それは当然のことである。しかしだからといって問題を列挙し、「あんなことも言える、けれどもこういう立場もある、さぁどうしようか」という議論の仕方があまりにも多すぎないだろうか。
ガザニガは、脳についての理解が進むことによって、ある種の倫理問題については、「境界線」を設けることができるのではないかという主張をしている。つまり、絶対的な可否は問うことができないが、人類全体として(そして法的なものの上で)ひとつの価値観の境界線を決定することで、倫理問題にひとつの解答を与えようというものである。その「線引き」に、脳神経科学の知識が生かせるのではないか、というのが筆者の主張である。本書で扱われている倫理問題は、非常に多岐にわたるが、一貫した考え方がある。題名どおり、キーワードは「脳」である。
煮え切らない(といってはまた語弊があるが)倫理学の問題に対して、すっきりとした提案を独自の視点で打ち出した本書は、理系文系、そして学問にこだわらず、ぜひ多くの方々に読んでいただきたい一冊である。
そんな中、生粋の理系学者として、倫理の問題について立ち向かっていたガザニガのアプローチは、読んでいて従来の倫理学の本にはないすっきりとした印象を与える。
倫理の問題に対し、一通りの解答が与えられるということはまずもってありえない。それは当然のことである。しかしだからといって問題を列挙し、「あんなことも言える、けれどもこういう立場もある、さぁどうしようか」という議論の仕方があまりにも多すぎないだろうか。
ガザニガは、脳についての理解が進むことによって、ある種の倫理問題については、「境界線」を設けることができるのではないかという主張をしている。つまり、絶対的な可否は問うことができないが、人類全体として(そして法的なものの上で)ひとつの価値観の境界線を決定することで、倫理問題にひとつの解答を与えようというものである。その「線引き」に、脳神経科学の知識が生かせるのではないか、というのが筆者の主張である。本書で扱われている倫理問題は、非常に多岐にわたるが、一貫した考え方がある。題名どおり、キーワードは「脳」である。
煮え切らない(といってはまた語弊があるが)倫理学の問題に対して、すっきりとした提案を独自の視点で打ち出した本書は、理系文系、そして学問にこだわらず、ぜひ多くの方々に読んでいただきたい一冊である。
2006年3月16日に日本でレビュー済み
著者のマイケル・S. ガザニガは長年、分離脳などを研究してきた認知神経科学の研究者で、この本はそのガザニガが2001年に大統領生命倫理評議会のメンバーに選ばれたことをきっかけに、様々な倫理的問題を自らの専門である脳神経学の立場から語ったものです。
「脳倫理学序説」とサブタイトルにあることから、様々な倫理問題を脳科学の面からバッサバッサと切りまくるという内容を想像してしまいますが、その中身は思ったよりも慎重で常識的。例えば、末期のアルツハイマーの患者に対して脳科学の立場から「彼らにはまったく自己意識がなく、自分が悲惨な状態になってしまったことさえわからない」と断言しながら、「どれほど脳機能が衰えようと損なわれようと,もはや人とみなさなくてよいという一線など引けそうにないと思えるからだ」と、ある種の倫理問題の割り切れなさを認めています。
また、自由意志の問題や脳内嘘発見器の可能性、脳研究の進展から明らかになってきた自己の記憶の曖昧さなど、脳科学の知見と倫理問題のリンクするトピックスも興味深いです。
そして、この本の中でも一番興味深いのは第4部の「道徳的信念と人類共通の倫理」の部分。第9章の「信じたがる脳」では、左脳の中に人間の信念を作り出す一種の解釈装置があることが示唆され、第10章の「人類共通の倫理に向けて」では人間の脳に共通する、他人の心を読み、同じような体験をさせる「ミラーニューロン」の存在から、人類に共通する脳に由来する道徳感情というものの可能性が示されます。ガザニガによれば、直感的な道徳的判断は人類にほぼ共通するものであり、その解釈や理由付けが文化や個人によって異なるというのです。
このあたりの考えが本当かどうかということは今後の研究にゆだねられるのでしょうが、刺激的な本であることには間違いないと思います。
「脳倫理学序説」とサブタイトルにあることから、様々な倫理問題を脳科学の面からバッサバッサと切りまくるという内容を想像してしまいますが、その中身は思ったよりも慎重で常識的。例えば、末期のアルツハイマーの患者に対して脳科学の立場から「彼らにはまったく自己意識がなく、自分が悲惨な状態になってしまったことさえわからない」と断言しながら、「どれほど脳機能が衰えようと損なわれようと,もはや人とみなさなくてよいという一線など引けそうにないと思えるからだ」と、ある種の倫理問題の割り切れなさを認めています。
また、自由意志の問題や脳内嘘発見器の可能性、脳研究の進展から明らかになってきた自己の記憶の曖昧さなど、脳科学の知見と倫理問題のリンクするトピックスも興味深いです。
そして、この本の中でも一番興味深いのは第4部の「道徳的信念と人類共通の倫理」の部分。第9章の「信じたがる脳」では、左脳の中に人間の信念を作り出す一種の解釈装置があることが示唆され、第10章の「人類共通の倫理に向けて」では人間の脳に共通する、他人の心を読み、同じような体験をさせる「ミラーニューロン」の存在から、人類に共通する脳に由来する道徳感情というものの可能性が示されます。ガザニガによれば、直感的な道徳的判断は人類にほぼ共通するものであり、その解釈や理由付けが文化や個人によって異なるというのです。
このあたりの考えが本当かどうかということは今後の研究にゆだねられるのでしょうが、刺激的な本であることには間違いないと思います。