国際政治学の権威であるウォルツ(1924~2013)が、“「国際政治システム(=国際社会)」の力学”を考察した本。“自国の「生き残り」を第一の目的とする国家が、どのような行動をとることによって、国際社会が形成されているのか”を、行動科学的な観点で分析をしているのが、本書の特徴だ。
ウォルツは、「国際政治システム」の構成員として、国家のみを考慮する。なぜなら、「国際機関」は大国の「支援」や「黙認」がなければ影響力を発揮できず、「多国籍企業」は国家が提供する治安や法律などの“社会的インフラ”の枠組みの中で活動するものだからだ。
本書では、国家は「機能」+「能力」で捉えられている。「機能」とは、“行政や裁判所などの国家機関を用いて、国を統治していること”と、“国民の生活必需品を、供給すること”である。もう一方の「能力」とは、「人口や、領土の大きさ、資源の豊富さ、経済力、軍事力、政治的安定性や政治的実行力などのすべてにおいて、どのくらいの点数をつけられるか」である。ウォルツは、「機能」はどの国家も同じであるが、「能力」は国家によって違いが大きく、この「能力差」で「国家の地位」が決まる、という。
このような「世界の150余りの国家」が集まって形成している「国際政治システム(国際社会)」の「秩序原理」は、「アナーキー(無秩序)」であると、ウォルツはいう。そして、前もって特定の管理者や規則が定められているわけではない「アナーキー」な「国際政治システム」は、“本質的には、自分の身の安全を自分で守る「自助システム」”なのである。そのため、国家は“自国の「生き残り」を第一の目的”とする。そして、①「安全保障」を施策する、②「国際政治システム」に適応(=“国際環境”に適応)しようとする、という二点の行動をとる。これらの行動は、軍事力の整備、他国との同盟、国力の基盤である経済力の強化、国内の制度の見直し、など多岐にわたる。
このような、“自国の「生き残り」や国益をめざす国家どうしが、相互作用をしているうちに「国際政治システム(国際社会)」が「自然発生的」に形成される→その「国際政治システム」の影響を、国家が受けるようになる”という「国家」と「国際政治システム」の関係性は、「企業」と「市場」の関係性に似ている、とウォルツは指摘する。そして、「国際政治システム(国際社会)」の秩序は、「市場」の「寡占(少数の企業が市場を支配し、互いに競争をしている)状態」と同じである、という。例えば、日本のビール市場でいえば、アサヒ・キリン・サッポロ・サントリーの4社が市場を支配し、互いに競争をしている。この4社が、自社の経営戦略を考えるときに、地ビールを醸造している中小企業の動向までを計算に入れることは、ほとんどないだろう。なぜなら、ビール市場に大きな影響を与える力があるのは、4社だけであるからだ――と、いうように、「大国は、(国際)状況から制約されていると同時に、(国際)状況に影響を及ぼす行動をとることができる」。つまり、「国際政治システム」は影響力の大きな国家(=大国)が、主導権をとるのである。
ウォルツは、大国を“「生き残り」以上のゆとりが持てる国力”を持つ国、としている。つまり、「国民経済の規模」が大きく、「経済的技術的先進性」の優位を保つために技術開発をするなど、“未来のための投資”にまで手の回るゆとりのある国が、大国なのである。
そのような大国の中で、「国際政治システム」に大きな影響力を持つ国は、アメリカ・ソ連・西ヨーロッパ諸国の「多極」から、第二次大戦後はアメリカ・ソ連の「2極」になった。「国際政治システム」は「多極(による「勢力均衡」)」から「2極(による「勢力均衡」)」へと「構造が変化」した、とウォルツはいう。「極」になるのは、大国レベルでは難しくなり、超大国レベルの国力がなければならなくなった。「西ヨーロッパで政治統合が達成されたり、中国が近代経済を確立したりすると、それらは非常に(他国からの依存度が低い)自給度の高い大国となるであろう。(超)大国レベルで競争するのが可能なのは、今日では大陸並みの規模の国家だけである」と、ウォルツは「極」になり得る国家について考察する。
そして、ウォルツは「極」の数が増えることは、“国際社会”の「安定性」が損なわれることになる、と述べる。プレーヤーの数が増えれば、“1対1=「2極」”よりも駆け引きの“複雑性”が増えるからだ。
本書は、1979年の出版であるから、アメリカとソ連の「2極」についての説明が多い。この中で、現在の読者が気になる所は、「GNPがアメリカの半分しかないソ連」というように、“アメリカが優位の「2極世界」”であり、「アメリカとソ連のあいだの低調な相互依存」というように、“両国の経済的な接触(=激突)の機会が少ない”という特徴だろう。そういう状況で、「アメリカは、他のどの国(ソ連も含む)よりも、貿易、援助、融資、平和目的のための原子力エネルギー供給、軍事的安全保障といったさまざまな恩典を、付与することもできるし差し止めることもできる。アメリカが好む政策に他国が従うよう説得する平和的手段がほしいとき、アメリカはそれを容易に見つけることができる」と、いうように、国際的な影響力は、アメリカの方がソ連よりも圧倒的に強い。つまりは、“アメリカとソ連の「2極世界」”は、実質は“アメリカによる世界秩序”である、ということだ。
中国が台頭している現在では、すでに「3極」といえるのか、まだそうなっていないのかは分からない。今のところ中国は、“国際的な問題”ではロシアの側に立ってアメリカの力を相殺しつつ、経済面ではアメリカや他の自由主義諸国と幅広い貿易関係を持ち、場合によってはアメリカの経済力を将来は超えるかもしれない。このような状態で、(ロシアに代わった)中国がアメリカと「2極世界」を構築したとしても、かつての“アメリカとソ連の「2極世界」”とは、かなり様相が違うものになるだろう、と思われる。
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国際政治の理論 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 3) 単行本 – 2010/4/27
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大論争を巻き起こした,ネオリアリズムの金字塔!
国際関係論にパラダイムシフトをもたらした不朽の名著,Kenneth Waltz, Theory of International Politics をついに完訳! 国と国との関係を決めるのは何か? 政治家の手腕か? 国家の体制か? 国際政治のダイナミクスを科学的に考えぬき,国際システムの構造に光をあてる。
おもな目次
日本語版への序文
序文
第1章 法則と理論
第2章 還元主義的理論
第3章 体系的なアプローチと理論
第4章 還元主義的理論と体系的理論
第5章 政治構造
第6章 アナーキーという秩序と勢力均衡
第7章 構造的原因と経済的影響
第8章 構造的原因と軍事的影響
第9章 国際関係の管理
訳者あとがき
付表
国際関係論にパラダイムシフトをもたらした不朽の名著,Kenneth Waltz, Theory of International Politics をついに完訳! 国と国との関係を決めるのは何か? 政治家の手腕か? 国家の体制か? 国際政治のダイナミクスを科学的に考えぬき,国際システムの構造に光をあてる。
おもな目次
日本語版への序文
序文
第1章 法則と理論
第2章 還元主義的理論
第3章 体系的なアプローチと理論
第4章 還元主義的理論と体系的理論
第5章 政治構造
第6章 アナーキーという秩序と勢力均衡
第7章 構造的原因と経済的影響
第8章 構造的原因と軍事的影響
第9章 国際関係の管理
訳者あとがき
付表
- ISBN-104326301600
- ISBN-13978-4326301607
- 出版社勁草書房
- 発売日2010/4/27
- 言語日本語
- 寸法15.8 x 2.3 x 21.8 cm
- 本の長さ328ページ
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商品の説明
著者について
著者紹介
ケネス・ウォルツ (Kenneth Neal Waltz)
1924年ミシガン州アナーバー生まれ。オバーリン大学卒業後,1954年コロンビア大学でPh.D.を取得。スワースモア大学,ブランダイズ大学などを経て,1971年よりカリフォルニア大学バークレー校政治学部教授,1994年より同大学名誉教授。現在はコロンビア大学政治学部客員教授もつとめる。1987-88年アメリカ政治学会会長。著書は,Man, the State and War: A Theoretical Analysis, Columbia University Press, 1959 など
訳者紹介
河野 勝(こうの まさる)
1994年スタンフォード大学政治学博士(Ph.D.)。早稲田大学政治経済学術院教授。Japan’s Postwar Party Politics, Princeton University Press, 1997; 『制度』(東京大学出版会,2002年)ほか。
岡垣 知子(おかがき ともこ)
2005年ミシガン大学政治学博士(Ph.D.)。防衛省防衛研究所主任研究官。『9・11以後のアメリカと世界』(南窓社,2004年,共著);『これからの安全保障』(亜紀書房,1999年,共著);「ウォルツと日本と国際政治学――『国際政治の理論』を振り返って」『年報 戦略研究』第5号(2007年11月)ほか。
ケネス・ウォルツ (Kenneth Neal Waltz)
1924年ミシガン州アナーバー生まれ。オバーリン大学卒業後,1954年コロンビア大学でPh.D.を取得。スワースモア大学,ブランダイズ大学などを経て,1971年よりカリフォルニア大学バークレー校政治学部教授,1994年より同大学名誉教授。現在はコロンビア大学政治学部客員教授もつとめる。1987-88年アメリカ政治学会会長。著書は,Man, the State and War: A Theoretical Analysis, Columbia University Press, 1959 など
訳者紹介
河野 勝(こうの まさる)
1994年スタンフォード大学政治学博士(Ph.D.)。早稲田大学政治経済学術院教授。Japan’s Postwar Party Politics, Princeton University Press, 1997; 『制度』(東京大学出版会,2002年)ほか。
岡垣 知子(おかがき ともこ)
2005年ミシガン大学政治学博士(Ph.D.)。防衛省防衛研究所主任研究官。『9・11以後のアメリカと世界』(南窓社,2004年,共著);『これからの安全保障』(亜紀書房,1999年,共著);「ウォルツと日本と国際政治学――『国際政治の理論』を振り返って」『年報 戦略研究』第5号(2007年11月)ほか。
登録情報
- 出版社 : 勁草書房 (2010/4/27)
- 発売日 : 2010/4/27
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 328ページ
- ISBN-10 : 4326301600
- ISBN-13 : 978-4326301607
- 寸法 : 15.8 x 2.3 x 21.8 cm
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2018年1月17日に日本でレビュー済み
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理論とは何かにはじまり非常に考えさせられることの多い一冊でした。ネオリアリズムについて学ぶだけでなく国際関係の基本的な考え方に触れることができます。
2010年10月22日に日本でレビュー済み
ウォルツの国際政治理論の集大成といってもいい本です。
ネオリアリズムはここから始まっています。
国際政治、安全保障をまなぶ人は必ず読むべきです。
ただし、翻訳が出るのが遅すぎるかと思います。
日本の学術姿勢からするとしかたないのかもしれませんが・・・
ネオリアリズムはここから始まっています。
国際政治、安全保障をまなぶ人は必ず読むべきです。
ただし、翻訳が出るのが遅すぎるかと思います。
日本の学術姿勢からするとしかたないのかもしれませんが・・・
2013年12月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
国際政治の理論
とてもよい書籍であると思います。国際政治を学ぶ者には読む価値のある本であると思います。
とてもよい書籍であると思います。国際政治を学ぶ者には読む価値のある本であると思います。
2010年5月19日に日本でレビュー済み
絶賛する人もいれば、毛嫌いする人もいる本であり、著名かつ評価が難しいタイプの本である。
間違いないのは、英米での国際関係論での圧倒的な影響力である。
現代国際関係の理論を扱う論者は、ほぼウォルツの理論の修正、もしくは批判から持論をすすめて
いることからも伺える。「リアリズム」を批判する場合も、純粋なカーやモーゲンソー(古典的現実主義)の思想研究を除いて、ほぼウォルツの理論かそこから派生・修正した理論をさすことがほとんどである。
(たとえば攻撃的現実主義、新古典的現実主義もウォルツの理論がなければ発生しなかっただろう)
たとえば今日の指導的理論家であるリチャード・ルボウ、ジョン・アイケンベリー、クリスチャン・ルース=シュミット、バリー・ブザンなど、いずれも必ずウォルツの理論への言及がみられる。
最近もInternational Relation誌がWaltzを理論の"King of Thought"としたうえで、
2号にわたって特集をくんでおり大変興味深い。
ただし、全世界的・全パラダイム的にみると、その影響力は一概に強力とはいえない面もある。たとえば、日本国際政治学界編『日本の国際政治学』(有斐閣)では、ウォルツの理論はそれほど日本に影響を及ぼさなかった様が描写されている。
このことは「日本の学界が(北米の)スタンダードからとりのこされた」と批判することも、「ウォルツの影響を免れたゆえに、日本独自の国際政治学が形成された(歴史や地域研究)」と肯定的な評価を下すことも可能であろう。(半分予想だが)ヨーロッパ各国の、国際関係論にも同じことがいえると思われる。(英米とその他の地域の国際関係理論の関係性をあつかった文献として、例えばBuzan et al., Non-Western International Relations Theory 参照。
肝心の内容に関しては、細かくみていけば論点はいろいろあるものの、やはり一番の特徴は簡潔性にあるといえるだろう。ユニットの国家の性質設定と(生き残りの希求)、その相互作用が導き出すシステムの制約(アナーキー)のみで説明を試みている点は、やはり革命的な斬新さをもっている。
また古典全般にいえることであるが、読み返すとなかなか周到に議論をはっており、一部の批判はアンフェアであることがはっきりしていると分かった。たとえば国家をブラック・ボックスとして観察することへは、「仮定について問うべきなのは、それが真実かどうかではなく、それがもっとも意味があり有益であるかどうかである(p.121)」と、「仮定の正しさ」よりも「その仮定によって得られる、説明・分析能力」で判断すべきだ、と述べている。
また彼の置いている仮定、「国家が国際政治の主要なアクターである」「システムはアナーキーである」「国家はつねにバランシングする」といった批判の対象になりやすい項目に対しても、より慎重な考察をすすめており、参考になった。彼は国家以外のアクター、ハイアラーキー、バンドワゴニングにたいしても考察をかなり詳細におこなった上で否定しており、議論は批判者が指摘するよりもより深みのある印象をうけた。
たとえばハイアラーキーに関してはかなり詳細に分析しており、そのまま現代の国際関係にも応用できそうな点もあるほどである。もちろん本書の指摘する点や歴史認識は現代から振り返れば明らかなあやまりも多く含まれている。しかし、やはり本書が考察した国際関係のとらえかたに対する試みは、現在読み返しても十分意味のあることだろう。
評者が最近個人的に感じる点は、英米国際関係論の70年代後半から80年代の議論を振り返る重要性である。それはアメリカの相対的衰退や中国の台頭といった現在の状況が、70年台―80年代の認識であった多極化や覇権の衰退と重複しているからである。
その意味で、覇権と転換を論じたGilpin, War and Change in World Politics(1983); 覇権衰退後の先進国の強調が可能かを模索したKeohane, After Hegemony(1984);国際「社会」という一定の秩序のありかたを論じた Bull, Anarchical Society(1977)と国際社会の広がりと西洋の将来を論じたBull and Watson eds., Expansion of International Society(1984)の問題意識はいまだに新鮮であり、Waltzのみならずこれらの新・古典が読み返されることの必要性を感じた。
間違いないのは、英米での国際関係論での圧倒的な影響力である。
現代国際関係の理論を扱う論者は、ほぼウォルツの理論の修正、もしくは批判から持論をすすめて
いることからも伺える。「リアリズム」を批判する場合も、純粋なカーやモーゲンソー(古典的現実主義)の思想研究を除いて、ほぼウォルツの理論かそこから派生・修正した理論をさすことがほとんどである。
(たとえば攻撃的現実主義、新古典的現実主義もウォルツの理論がなければ発生しなかっただろう)
たとえば今日の指導的理論家であるリチャード・ルボウ、ジョン・アイケンベリー、クリスチャン・ルース=シュミット、バリー・ブザンなど、いずれも必ずウォルツの理論への言及がみられる。
最近もInternational Relation誌がWaltzを理論の"King of Thought"としたうえで、
2号にわたって特集をくんでおり大変興味深い。
ただし、全世界的・全パラダイム的にみると、その影響力は一概に強力とはいえない面もある。たとえば、日本国際政治学界編『日本の国際政治学』(有斐閣)では、ウォルツの理論はそれほど日本に影響を及ぼさなかった様が描写されている。
このことは「日本の学界が(北米の)スタンダードからとりのこされた」と批判することも、「ウォルツの影響を免れたゆえに、日本独自の国際政治学が形成された(歴史や地域研究)」と肯定的な評価を下すことも可能であろう。(半分予想だが)ヨーロッパ各国の、国際関係論にも同じことがいえると思われる。(英米とその他の地域の国際関係理論の関係性をあつかった文献として、例えばBuzan et al., Non-Western International Relations Theory 参照。
肝心の内容に関しては、細かくみていけば論点はいろいろあるものの、やはり一番の特徴は簡潔性にあるといえるだろう。ユニットの国家の性質設定と(生き残りの希求)、その相互作用が導き出すシステムの制約(アナーキー)のみで説明を試みている点は、やはり革命的な斬新さをもっている。
また古典全般にいえることであるが、読み返すとなかなか周到に議論をはっており、一部の批判はアンフェアであることがはっきりしていると分かった。たとえば国家をブラック・ボックスとして観察することへは、「仮定について問うべきなのは、それが真実かどうかではなく、それがもっとも意味があり有益であるかどうかである(p.121)」と、「仮定の正しさ」よりも「その仮定によって得られる、説明・分析能力」で判断すべきだ、と述べている。
また彼の置いている仮定、「国家が国際政治の主要なアクターである」「システムはアナーキーである」「国家はつねにバランシングする」といった批判の対象になりやすい項目に対しても、より慎重な考察をすすめており、参考になった。彼は国家以外のアクター、ハイアラーキー、バンドワゴニングにたいしても考察をかなり詳細におこなった上で否定しており、議論は批判者が指摘するよりもより深みのある印象をうけた。
たとえばハイアラーキーに関してはかなり詳細に分析しており、そのまま現代の国際関係にも応用できそうな点もあるほどである。もちろん本書の指摘する点や歴史認識は現代から振り返れば明らかなあやまりも多く含まれている。しかし、やはり本書が考察した国際関係のとらえかたに対する試みは、現在読み返しても十分意味のあることだろう。
評者が最近個人的に感じる点は、英米国際関係論の70年代後半から80年代の議論を振り返る重要性である。それはアメリカの相対的衰退や中国の台頭といった現在の状況が、70年台―80年代の認識であった多極化や覇権の衰退と重複しているからである。
その意味で、覇権と転換を論じたGilpin, War and Change in World Politics(1983); 覇権衰退後の先進国の強調が可能かを模索したKeohane, After Hegemony(1984);国際「社会」という一定の秩序のありかたを論じた Bull, Anarchical Society(1977)と国際社会の広がりと西洋の将来を論じたBull and Watson eds., Expansion of International Society(1984)の問題意識はいまだに新鮮であり、Waltzのみならずこれらの新・古典が読み返されることの必要性を感じた。
2021年9月21日に日本でレビュー済み
国際政治を勉強する人に最もおすすめできる本です。
2012年1月19日に日本でレビュー済み
国際政治、国際関係論を語るには外せないと言われるウォルツの代表作。
彼には様々な批判が(邦書でも)なされているが、実際に彼の著作を読んでみるとかなり慎重かつ入念に議論は進められており、イメージされるような強引かつ単純な議論ではない。
前半は国際政治論というよりは社会科学方法論といった方がいい。
還元主義的理論と体系的理論の違いとそれぞれの特徴、法則と理論の区別、モデルの意味など、国際政治論以外でも役立つ分析がなされている。
彼に向けられる多くの批判は、モデルの非現実性や情報の捨象に向けられるが、それについては彼自身きちんと説明している。
また、彼は自身の議論の射程と限界もきちんと踏まえている。
例えば、彼は「システムーユニット」間の関係とそこから生まれる制約・影響しか議論しないことを述べている(p160〜162)
なぜなら今行っているのは国際政治論であり、各国家の内部要因を分析するのは外交政策研究においてなされるべきだと主張している。
ウォルツの結論(勢力均衡、二極安定等)は目新しくもなく、また現在からみれば間違っているものもいくつも存在する。
しかし、重要なのは「彼がどのようにしてそれを導いたか」の議論とその考え方の方であろう。
バランシングとバンドワゴニング、依存の問題、不確実性の対処の問題など、彼の議論そのものは明快で、肯定的に用いるにせよ批判的に検討するにせよ、学ぶところは非常に多い。
逆に、彼の「議論」自体を見るべきだからこそこれは原典で読まれるべきであり、それが本書を「新しい古典」としている所以であろう。
彼には様々な批判が(邦書でも)なされているが、実際に彼の著作を読んでみるとかなり慎重かつ入念に議論は進められており、イメージされるような強引かつ単純な議論ではない。
前半は国際政治論というよりは社会科学方法論といった方がいい。
還元主義的理論と体系的理論の違いとそれぞれの特徴、法則と理論の区別、モデルの意味など、国際政治論以外でも役立つ分析がなされている。
彼に向けられる多くの批判は、モデルの非現実性や情報の捨象に向けられるが、それについては彼自身きちんと説明している。
また、彼は自身の議論の射程と限界もきちんと踏まえている。
例えば、彼は「システムーユニット」間の関係とそこから生まれる制約・影響しか議論しないことを述べている(p160〜162)
なぜなら今行っているのは国際政治論であり、各国家の内部要因を分析するのは外交政策研究においてなされるべきだと主張している。
ウォルツの結論(勢力均衡、二極安定等)は目新しくもなく、また現在からみれば間違っているものもいくつも存在する。
しかし、重要なのは「彼がどのようにしてそれを導いたか」の議論とその考え方の方であろう。
バランシングとバンドワゴニング、依存の問題、不確実性の対処の問題など、彼の議論そのものは明快で、肯定的に用いるにせよ批判的に検討するにせよ、学ぶところは非常に多い。
逆に、彼の「議論」自体を見るべきだからこそこれは原典で読まれるべきであり、それが本書を「新しい古典」としている所以であろう。
2015年9月30日に日本でレビュー済み
国際政治に携わるプレイヤーを論じるとともに、いろいろな事例にもふれていてわかりやすい。