「剣鬼と遊女」。
何回か読んでいるが、そのたびに傑作だと思う。少ない登場人物に役割がきっちりと振り当てられ、それが絶妙に絡むので、歌舞伎を見ているように面白い。
5代目山田浅右衛門の気色悪さは相当のものだが、その浅右衛門が見得を切ったり、直侍が登場して啖呵を切ったりで、歌舞伎のパロディになっている。風太郎の時代ものは歌舞伎の有名な芝居や狂言回しを知らないと楽しめないところがあって、私には不利。
「元禄おさめの方」。
5代将軍、犬公方綱吉の愛妾で、同時に側用人・柳沢吉保の側女でもあり、妖姫と呼ばれたおさめの方(お染)。その妖姫ぶりがまず冒頭で語られるが、あっさり病気で亡くなってしまう。あれれと思いつつ読み進むと葬儀の場面になり、彼女を巡る3人の男と一人の女性が順番に彼女に対する想いを語る・・・ 風太郎には珍しい構成の心理劇。
彼らのモノローグによっておさめの方の本当の人となりが次第に明らかになり、同時に、綱吉と吉保の性格と彼らの行った政治、その結果としての元禄という時代の本質があぶり出される。元禄時代が見直しされる。
「姦臣今川状」。
今川家滅亡の推移をエロと残酷と忠義武士道の味付けで描いた傑作。イメージの薄かった今川家のありようが具体的に描かれていて、興味深い。
今川状は足利義満のころの当主、今川了俊貞世が著した子弟向けの道徳教科書(この人は軍政とも優れた名将だったとのこと)。徳川時代の寺子屋教育にも使われた。
足利一門の今川家は戦国期一、二を争う名門であり、文化の薫り高い家柄。その12代が義元で、公家風の文化人だったが、戦国群雄のうち上洛の大志を実行に移した最初の武将だった。が、桶狭間で織田軍の奇襲にあい、義元は志半ばにして戦死。
この一作は義元の息子、刑部大輔氏真(うじざね)の一生を描いている。平和国家建設を目指したものの、家康と信玄の挟撃を受け、かろうじて伊豆に逃亡脱出。しかし、無事に人生を全うし、近江に没したのが家康の死の2年前だったというのが皮肉で面白い。
「陰萎将軍伝」。
暗愚、さらに白痴で不能とまでいわれる13代将軍家定の真実の姿を、老中阿部正弘に絡めて、老女・飛鳥井に語らせる史実見直しタイプの一篇。非常におもしろく、心理劇としても読み応えがある傑作。
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剣鬼と遊女―山田風太郎傑作大全〈9〉 (広済堂文庫) (廣済堂文庫 や 7-9 山田風太郎傑作大全 9) 文庫 – 1996/12/1
山田 風太郎
(著)
- 本の長さ291ページ
- 言語日本語
- 出版社廣済堂出版
- 発売日1996/12/1
- ISBN-104331605604
- ISBN-13978-4331605608
登録情報
- 出版社 : 廣済堂出版 (1996/12/1)
- 発売日 : 1996/12/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 291ページ
- ISBN-10 : 4331605604
- ISBN-13 : 978-4331605608
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,165,572位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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1922年、兵庫県生まれ。東京医科大学卒業。47年、「宝石」新人募集に応募した「達磨峠の事件」がデビュー作。48年「眼中の悪魔」で第2回探偵作家 クラブ賞短編賞を受賞。その後「甲賀忍法帖」を始めとした忍法帖シリーズなどを精力的に発表した。2000年、日本ミステリー文学大賞受賞。01年7月死 去(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 八犬傳 下(新装版) (ISBN-13: 978-4331614044)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2015年11月27日に日本でレビュー済み
全7編収録。
忠臣蔵テーマの3編はそれぞれ異なるタッチで討ち入り前夜を描き、とりわけ四十七士でも影の薄いマイナー義士の悲哀を採り上げた「俺も四十七士」が秀逸。
これまた浪士たちの悲惨な窮乏を描く「蟲臣蔵」を含めた4編は、肉欲の地獄絵のような吉原モノ。「売色奴刑」のバカバカしさと残酷さが際立っています。
残る1編はチャンバラ活劇と思いきや意外な展開が待っている、黒田騒動の前日譚「妖剣林田左文」。
統一感の感じられないラインナップですが、時にシリアスに、特にユーモアなタッチで描かれるのは、武士のメンツの裏表の、目を覆いたいようなこの世の不条理と無残さであります。
忠臣蔵テーマの3編はそれぞれ異なるタッチで討ち入り前夜を描き、とりわけ四十七士でも影の薄いマイナー義士の悲哀を採り上げた「俺も四十七士」が秀逸。
これまた浪士たちの悲惨な窮乏を描く「蟲臣蔵」を含めた4編は、肉欲の地獄絵のような吉原モノ。「売色奴刑」のバカバカしさと残酷さが際立っています。
残る1編はチャンバラ活劇と思いきや意外な展開が待っている、黒田騒動の前日譚「妖剣林田左文」。
統一感の感じられないラインナップですが、時にシリアスに、特にユーモアなタッチで描かれるのは、武士のメンツの裏表の、目を覆いたいようなこの世の不条理と無残さであります。