高名なシナリオライターで劇作家の早坂暁氏が、円空仏と対峙し、円空の足跡を追い求めて、早坂氏のイメージする円空の姿を描写した本でした。
劇作家ゆえ、史実に基づきながらも、不明の点は想像を膨らませ、円空の気持ちになって描写してあるわけで、それが本書の好き嫌いを生む要因になると思われました。
16ページのカラー口絵に収められた円空仏の個性豊かなフォルムに魅入りました。旅に継ぐ旅で12万体の仏像を作り続けた僧であり、仏師の凄みが伝わってくるでしょう。
32ページに掲載された「両面宿儺像」に対して、「プリミティーブで、いかもアバンギャルドな仏像である。鎌倉時代のミケランジェロ的な完全調和の仏像を見慣れた私には、きわめて衝撃的で、そして新鮮であった。」と評しています。その印象の通りと受け取りました。
山岳宗教の修験僧と考えられる円空の表現力の源を追いながら本書は展開されました。
旅立つ前に、北にぞ向かう、シャクシャインとの遭遇、あれが蝦夷地の山かいな、持てるものは鉈一丁のみ、放浪について 芭蕉さんと出会った、円空が芭蕉さんと出会って話したこと、草木国土悉皆成仏、天照皇太神の像、十二万体の仏像を目指して、子どもたちの遊び相手、白山信仰とは何か、五十六億七千万年後も、という項目で展開されています。
恐山やシャクシャインの項目では、劇作家らしい空想がふんだんに盛り込まれており、美術史や歴史書を読み慣れた眼には、この描写をなかなか受け入れられなかったのも事実です。円空の心境を思うとそんな気持ちもあってかもしれないし、そう行動したかもしれないけれど、もう少し円空仏そのものに関する記述が欲しいと思いました。
円空の「旅」の描写は、劇の中で展開して欲しいと思います。
母との別れは確かに悲しい物語であったことは間違いありませんが。
円空ブームは、昭和40年代後半におこりました。木喰とあわせて五来重氏を中心とする民俗学者が取り上げましたので、その当時当方も飛騨高山、岐阜、名古屋と円空の足跡を辿りながら円空仏を鑑賞する旅にでたのをよく覚えています。40年経って、今また円空仏を対面しながら、この優れた作品群の魅力に触れています。
ラストに円空の略年表が記されており、口絵カラーと本文中モノクロ写真により、実際に円空仏と対面する際の参考になるでしょう。
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