〈私〉という表記はある特別な意味をもって日常的に使われてる一人称単数代名詞とは一線を画する言語化不能をも含めたものであるが、(この書籍の主たるテーマでもあるため)ここでは省略する。〈私〉に対する疑問は子供の頃よりずっと持ち続けている。かつての某掲示板で同様のことを哲学的テーマとして取り組んでいる人がいると教えられ、永井均氏も私と同じ疑問を持っていたことを知り、永井氏も同じくウィトゲンシュタインにその疑問を抱えた自分以外の人間を初めて見たということをこの書籍で私も初めて知った。
デイヴィド・チャーマーズが提起した「意識の難問」が科学的に記述されるべき心脳問題であるのに対して、「なぜ私は(他の誰でもなく)私なのか」を問う「意識の超難問」は答えを探究する問いではなく〈私〉を気付くための問いである。換言すれば「意識の超難問」は〈私〉の探究のスタート地点に立つための問いに他ならない。
言語の根本的な機能や特徴である一般化や共有化、唯物論である科学の前提でもある計測可能性や再現可能性、自然の斉一性の網目をすり抜けてしまうところに〈私〉の本質があり、存在論と実在論が交差する特異点でもある。「そこから世界が開闢している地点」「他の何ものも並び立てない地点」「世界内でなく世界と接する極点」「言語で記述不可能な点」という特徴がビッグバン宇宙論の特異点(体積ゼロで無限大のエネルギーが想定され、物理学的な記述が不可能な地点)とかぶるところがあり、〈私〉の位置する地点を「特異点」と(偶然にも私は永井氏を知る以前から)表記しており、永井氏も同じ呼称を用いていることに驚かされた。
人として生まれた尊厳、唯一無二であること。オンリーワンなどという生やさしいテーマではない。〈私〉の存在に気付くことは私秘性も含め、人は一人では生きていけないかもしれないが、絶対的に孤独であることを突きつけられたりもする。仏教の不立文字、言語道断、勝義諦、真我などなど。原始仏典スッタニパータで説かれる「犀の角のようにただ独り歩め」や大パリニッバーナ経〔大般涅槃経〕の「自洲・法洲(自灯明・法灯明)」とも通底する〈私〉の存在の比類なさ。
誤解をおそれずに言えば、自我意識を含めた意識が脳の随伴現象として記述可能であるとしても、〈私〉は脳内の物理現象としては説明できない延長線上に、宗教や信仰とは全く異なる文脈、哲学的あるいは仏教的な探究にたどり着く〈大いなる魂、即ち真我〉との出会いがある。この書籍は言語的には伝達不可能な〈私〉に読者が自ら気付くための啓発書である。
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〈私〉の存在の比類なさ 単行本 – 1998/2/25
永井 均
(著)
私と他者の関係をめぐる一連の問題群に新鮮な視点から粘り強い思索を続ける著者の論文集。今回は、山田友幸、大庭健らとの論争文を収め、議論の輪郭をはっきり示している。
- 本の長さ250ページ
- 言語日本語
- 出版社勁草書房
- 発売日1998/2/25
- ISBN-104326153318
- ISBN-13978-4326153312
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
〈私〉について語ろうとする努力だけが、他者の存在を自ずと開示する。独我論の本質、独在性の意味をめぐって、ヴィトゲンシュタインらの哲学を検討しながらダイナミックな論考を展開する。
著者について
永井 均(ながい ひとし)
1951年生まれ、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得。信州大学人文学部教授、千葉大学文学部教授、日本大学文理学部教授を歴任。著書に『〈私〉のメタフィジックス』(勁草書房)ほか多数。
1951年生まれ、慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程単位取得。信州大学人文学部教授、千葉大学文学部教授、日本大学文理学部教授を歴任。著書に『〈私〉のメタフィジックス』(勁草書房)ほか多数。
登録情報
- 出版社 : 勁草書房 (1998/2/25)
- 発売日 : 1998/2/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 250ページ
- ISBN-10 : 4326153318
- ISBN-13 : 978-4326153312
- Amazon 売れ筋ランキング: - 772,398位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,652位哲学・思想の論文・評論・講演集
- - 4,864位哲学 (本)
- - 5,861位思想
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2015年9月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「存在・自己・他者」に関する考察と、永井論文に対する批判への反論です。
ヴィトゲンシュタイン、デカルトの独我論に触れつつ永井流の<私>的独我論を展開します。
今までの永井哲学の再確認のような感じです。
後半は永井論文に対する反論ですが、もとの論文を読んでないので(読む気もしませんが・・・)、チンプンカンプンです。
この後半部分が読めるのは、存在論をかなり勉強し、永井哲学を理解している人たちのみでしょう。
マニアックな世界の読み物で、一般向きでありません。
いわゆる神学論争のようなもので浮世離れしています。
最後まで読み終えるのが、苦痛なだけでした。
ヴィトゲンシュタイン、デカルトの独我論に触れつつ永井流の<私>的独我論を展開します。
今までの永井哲学の再確認のような感じです。
後半は永井論文に対する反論ですが、もとの論文を読んでないので(読む気もしませんが・・・)、チンプンカンプンです。
この後半部分が読めるのは、存在論をかなり勉強し、永井哲学を理解している人たちのみでしょう。
マニアックな世界の読み物で、一般向きでありません。
いわゆる神学論争のようなもので浮世離れしています。
最後まで読み終えるのが、苦痛なだけでした。
2012年12月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「魂」に対する態度とあわせてよみ彼の考えを楽しんでください。