著者は、子どもの頃いくつか早期教育を受けていますが、その体験からもその効果には懐疑的なようです。
早期教育の危険性を指摘するというよりは、その効果に対して疑いがある、ということを訴える本です。
ユニークだったのは「やってもできない臨界点」という考え方で、ここまでの年齢で出来なければ諦める、というのは目から鱗でした。
さまざまな個性の中で、その才能は身につかないものだったのだと。そんな感じで考えられれば、気が楽ですね。
また、「失敗を経験する意味」という項目は、我が意を得たりという感じがしました。
失敗をむやみに恐れず、チャレンジする姿勢は大切です。
乱暴に言いえば、早期教育の広がりは、育児不安の裏返しなのだろうと思います。
古来のような(あるいは本書で紹介されているベトナムの農村のような)大人や年長の子ども達による「寄ってたかっての育児」であれば、
母親は不安とは無縁でいられるのでしょう。
しかし、日本の現状は全く逆ですので、孤軍奮闘している母親の不安とイライラ感は、押して知るべしです。
氾濫する情報は、何かしておかなければという不安を煽り、巧みなマーケティングにのせられてしまうのでしょう。
結局、どういう風に育って、どういう大人になって欲しいというものがはっきりしないまま、「形のない不安」に押し切られてしまう現状は、気の毒です。
私自身は、子どもに立派な人になって欲しいとか、社会的・経済的に成功して欲しいとか、そういう願望は小さくなってきました。
一時成功を収めても、さまざまな要因で不幸になったりとか、外では立派な方でも家庭に居場所がなかったりとか、そういう事例をいっぱい見てきたのが大きいかも。
では、拠り所は何かと言うと、やはり幸せになって欲しいと。これに尽きます。
でも幸せって何? これも意見の分かれるところでしょうが、僕は「良い友達に恵まれる」、というのがとても大事なことだと考えています。そして、良い友達に恵まれるには、自らがその友達に受け入れられる、良い気質を持っていなければならないんじゃないかとも。
幸せな家庭を築ける、というのも、この延長線上にあるように思います。
うちの息子は保育園育ちなので、乳幼児の頃からお友達、そして多くの信頼に足る大人に囲まれ、充実した人間環境で育ってきました。
傍らで眺めてきましたが、保育園児を「かわいそう」と感じたことはありませんでした。
むしろ、生後数ヶ月からそうした環境に居られたのは、人間関係の早期教育と言えなくもない(笑)。
筆者は、保育所を地域の子育て拠点とする案を提言していますが、一つの可能性だと思います。子どもだけでなく親の、大人同士の関係が多様化する効果は、とても大きいでしょう。
『早期教育と脳』という題名ですが、ストレートにそのことを書いているのは全5章のうち、第一章と二章だけです。
ですが、他の3章も示唆に富んでおり、特に第五章「障害児教育から子育てを考える」は、読んて良かったと思いました。
また、「あとがき」に託された筆者のメッセージはシンプルですが、心に響きました。
良い本です。
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早期教育と脳 (光文社新書) 新書 – 2004/8/18
小西行郎
(著)
普通の育児の中にこそ、脳の成長に必要な刺激がすべてある!
本来、生物にとっての「臨界期」とは、「生物が環境に適応するために脳が柔らかい状態で生まれ、それぞれの環境に合わせて生きていけるように脳の機能を柔軟に作り替え、それを定着させることのできる時期」のことです。この「環境に合わせて生きていける」が重要なのであり、算数や英語といった知能を強化することのみに与えられた能力ではないのです。
ところが、今の行きすぎた早期教育の風潮は、人間の発達の一つの側面であるに過ぎない「臨界期」を、「教育的効果の高い時期」といった狭い範囲で捉えているように感じられます。(本文より)
教育すれば、必ず効果があるわけではない!
著者は1947年香川県生まれ。京都大学医学部卒業後、福井医科大学助教授、埼玉医科大学教授を経て、現在東京女子医科大学教授。日本乳児行動発達研究会、日本赤ちゃん学会事務局長。文部科学省の「脳科学と教育」プロジェクトにも携わる。著書に『赤ちゃんと脳科学』(集英社新書)『赤ちゃんのしぐさ辞典』(共著、学習研究社)など多数。
第一章 早期教育と脳
第二章 乳幼児と英語教育
第三章 育児不安と孤独な母親
第四章 地域社会と子ども集団
第五章 障害児教育から子育てを考える
本来、生物にとっての「臨界期」とは、「生物が環境に適応するために脳が柔らかい状態で生まれ、それぞれの環境に合わせて生きていけるように脳の機能を柔軟に作り替え、それを定着させることのできる時期」のことです。この「環境に合わせて生きていける」が重要なのであり、算数や英語といった知能を強化することのみに与えられた能力ではないのです。
ところが、今の行きすぎた早期教育の風潮は、人間の発達の一つの側面であるに過ぎない「臨界期」を、「教育的効果の高い時期」といった狭い範囲で捉えているように感じられます。(本文より)
教育すれば、必ず効果があるわけではない!
著者は1947年香川県生まれ。京都大学医学部卒業後、福井医科大学助教授、埼玉医科大学教授を経て、現在東京女子医科大学教授。日本乳児行動発達研究会、日本赤ちゃん学会事務局長。文部科学省の「脳科学と教育」プロジェクトにも携わる。著書に『赤ちゃんと脳科学』(集英社新書)『赤ちゃんのしぐさ辞典』(共著、学習研究社)など多数。
第一章 早期教育と脳
第二章 乳幼児と英語教育
第三章 育児不安と孤独な母親
第四章 地域社会と子ども集団
第五章 障害児教育から子育てを考える
- 本の長さ198ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2004/8/18
- ISBN-104334032621
- ISBN-13978-4334032623
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登録情報
- 出版社 : 光文社 (2004/8/18)
- 発売日 : 2004/8/18
- 言語 : 日本語
- 新書 : 198ページ
- ISBN-10 : 4334032621
- ISBN-13 : 978-4334032623
- Amazon 売れ筋ランキング: - 570,171位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2009年8月13日に日本でレビュー済み
子供には親を超えてほしいと
願うものですが、過剰な早期教育は
さほど効果が見込めないようです。
親は子供の成長を促すのではなく、
後押しするような気持ちで
接するのがよいのだと思いました。
願うものですが、過剰な早期教育は
さほど効果が見込めないようです。
親は子供の成長を促すのではなく、
後押しするような気持ちで
接するのがよいのだと思いました。
2007年4月4日に日本でレビュー済み
行き過ぎた早期教育を否定する本。たしかに行き過ぎた早期教育はいけない。しかし早期教育は必要だと思います。小学校に入ってはじめてひらがなを習ったり計算を覚えるようでは学校の授業にはとうていついていけないのが現実です。基本的な読み書き計算は幼稚園で身に付けさせるべきだと思います。
2020年10月5日に日本でレビュー済み
本書は、子供を方向付けるのは親の身勝手なのでは、という投げかけをしていると思う。選択肢を示して、進みたい方向へ進むことを援助するのが親の役割である。親が進んで欲しい方向を子供に押し付けるのは、親の身勝手ということであろう。頭がよければよいのか、健常であればよいのか?これらの問いに対して、親がどのような考えを持っているかが、子供の考え方に影響していくように思う。
2005年6月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今流行の早期教育について,脳科学の観点から検証する好著.
非常に読みやすく,育児中の親・教員・一般の人にオススメ.
脳を専門にやっている人には少し物足りないかもしれないが,読み物として十分楽しめる.
この手の本は何冊か読んだが,その中でも最後まで視点がぶれずよくまとまっている.
早期教育については様々な立場をとる人がいると思うが,積極的な立場の人にこそ立ち止まって読んでほしい一冊.
非常に読みやすく,育児中の親・教員・一般の人にオススメ.
脳を専門にやっている人には少し物足りないかもしれないが,読み物として十分楽しめる.
この手の本は何冊か読んだが,その中でも最後まで視点がぶれずよくまとまっている.
早期教育については様々な立場をとる人がいると思うが,積極的な立場の人にこそ立ち止まって読んでほしい一冊.
2004年9月22日に日本でレビュー済み
少子化の現在、子供に対してかけられるお金が増え、早期教育をふくむ教育熱が高まっていると思う。
著者は障害児教育を専門とする立場から、一般的な早期教育に対しての提言・批判をしている。
頭ごなしに早期教育に反対するのではなく、現在あるデータを挙げつつ、自身の研究や体験を含めて、精緻に考察していく。
「こうすれば必ずうまくいく!」「これはやってはいけない!」といった一本調子な本が多い中で、その慎重な姿勢はとても好感が持てる。三歳児神話や幼児からの英語教育にも、「ちょっとまってくださいよ」と言いながら検証が始まるような流れ。
おおまかに流れている思想は、あまり極端なことをして偏りのあることをするよりも、こどもと親があり、家族があり、地域があるという状態を改善していく必要がありそうだ、ということ。
そんなにすぐに変わらないよ、と言われるかも知れませんが、なにごともできることからコツコツと。じっくりと書かれる著者の考え方から学べることがたくさんあります。
著者は障害児教育を専門とする立場から、一般的な早期教育に対しての提言・批判をしている。
頭ごなしに早期教育に反対するのではなく、現在あるデータを挙げつつ、自身の研究や体験を含めて、精緻に考察していく。
「こうすれば必ずうまくいく!」「これはやってはいけない!」といった一本調子な本が多い中で、その慎重な姿勢はとても好感が持てる。三歳児神話や幼児からの英語教育にも、「ちょっとまってくださいよ」と言いながら検証が始まるような流れ。
おおまかに流れている思想は、あまり極端なことをして偏りのあることをするよりも、こどもと親があり、家族があり、地域があるという状態を改善していく必要がありそうだ、ということ。
そんなにすぐに変わらないよ、と言われるかも知れませんが、なにごともできることからコツコツと。じっくりと書かれる著者の考え方から学べることがたくさんあります。
2015年2月14日に日本でレビュー済み
2004年の本。著者は東京女子医科大学教授で、日本赤ちゃん学会の事務局長である。全体的な論調から受けた印象として、早期教育に効果があるか、という命題に対しては断定的なことは言えないようである(効果があるのかもしれないし、ないのかもしれない)。著者は京大医学部卒というエリートであり、本人は早期教育を受けたようである。
曰く・・・
赤ちゃんは生後直後はLとRの発音を区別できるが、生後6ヶ月になると日本の赤ちゃんはLとRの区別をできない子が増えてくる。赤ちゃんの脳は生きていく上で(本人にとって)不要な能力をどんどん捨てていく(ただし、おとなになってからでもLとRを聞き分ける訓練は可能、とのこと)。
乳児期には、能動的に五感と身体を駆使して対象からの反応を受け取りながら対象を認識していくことが不可欠。育脳に効果のあるとされるビデオなどのバーチャル教材については著者は否定的である。一方的に情報が与えられる状況は、子どもが自ら世界を広げる力を阻害する恐れがある。
英語の早期教育は低年齢児から始める必要はない。やるとすれば第一言語を習得したあと。本人のやる気が大事であり、英語早期教育の怖さは効果を求めることにある。
砂場は、遊びのマニュアル化やパターン化を防ぐためにある。砂場は、造形と破壊のおもしろさ、仲間と遊ぶ楽しさを与えてくれる。
みたいな話。
曰く・・・
赤ちゃんは生後直後はLとRの発音を区別できるが、生後6ヶ月になると日本の赤ちゃんはLとRの区別をできない子が増えてくる。赤ちゃんの脳は生きていく上で(本人にとって)不要な能力をどんどん捨てていく(ただし、おとなになってからでもLとRを聞き分ける訓練は可能、とのこと)。
乳児期には、能動的に五感と身体を駆使して対象からの反応を受け取りながら対象を認識していくことが不可欠。育脳に効果のあるとされるビデオなどのバーチャル教材については著者は否定的である。一方的に情報が与えられる状況は、子どもが自ら世界を広げる力を阻害する恐れがある。
英語の早期教育は低年齢児から始める必要はない。やるとすれば第一言語を習得したあと。本人のやる気が大事であり、英語早期教育の怖さは効果を求めることにある。
砂場は、遊びのマニュアル化やパターン化を防ぐためにある。砂場は、造形と破壊のおもしろさ、仲間と遊ぶ楽しさを与えてくれる。
みたいな話。
2010年3月25日に日本でレビュー済み
前半では、動物実験を人間にそのままあてはめることへの疑問・危険性を科学的に解説している。
語学獲得の順序(母国語である日本語が完成する前に英語教育を行うことが本当にバイリンガルへの楽で良い方法なのか)をはじめ、早期教育について終始一貫して科学的なアプローチがなされている。
余談だがマルタに留学経験のある知人の話によれば、(マルタ人は、マルタ語、英語のバイリンガルが普通)マルタ語をある程度覚えたあとに4歳くらいなって、「そろそろ英語の学習をはじめようかしら」という感じで、順序としては、母国語、英語の順をとっているとのこと。
早期教育をどうするか迷っている親にとって大変気持ちが楽になる一冊。
一般の人にも読み物として十分楽しめるが、これから親になる人には特におすすめの一冊。
語学獲得の順序(母国語である日本語が完成する前に英語教育を行うことが本当にバイリンガルへの楽で良い方法なのか)をはじめ、早期教育について終始一貫して科学的なアプローチがなされている。
余談だがマルタに留学経験のある知人の話によれば、(マルタ人は、マルタ語、英語のバイリンガルが普通)マルタ語をある程度覚えたあとに4歳くらいなって、「そろそろ英語の学習をはじめようかしら」という感じで、順序としては、母国語、英語の順をとっているとのこと。
早期教育をどうするか迷っている親にとって大変気持ちが楽になる一冊。
一般の人にも読み物として十分楽しめるが、これから親になる人には特におすすめの一冊。