著者が実際に暮らした土地土地のありようを、その時代の空気とともに記録した
紀行文。取り上げられているのは、次のようなラインナップである:
兵庫県西宮市今津浜田町、大阪府箕面市半町、世田谷区下馬町、杉並区下高井戸、
武蔵野市吉祥寺南町、1970年代の渋谷、1979年軍事政権下のソウル、
1980年のロンドン(でのアパート乗っ取り)、ボローニャの霧の風景……。
取り上げられている街に土地カンのきく人は、その記述を深く楽しむことができ
るだろう。しかし、さすがにここに取り上げられている街を全部知っている人は、
著者を除くと、ただ一種類しか存在しないだろう。
それは、熱心な四方田ファンである、彼の書いたもの(非常に多岐にわたるが)
の8割をフォローしているような人には、自信を持ってお勧めできるコレクターズ
アイテムが本書である。
とにかく、読む人見る人であると同時に書く人である四方田犬彦氏には、尋常では
ない量の書物がある。
『リュミエールの閾』に始まる映画評論。
奇書としても名高い『映像要理』(週刊本)。
『貴種と転生』や『空想旅行記の修辞学』に纏められた文芸評論。
『漫画原論』『白戸三平論』といった漫画評論。
『旅の王様』『ラブレーの子供たち』などの旅行記・食物記
『ハイスクール1968』から『先生とわたし』と続く60年代末の記録。
まだまだ、このリストは続く。こうした自著に関する00年段階での中間報告の書
である『マルコ・ポーロと書物』なる著作まである。こうした書物にそれなりに付
き合いがあって、著者の人となりに私淑まではいかなくても、シンパシーを抱いて
いる人は、必ず面白く本書を読めると思います。
こういうと、間口の狭そうな本に聞こえてしまいますが、実際そうであるような気
もします。狷介な大人がひそかに楽しむ読み物、といえるかもしれません。
読みどころは、四方田氏独特の回想の相です。氏独特の細部の具体的な描写(場合
によっては日付まで入っている)を味わうことができます。章ごとに自筆のイラス
トが入っており、終章は「引越しの悦び」と題された総論がついています。
四方田フォロワーには、★五つ以上。
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四方田犬彦の引っ越し人生 単行本 – 2008/6/1
四方田 犬彦
(著)
- 本の長さ207ページ
- 言語日本語
- 出版社交通新聞社
- 発売日2008/6/1
- ISBN-104330002086
- ISBN-13978-4330002088
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登録情報
- 出版社 : 交通新聞社 (2008/6/1)
- 発売日 : 2008/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 207ページ
- ISBN-10 : 4330002086
- ISBN-13 : 978-4330002088
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,175,721位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 7,738位その他の思想・社会の本
- - 32,603位エッセー・随筆 (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年9月7日に日本でレビュー済み
そっか百冊目か。正直もっとか、とっくか、と思ってた。最近、以前にも増して多作だし。
著者の17回には及ばないが、この作品きっかけに数えてみたら私も13回の転居を経験していた。しかもその場所が結構著者とかぶってんだよな。下馬に住んでたし、学校が吉祥寺だったし、横浜にも高輪にも住んでたし、会社が月島だったし。まぁ著者のように海外在住体験はないんだけどさ。やっぱ、この手の読み物の場合、多少でも自分の人生と接点があると興味深く読めるワケで。駒繋神社、ムルギー、音楽館、伊勢屋、ハマのメリーさん、ホテル高輪...なんて当時身近に存在していた固有名詞にけっこう反応してしまう。
もちろん、固有名詞そのものではなくて、246の上の「陰鬱で抑圧的な高架道路」とか、「下北沢の街角の不思議」とかの、“場所place”の捉え方に共感するところが大きいんだけど。今回のエッセイでいいなぁと思った言葉を抜き書きしてみる。
「わたしにとって幸福の定義のひとつは、ある場所に向かうのにいくつもの道筋があり、気の赴くままにそれを選ぶことができることである」
「なべて優れた坂は人に、疲労という感情の美しさを思い出させるものなのだ」
東京に対して心中にある二つの思いとして、「いろいろな場所を知っておきたいという思い」と「いかなる場所の間にも、位階の差を設けたくないという思い」ってのも頷いてしまう。
それと、私も何度か経験しているのだけど、昔住んでいた場所を再訪する際の、「まるで自分が死んで透明な霊となり、現世で人間であった時分の生活を覗きに戻ったかのような、不思議な気持ち」って表現、これには思わず膝を打った。「自分とはまったく無関係なまま、みごとに充足してしまっている風景。懐かしさというものではない。かといって過去が無残に変更されてしまったことをめぐる愛惜の情でもない」。ほんと、まさにそうなんだよなぁ。
著者の17回には及ばないが、この作品きっかけに数えてみたら私も13回の転居を経験していた。しかもその場所が結構著者とかぶってんだよな。下馬に住んでたし、学校が吉祥寺だったし、横浜にも高輪にも住んでたし、会社が月島だったし。まぁ著者のように海外在住体験はないんだけどさ。やっぱ、この手の読み物の場合、多少でも自分の人生と接点があると興味深く読めるワケで。駒繋神社、ムルギー、音楽館、伊勢屋、ハマのメリーさん、ホテル高輪...なんて当時身近に存在していた固有名詞にけっこう反応してしまう。
もちろん、固有名詞そのものではなくて、246の上の「陰鬱で抑圧的な高架道路」とか、「下北沢の街角の不思議」とかの、“場所place”の捉え方に共感するところが大きいんだけど。今回のエッセイでいいなぁと思った言葉を抜き書きしてみる。
「わたしにとって幸福の定義のひとつは、ある場所に向かうのにいくつもの道筋があり、気の赴くままにそれを選ぶことができることである」
「なべて優れた坂は人に、疲労という感情の美しさを思い出させるものなのだ」
東京に対して心中にある二つの思いとして、「いろいろな場所を知っておきたいという思い」と「いかなる場所の間にも、位階の差を設けたくないという思い」ってのも頷いてしまう。
それと、私も何度か経験しているのだけど、昔住んでいた場所を再訪する際の、「まるで自分が死んで透明な霊となり、現世で人間であった時分の生活を覗きに戻ったかのような、不思議な気持ち」って表現、これには思わず膝を打った。「自分とはまったく無関係なまま、みごとに充足してしまっている風景。懐かしさというものではない。かといって過去が無残に変更されてしまったことをめぐる愛惜の情でもない」。ほんと、まさにそうなんだよなぁ。