アフォーダンスという理論をきちっと知りたければ『生態学的視覚論』を読むべきなのでしょう。しかし、僕たちの認識へとより強く訴えるのは、この『直接知覚論の根拠』の方ではないでしょうか。論文や講演録、覚え書きをまとめたこの本は、問いかけや試論になっているものも多いため、結論よりも思考のプロセスをなぞることができ、思索へのきっかけを与えてくれます。
ジェームズ・ギブソンは抽象の罠に陥ることのないよう、世界を生きる僕たちがどのように知覚しているかを丁寧に考察したひとです。
１．僕たちは環境のなかで動き回り、食べたり寝たり、死んでりする。
２．僕たちは環境がどのようになっているかを知らなくてはならない。
３．知覚を生じるのは精神や頭脳である必要はなく、環境においてと考えるべきではないか。
以上は、僕が思うギブソンの直接知覚論の大枠です。しかし、自らの知覚に率直に向き合うことはとても難しいのではないでしょうか。メルロ＝ポンティも良いですが、ギブソンの魅力は、それこそ上空飛行的思考で眺めるのではなく、ひとつひとつの物事を吟味して、実験や実施で問い直してきたところにあると思います。
もちろんギブソンの知覚論だけで、動物の知や文化のすべてが語れるわけはないでしょうが、物事を考えるときのひとつの基準点になりうるのは確かだと思います。解説や論理を学ぶのなら他の本をお薦めしますが、自分自身の経験や思考の実践の糧としてギブソンを読みたい方には、これは最良の一冊だと思います。
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