人間とその他の霊長類を分けるものは何か。
この興味深く、多くの人が気になる問題に対し、筆者は「他者を『意図を持った存在』として理解すること」という点を挙げる。
言語使用、共同体の形成、複雑な道具の発生、道徳の起源等、さまざまな人間らしいとされるものは、恐らく25万年ほど前に一気に生まれたと筆者は論じる。
そのため、ゲノムの変化にこの起源を求めると時間が短すぎることとなるので、筆者は「単一のちょっとした変化」に「文化の驚異的な進化」を組み合わせることでヒトはヒトになっていったと主張する。
例えば言語は、他者の意図を組み、共通の構文やルールを用いることで初めて実現可能なものである。
道具についても、他の人が作った道具について「作成者はどういう意図でこの道具を作ったのか」と考えることは、道具の継承と複雑な発展を可能にする。
他の霊長類の場合、他者は「意図などは持たない機械」のように理解されており、そのため例えば道具を作ることはあっても、他の個体の作った道具をさらに改良することはないという。
本書では、幼児の発達（誤信念理解等）に関する様々なデータや、自閉症（これは他者を意図を持つ個体と理解できない障害と本書ではみなされている）の場合の事例などを用いて、意図の把握がどのような意味を持っているのかを深めている。
人間と他の霊長類を分けるもの、という古くからある問題に明快な視点で答えてくれるものであり、また言語や道徳などにも一貫した位置づけを与える、興味深い理論だと思う。
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