何度も読み返されるべき本があるとすれば、この本は間違いなくそれにあたるはずだ。
簡単に読み流せる本ではない。
著者の他の著作を読むことは必須であろうし、憲法や行政法の知識にとどまらず、とりわけ古代ギリシア・ローマに関する知識や、中世以降の"Critique"についての知識、といったものを欠いたまま本書を読んでも、本書を精確に評価することは難しいであろう。
本書の脚注に挙げられている数多の文献のうち、ほとんどを読んでいないことに絶望感を覚える読者が大半なのではないだろうか。
評者も、著者の他の著作はいくつか読んだものの、上に述べたような知識をほとんど持ち合わせていないし、引用されている文献のうち読んだことがあるものは数えるほどである。
それゆえ、少なくとも現時点で精確な評価はできていないことは間違いないが、それでも、本書が疑いもない良書であることは言ってもよいだろう。
前提知識が不十分でも、真摯に読み進めれば視野が広がるだろうし、勉強が進んでから読み返せば、また新たな視野が得られるはずだ。本書を完璧に理解することはできなくとも、「法とは占有を護るものである」という筆者が述べるテーゼ(いわば数学における公理)、そして筆者が言う「政治(政治システム)」という観念の内容について最低限頭に入れて読み進めていけば、本書から学べることは多い。
(裏返して言えば、それらさえもわかろうとしない姿勢では、本書を読むことはおよそ不可能とさえ言ってもいい)
筆者は、「占有」「政治(政治システム)」といったキーワードを踏まえ、法学徒であれば憲法や行政法の講義で一度は学んだに違いない諸々の最高裁判例を論評していく。
文章は、教授と、不気味なほどに博識な学生たちとの対話篇という形式をとっており(モノローグ的な普通の文章よりも、このような対話形式の方が、著者の魅力がはるかに伝わると感じる)、コミカルになっている(もっとも、この点につき「寒い」と感じる向きも多いかもしれない)。
とはいえ、そこで述べられているのは、日本社会において、個人の占有を侵害する不透明な集団がいかにのさばってきたか、そして公共空間の不在によりそれらの排除ができず、最高裁がむしろ積極的にお墨付きを与える場合が多かったこと(少なくない学説もそれを許容してきたこと)、というグロテスクな内容である。
本書を読んで、日本の現実に絶望する読者も多かろうが、絶望を抱えつつも読者は生きなければならない。本書を踏まえて現実にどう向き合うかは、読者に問いとして与えられている。
ところで、筆者は古代ギリシアやローマの歴史を参照し、法の任務が占有を保護することにあるということを前提に議論をする。
その議論は精緻だが、しかし、「そもそもなぜ日本においても、占有が保護されなければいけないのか」ということについて、本書において筆者は論証していないし、他の著作においても(私が読んだ限りではあるが)、明確な論述はされていないと思われる。
西洋は西洋、日本は日本。何故よその事情に従わなければならないのだろうか?
そのような根本的かつまっとうな疑問について、現代日本に対する鋭い問題意識を持ち、優れた歴史家である筆者が、無頓着であるはずがない。
これに対してどのように答えるべきか、ということも、読者に与えられた問いなのであろう。
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[笑うケースメソッドII]現代日本公法の基礎を問う 単行本 – 2017/2/9
木庭 顕
(著)
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公法の根底にある、近代ヨーロッパ概念である政治システムとデモクラシー。そしてそれらが全面的にギリシャ・ローマの観念体系に負うことを踏まえ、人権概念へと迫る。東大法科大学院選択科目「公法・刑事法の古典的基礎」公法部分の[笑うケースメソッド]。憲法や行政法の授業で見知った有名判例が、目からウロコの姿となって現れる。
- 本の長さ328ページ
- 言語日本語
- 出版社勁草書房
- 発売日2017/2/9
- ISBN-104326403284
- ISBN-13978-4326403288
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商品の説明
著者について
木庭 顕(こば あきら)
1951年東京生まれ。1974年東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門はローマ法。主な著作:『政治の成立』(東京大学出版会、1997年)、『デモクラシーの古典的基礎』(東京大学出版会、2003年)、『法存立の歴史的基盤』(東京大学出版会、2009年)、『ローマ法案内――現代の法律家のために』(羽鳥書店、2010年)、『現代日本法へのカタバシス』(羽鳥書店、2011年)、『[笑うケースメソッド]現代日本民法の基礎を問う』(勁草書房、2015年)、『法学再入門 秘密の扉 民事法篇』(有斐閣、2016年)
1951年東京生まれ。1974年東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門はローマ法。主な著作:『政治の成立』(東京大学出版会、1997年)、『デモクラシーの古典的基礎』(東京大学出版会、2003年)、『法存立の歴史的基盤』(東京大学出版会、2009年)、『ローマ法案内――現代の法律家のために』(羽鳥書店、2010年)、『現代日本法へのカタバシス』(羽鳥書店、2011年)、『[笑うケースメソッド]現代日本民法の基礎を問う』(勁草書房、2015年)、『法学再入門 秘密の扉 民事法篇』(有斐閣、2016年)
登録情報
- 出版社 : 勁草書房 (2017/2/9)
- 発売日 : 2017/2/9
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 328ページ
- ISBN-10 : 4326403284
- ISBN-13 : 978-4326403288
- Amazon 売れ筋ランキング: - 839,723位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 746位憲法 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年9月16日に日本でレビュー済み
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民事法編はギリシャ、ローマを経由して獲得された占有概念が近代化によっていかに捻れてしまい
日本民法へと接岸しているかが、全編を貫くテーマ。
特にヨーロッパ大陸法系の民法を継受した日本民法とローマ法の鮮やかな対比により
日本民法に限定せず日本社会が抱える問題点をみごとに抉り出しておられました。
今回の公法編の中心である日本国憲法は英米の憲法観に基づき、GHQ主導で作成されたこと
について自明なのに、本書ではこれをヨーロッパ大陸系法学の伝統概念で説明されている
点につき素人には方法論の是非を判断出来ない不自然さを感じました。
ドイツ人の意見を参考にした大日本帝国憲法の解説ならば納得なのですが、本書には民事法編が
持っていた鮮やかさは欠け、ローマ法、ヨーロッパ大陸法、英米法の理念が混乱したまま
公法学の専門家でない一般読者に提示されているように感じましたので、低い評価と
させていただきました。
誤解を招くようなので、木庭先生の恐ろしいまでの教養の厚みと分析の鋭さとは別の
感想であることを念のため付け加えます。
日本民法へと接岸しているかが、全編を貫くテーマ。
特にヨーロッパ大陸法系の民法を継受した日本民法とローマ法の鮮やかな対比により
日本民法に限定せず日本社会が抱える問題点をみごとに抉り出しておられました。
今回の公法編の中心である日本国憲法は英米の憲法観に基づき、GHQ主導で作成されたこと
について自明なのに、本書ではこれをヨーロッパ大陸系法学の伝統概念で説明されている
点につき素人には方法論の是非を判断出来ない不自然さを感じました。
ドイツ人の意見を参考にした大日本帝国憲法の解説ならば納得なのですが、本書には民事法編が
持っていた鮮やかさは欠け、ローマ法、ヨーロッパ大陸法、英米法の理念が混乱したまま
公法学の専門家でない一般読者に提示されているように感じましたので、低い評価と
させていただきました。
誤解を招くようなので、木庭先生の恐ろしいまでの教養の厚みと分析の鋭さとは別の
感想であることを念のため付け加えます。