日本経済はバブル崩壊後、１０年以上にわたって停滞した。このいわゆる「失われた１０年」という長期停滞の解明を目的とした実証分析のシリーズの第３巻となる。
編者らは、長期停滞の主因は、第一に生産性の成長率の低下、第二に金融仲介機能の低下による投資の不振、第三に公共投資の非効率にあると考える。これらの考えは、ケインズ的な需要不足論や財政均衡縮小反対派と徹底的に対立し、また、リフレ派と呼ばれる日銀主犯説やデフレ脱却が景気回復の絶対条件だと主張した学者らとも一線を画している。
小泉政権が「構造改革なくして成長なし」をスローガンに、公共事業費削減や国債依存度抑制等の「骨太の方針」により財政縮小を進め、公的資金投入による不良債権一掃を果敢に実行し、政権後半に景気が上向いたことは誰しも認めるところであろう。こうした構造改革を概念として支えたのがこのシリーズに示された実証分析と提言である。
さて、シリーズ第３巻の本書は、小泉政権の終焉とその経済政策をリードした竹中氏の退出、安倍政権の迷走と崩壊により未完となった財政政策部分を扱う。財政再建の考え方、歳出・税制のあり方、国と地方あるいは都市・中核地域と過疎地域間の財源再分配、社会保障財政や負担の制度設計、格差問題（所得格差の認識と再分配政策）といった今まさに激論がたたかわされている課題について種々の分析と提言を行っている。
成長限界（カネを注ぎ込んでも成長率が上昇しない）地域や分野に公共投資が偏在し固定化され、東京などの中核地域・成長分野のインフラ強化を怠ったことが、長期停滞の要因のひとつだと本書は喝破する。また、国が地方へ財源を配分し、本来地方自治体が主体的に行うべき事業を中央政府が差配することにより非効率な公共投資がくり返され中央依存の地方自治の財政におけるモラルハザードも引き起こしていると痛烈に批判している。
いまや「都市と地方」「格差」論によって、こうした正論を掲げる声がかき消されてしまった。東京都の法人事業税３０００億円の地方移転や政官健保の国庫負担分を組合健保に肩代わりさせるなどの性の悪い弥縫策が強引に行われようとしている。こうした復古反動の目先だけを追う官僚政治が、日本をまた次の「失われた１０年」につき落とそうとしている。
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