いわゆる「失われた１０年」の真相を実証的に問いつめた経済泰斗たちの論考集。
銀行のモラルハザードの反動としての「貸しはがし」という信用収縮は、もっぱら中小企業の投資や雇用を直撃した。銀行破綻とその再生後、米国流経営の追い貸しをせずドライに非効率企業を倒産に追い込む「ショック療法」をとった新生銀行（旧長銀）と日本的手法を踏襲したあおぞら銀行（旧日債銀）の融資先を比較し、優劣による淘汰という効果があったかどうかも検証し、そこでも大企業と中小企業に効果の違いがあることが示されている。こうした検証が、失われた１０年の意味や実相を示しているだけでなく、今の「格差議論」や「構造改革の影」を予見しているようで興味深い。
タレント学者の無責任な軽論や座談ばかりがまかり通る世の中だが、こうした実証分析に地道に取り組む真の学究の徒がいることは心強い。あまりに専門的で高度であり、万人に薦められる一書とは言い難いが、心あるひとびとには是非一読願いたい。
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