80歳を過ぎてもなお活発な研究活動を続けてこられた著者・森岡清美先生に2007年に転機が訪れた。奥様が倒れられ、要介護状態。先生は、ただちに研究者としての生活にピリオドを打って、介護を仕事とする生活に入るべく、決心なさったという。
著者が生れた1920年代、そして物心ついた1930年ごろ、男性が妻の介護をする将来像など、思いもよらなかったであろう。「男の子は一家のあるじになるべき身であり、年下の妻を娶って子をもうけ、死ぬ前には少し床に就く生活があるとしても、そのときは妻または嫁が面倒を見てくれるものだ」というのが「家が代々続く」ことを前提にした当時の社会の常識であったからだ。
ところが、家族社会学の研究者として歩んだ著者は、その研究生活の中で、自分自身は「一家のあるじ」的地位に恵まれながらも、しだいに、日本社会には大きな地殻変動が起こってきていて、上記のような「常識」は成り立たない時代になりつつあることを、認識するようになっていった。そしてついに、ご自分自身の家庭の問題として、老老介護、男性介護者という、まさに時代の最先端の問題を、突きつけられるに至ったのである。
そうした体験の中で、もう研究者として生活を続けることは無理と、先生は悟られたそうだから、きっと、今後ものを書く機会があれば、気楽な随想のようなものだけをお書きになるのだろうと、私は想像していた。
が、さにあらず。ご自分自身の直面した問題を、問題の渦中にあってもあくまで家族社会学的に考察することをやめず、その成果を、このたびのご著書として上梓された。
かつて、同世代から多く出た戦中の若年死亡者のことを取り上げるにあたっても、ふつうの人なら鎮魂歌の詩でもものして詠嘆していたであろう場合に、著者はあくまで社会学の研究者として、彼らの遺書の歴史社会学的分析の書をまとめて『決死の世代と遺書』という研究書としてお出しになったが、このたびもまた同様、あくまで社会学の研究者魂をもって、この問題に取り組まれたのである。
まことに頭が下がる!
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「無縁社会」に高齢期を生きる (アーユスの森新書) 単行本 – 2012/7/25
森岡 清美
(著)
既成の「家族」概念を超えた人間関係を作り、そこにつながろうとする努力こそ、高齢者が無縁社会の現代を幸福に生き抜く鍵――。社会学の権威である著者が、長年の研究と自身の体験をもとに新たな結縁力の形を提案する。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社佼成出版社
- 発売日2012/7/25
- ISBN-104333025486
- ISBN-13978-4333025480
商品の説明
出版社からのコメント
独居の老親を居住地域の離れた子世代が支えるという現状は、まさに我が身のことと実感。世相を切り取る視座に、著者自身の体験を重ねて組み上げた論理の精緻さ、鮮やかさが強く心に響く。
著者について
1923(大正12)年、三重県生まれ。社会学者。東京文理科大学哲学科倫理学専攻卒業。文学博士。東京文理科大学助手、東京教育大学教授、成城大学教授などを歴任。現在は、東京教育大学名誉教授、成城大学名誉教授、中央学術研究所講師他。著書に、『真宗教団と「家」制度』(創文社)、『家族周期論』(培風館)他多数。
登録情報
- 出版社 : 佼成出版社 (2012/7/25)
- 発売日 : 2012/7/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 224ページ
- ISBN-10 : 4333025486
- ISBN-13 : 978-4333025480
- Amazon 売れ筋ランキング: - 496,108位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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