題名通り、持統天皇が主人公の物語で、乙巳の変の直前(645年。持統の生年でもある)からその死(703年)までが描かれています(文章は、非常に読みやすいです。あと芥川賞作家なので、物語的にどうなのかと、ちょっと心配でしたが杞憂でした)。
物語の対象となる期間は、里中満智子の『天上の虹』とほぼ同じで(マンガですが。持統天皇が主人公なのでまあ当然ですが)、井上靖の『額田女王』は部分的ですが完全に重なり(大化の改新後の孝徳朝(650年)から壬申の乱後の天武朝の初め(674年)まで。なお、私は未読ですが、黒岩重吾の『天の川の太陽』も同じ時代のようです)、また黒岩重吾の『天風の彩王 藤原不比等』とも半分以上重なっていて(不比等幼少の頃(664年頃)からその死(720年)まで)、登場人物や事件などの出来事も多くが同じで、各人物設定も似てるところもあるのですが、私には、特に鎌足、定恵、不比等、遠智娘、大田皇女が意外な感じで新鮮で、その点がかなり面白かったです(大河ドラマで同じ人物の個々の作品での描かれ方が新鮮なのと似てるかもしれません(例えば、義経とか秀吉とか竜馬とか。ただ、ドラマでは俳優ごとの新鮮さもありますが))。また、持統は、『天上の虹』以上に子供の頃から大人で、ズバズバと核心を突くような物言いをします。
額田王は『額田女王』の巫女に近い感じですが、「未来が見える」能力があるところが面白く、それが持統との関係(会話も)に微妙に影響して、話の展開を面白くしているように思います(この時代に知識がある方には、それらの結果が分かっているので)。また『額田女王』では、額田王という人物がとらえどころがなく今一つ分かりにくいですが、この作品では、『天上の虹』と同様にさばさばした感じで、持統との関係も結構長く続きます。
あと、大海人(天武)は書記に「天文遁甲に能(よ)し」とみえますが、漏刻を絡めて、占星術や遁甲について具体的に描かれていて、珍しいのではないかと思います(他の作品では具体的には描かれてないように思います)。
さらに、志貴皇子が(ちょっとしか出てきませんが)辛辣な感じで、なかなかよかったです。
なお、別のレビューアーさんが「基本的な事柄を時系列で並べただけ」と書かれてますが、出来事的にはそうですが(歴史小説なので、普通、基本的には史実は変えられないと思います)この作品を含め、物語でないと、具体的なそれぞれの人物像とか、各登場人物の間の関係性とかは、『日本書紀』や『万葉集』、あるいは飛鳥時代の解説書を読んでも、よく分からないと思いますよ(もちろん、個々の作者の想像ですが)。
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炎の女帝 持統天皇 単行本 – 1999/6/1
三田 誠広
(著)
- 本の長さ355ページ
- 言語日本語
- 出版社廣済堂出版
- 発売日1999/6/1
- ISBN-10433105814X
- ISBN-13978-4331058145
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
父・天智天皇との愛憎を炎のように燃え立たせ、皇位継承を巡る壬申の乱を経て、夫・天武天皇亡き後独裁的に権勢を掌握した女帝・持統天皇を描く長篇歴史ロマン。
登録情報
- 出版社 : 廣済堂出版 (1999/6/1)
- 発売日 : 1999/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 355ページ
- ISBN-10 : 433105814X
- ISBN-13 : 978-4331058145
- Amazon 売れ筋ランキング: - 559,681位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 158,634位文学・評論 (本)
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2022年3月5日に日本でレビュー済み
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2011年12月27日に日本でレビュー済み
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日本の古代。日本の原型ができた時代に、非常に大きな影響力があった持統天皇であるが、何故か今まで小説の題材として取り上げられることが少ないように感じている。
その中にあって、「僕って何?」で芥川賞受賞された三田誠広さんが、この題材を選んだことは大きな意味を感じる。戦後の世代にとって自分の、あるいは日本のアイデンティティは何なのだろうか?それをうまく言語化するのは結構大変な作業だ。しかし、今回、回答の一部がこの小説によって描かれている気がする。
この本を楽しく読むためには、ある程度の日本の古代史の理解が必要かもしれない。そうすると、三田誠広氏がどういう歴史解釈をとったか(小説家の感性は、実に鋭いと思う、真似ができない)・・というポイントで拍手喝さいをしたり、ちょっとガッカリしつつも、その背景に何かがあるのかと、自ら問題を認知できる。
藤原鎌足がどんな人であったか・・・不比等と持統天皇はどんな接点があったか・・・朝鮮半島事情と政策の関係・・・さまざまな歴史的事件の背景・・・何故、持統天皇は逆境を生き抜くことができたか・・・私は、とても感動した。古代に題材をとる小説の中でも、これほど感動した本は少ない。特に、万葉集や古事記などの引用は、三田誠広氏ならではと思う。
最後に、ちょっと考え込んだのは、万葉集にもおさめられている持統天皇の天武天皇への長歌等、哀惜の念などである。このあたり、持統天皇の晩年のこころの軌跡が簡単に描かれたのは何だろうか。まあ、自分でもできないので責めるわけにはいかない。
その中にあって、「僕って何?」で芥川賞受賞された三田誠広さんが、この題材を選んだことは大きな意味を感じる。戦後の世代にとって自分の、あるいは日本のアイデンティティは何なのだろうか?それをうまく言語化するのは結構大変な作業だ。しかし、今回、回答の一部がこの小説によって描かれている気がする。
この本を楽しく読むためには、ある程度の日本の古代史の理解が必要かもしれない。そうすると、三田誠広氏がどういう歴史解釈をとったか(小説家の感性は、実に鋭いと思う、真似ができない)・・というポイントで拍手喝さいをしたり、ちょっとガッカリしつつも、その背景に何かがあるのかと、自ら問題を認知できる。
藤原鎌足がどんな人であったか・・・不比等と持統天皇はどんな接点があったか・・・朝鮮半島事情と政策の関係・・・さまざまな歴史的事件の背景・・・何故、持統天皇は逆境を生き抜くことができたか・・・私は、とても感動した。古代に題材をとる小説の中でも、これほど感動した本は少ない。特に、万葉集や古事記などの引用は、三田誠広氏ならではと思う。
最後に、ちょっと考え込んだのは、万葉集にもおさめられている持統天皇の天武天皇への長歌等、哀惜の念などである。このあたり、持統天皇の晩年のこころの軌跡が簡単に描かれたのは何だろうか。まあ、自分でもできないので責めるわけにはいかない。
2011年4月12日に日本でレビュー済み
日本史の勉強になると思って、根気良く読み続けた。
複雑な血縁関係が歴史を動かすモチーフとなるこの時代は、少し勉強してもすぐに事実関係があやふやになってしまう。
その点、こういった小説という形で読めば印象も新たに天武持統朝の理解ができるのではと期待して読んだ。
結果、なるほどたしかに母系の血縁は把握できるし、それなりに歴史上のできごとをなぞっているので勉強にはなった。
しかし、あるていど日本史を齧った人なら誰でも知っているような基本的な事柄を時系列で並べただけで、
感動や文学性は皆無と言っていい。
作家としての仕事はどこにあるの?と思ってしまう。
複雑な血縁関係が歴史を動かすモチーフとなるこの時代は、少し勉強してもすぐに事実関係があやふやになってしまう。
その点、こういった小説という形で読めば印象も新たに天武持統朝の理解ができるのではと期待して読んだ。
結果、なるほどたしかに母系の血縁は把握できるし、それなりに歴史上のできごとをなぞっているので勉強にはなった。
しかし、あるていど日本史を齧った人なら誰でも知っているような基本的な事柄を時系列で並べただけで、
感動や文学性は皆無と言っていい。
作家としての仕事はどこにあるの?と思ってしまう。
2003年1月25日に日本でレビュー済み
女帝三部作の第2作目、持統天皇の話です。1作目は推古天皇でしたけどね。前作でもそうですが、この話では「神宿る皇女」というのがテーマみたいです。天武天皇の妃となり、強く生きていく姿が描かれています。姉であり同じく天武の妃の大田皇女にライバル心を燃やしたりもしています。