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この本の主人公は白人の労働者階級です 労働者階級って聞くとあまりイメージがわかないかもしれないけど 典型的には8マイルのころのエミネムです
エミネムはアメリカ生まれで この本はイギリスが舞台なので違いはあるんだけど 基本的な理解としては「エミネム in イギリス」で問題ないです 極端な例なんだけどアメリカだとレッドネックって言われるような人々でトレーラーハウス暮らしをして自動車のライン製造などで働いています
それで Brady さんの本がすごいのはまさにこの白人労働者 つまりイギリスのエミネムたちを代弁してるところですね これってすごく貴重です
何故かって言うと 日本で映画とかテレビとかをみていて出てくるような人とは違うひとたちだからです 日本で知られているイギリス人はエマ・ワトソンやエリザベス女王です 芸能人とかスポーツ選手とか あとは政治家とか だいたい金持ちエリートの人のことばっかり入ってきますよね でも Brady さんの本はそういうところでふだんは見えない「社会の底辺」を描き出しています 例えば僕たちが旅行で行ったとしてもふれあえない人たちをあぶり出しています 見えないけど でも確かにイギリスではそうやって働いて家庭をつくっているひとはたくさんいます
これはすごく貴重だと思います 実際にこの本の中では5〜6人 もうちょっと多いかな 何人かの人にインタビューして彼彼女らの意見っていうのをインタビューした内容も載っています もちろんこれは統計的な手法ではないし裏付けがないものではあるんですけれども でも読んでみると確かにこういう人はいそうだなと体感できます 知り合いができたような感じですね でもなんかこれは欧州の人だからかわかんないけどなんかちょっと政治に詳しすぎるかもとは思いました これ明らかにブレディさんの解釈が入ってるよねみたいなのはある 本に編集が入ってるから当たり前なんだけどね でも基本的に彼女がイギリスのエミネムたちと日々触れ合ってるって言うのはまあほぼ間違いないんじゃないかなっていうのは伝わってくるのでこの本が貴重っていう部分には変わりはないのかなと思いますね
■ 労働者を無視したツケが回ってきた
それでこっからが本題だけど このイギリスのエミネムたちがEUから出ていくほうに投票したんだよね
EUは基本的には良いことですよね 輸入品の関税がなくなるとか パスポートなしで出たり入ったりできます じゃあなんでEUから出ていこうとしているのか
こういう労働者が心配しているのは普段の生活です 不景気でクビになったら手当はあるのか 転職できるのか 病気になったら仕事どうしよう 子供の教育費をどうしようか 身近な問題ですね
彼らは職が奪われています 少なくともそう思っています 英語の喋れない大陸から若いポーランド人が入ってきてトラックの運転手になります 最近はナビがあるから英語が話せなくても仕事ができるんですね このままだとマズイ でも政治はなにもしてくれない むしろゼロ時間契約なんてものを法案通過させてしまう 敵対視されてあたりまえですよね
それが「なんでEUとか言ってんの まず俺らでしょ 無視すんなよ」っていう意見表明に繋がります
それで国境を閉ざしたい 移民が入ってこないようにポーランド人とかに職が奪われないようにしたい これを労働者たちは「主権を取り戻す」って表現しています 確かにちょっと人を寄せ付けない感じに聞こえるかもしれません
でも考えていることは 自分たちの生活のことなんです 政治に期待できないなら投票で変えようぜ もう生活に余裕もない 今のままズルズルいくとやばい どうにかするには何かに賭けなければいけない はい「じゃあEUからの脱退でしょ」となるわけです
合理的な選択だと思いません? ちゃんと考えて投票してるでしょ なのにエリートは労働者たちをバカ呼ばわりですよ エリートは労働者が差別主義者でEUの利点が分かっていないと思ってる けどそうじゃない
無視してる金持ちエリートにも悪いところはあるやろって話です だからこの本はエリートたちへの警鐘っていう風な読み方はできるんじゃないかなと思います つまり自分たちが 労働者たちを無視して 逆に金持ちたちに都合のいい政治を行ってる 民衆の生活は良くなってない オレたちを無視するな さもないとしっぺ返しを食らうぞと訴えているんだと思います ブレイディ家はその労働者たちのまっただなかで生活しいます
この本はエリートが頭でっかちな所エリートの弱いところ 想像力が及んでいないところを いやいやこういう人たちはいるんだぜっていうのを思い出させてくれるはずです ブレグジット派の人への偏見を解いてくれます 自分たちの生活 雇用とか学校とか地域のコミュニティとか医療とかそういうところを心配している 別に外国人が嫌いだからとか そうゆう人は多くないんだよっていうことです
先ほど触れたインタビューの中でも 中国系移民の家に落書きやゴミ投げ入れがあったときには中国人を守る側のリーダーになった人もいたんです
でね Brady さんの本で分かることは そういう労働者たちって自分たちのことを「数が減っている」と考えていることです 統計的に正しいかはさておきね だって周りのひとがどんどん外国からの出稼ぎになっているから
でも本当は労働者は相当な数がいる だって じゃないとそもそも国民投票で勝てないからね 言ってみればふつうのイギリス人たちなんですよ
EUに残るべきだって言ってる金持ちエリートたちは労働者をバカだと思ってるんですね こういうもう EU から出てええやろって思っている人たちのことを 本当はそういう労働者も別に EU の利点が分かってないわけではないんですけどね そもそも外国人と一緒に働いている人も多いですから 単一市場に残る利点ってのは本当はわかっている
そういう意味ではブレディさんはアメリカとイギリスとは違うっていうけど実際は似てるよね ヒラリー・クリントン候補が負けた原因は労働者を無視したからですよ こうした断裂は先進各国で起きつつあります
■ どうすべきか
まだ終わりじゃないんです Brady さんの本のいいところは じゃあお金持ちのエリートたちがどうすればいいのっていうところまで書いています エミネムたちに支持されているイギリスの労働党がどうやって成功しているかっていう部分まで紹介されています
イギリスの労働党って 日本の知識人からも評価は高くて コービンっていうカリスマではないけれども若者からすごく人気を集めている労働党の党首がいます
コービンは政権運営は上手くなくて結構党内ともガタガタの状態になっちゃうんですけれどもなぜか若者からの 信頼はあって どんどん新しい党員が入ってくる これってアメリカだと明らかにバーニーサンダースと似ています バーニーもそんなにパッとしないお爺ちゃんなんだけど金持ちトップ1%に資産が集中してるのはおかしいやろってぶち上げて若者を中心にとんでもない支持をとりつけています
実際にバーニーサンダースの陣営からイギリスの労働党にどうやって若者の支持を得たかっていうところをしっかりとレクチャーしたっていうことが紹介されています 草の根の政治活動をどうやって展開していくかという知見が伝わっているわけですね
耳が痛いはなしもあります ありがちな政治運動の失敗は大学生とかインテリとかが行う「ソーシャルメディアで議論して たまにはデモに行く」みたいなものです これってありがちと言うか日本でも政治に関心のあるひとはそうに考えてると思います Twitterもデモも悪くないけどそれだけじゃ足りないよって言った労働党のブレーンがいます
オーエン・ジョーンズっていう若手の論客がいます 彼は「どぶ板選挙」をしろと言っています どぶ板って 公職選挙法の兼ね合いもありますが労働者階級の一件一軒の家に行って話をする 地域のイベントに顔を出して話をする もちろん伝統的などぶ板選挙の方法だけじゃなくてこまめにソーシャルメディアで発信するとかYouTubeで問題意識を共感できるCM流すそういうとこも含まれているのでしょう
実際に マイケルムーアのシッコとかの上映会とかをして 医療とか教育とか雇用について心配している人たちに本当にそういう問題について考えてるのは 僕たちの政党なんだよっていうのをちゃんと示しているらしい
今のリベラルな政党はインテリの集まりになってしまっています 分かりやすく言うと例えば何か集会をやるとしてもなんとかアートセンターみたいな場所でやりがちです 金持ちエリートは「えっ だってそこが日本の中心じゃん」って言い訳する
でもオーエンは そうじゃなくて例えば日本の首都圏で言うと千葉ニュータウンとか和光市とか もしくは神奈川の百合ヶ丘とか港北区とかそういう場所で政治活動をしろって怒っている
Twitterやデモだけじゃない 仕事が忙しくても参加できる 休日のショッピングモールで催しをやるとか生活に根付いた活動が求められています 本当に現状を変えてくれるひとはだれなのかを有権者に伝えないといけない
■ 関連作品
ということで「労働者たちの反乱」紹介してみました 労働党の歴史も紹介されていました なんたって公営住宅に実際住んでいるひとですからね 当事者です 筆に体重が乗っています
似たような労働党の歴史を扱った『赤いバラは散らない』よりも僕は分かりやすかったです もちろん使い方の問題なんでしょうが
最近は対談の書き起こしの新書が増えていますが こういうずっしりした内容の本を読めるのはありがたいです