残念ながら、田中先生の作品としてはあまり面白いとは思えなかった。本作品が発表されたのは2001年で、1999年頃から作者は取材等をして企画として準備していたらしい。私が本作品を読んだのは2018年。つまり平成最後の夏だった。せめて本書が刊行されたリアルタイムで読んでいたら違った感想になっていたかもしれない。
本作品に限らないが、田中先生の歴史物の特徴の一つとして、蘊蓄の多さがある。巻末には参考文献が多く挙げられているし、もちろん田中先生は文献にあたって調べて書いているのは分かる。あとがきにあるようにドイツに取材にも行っているようだ。だが、この手の蘊蓄というのは、今ならネットでググればある程度容易に出てくる部分も多いため、蘊蓄自体のありがたみが、刊行時と平成最後とでは価値が違ってきているので「へぇ」ポイントが低いというべきか。 またその蘊蓄を物語の展開や描写の中に自然に盛り込んでいるならまだしも、物語の流れをぶった切って横道に逸れての説明が多かったので、説教臭い上にストーリーの流れが悪い。
そして一冊読み切りという分量の作品で、その中で蘊蓄に要する文章量が多いということは、自ずとストーリーが簡略に成らざるを得ない。なので復讐譚自体は悪いものではないが、テンポは悪い上に展開も広がってゆかず、物足りなさを感じる。
田中作品というと、その大きな魅力を形成しているのはキャラだろう。ただ本作には、魅力的なキャラというのもいないかな。例えば歴史上の実在人物なら、史実という部分で行動に制限を受けることもあるが、十分に魅力を持ちうる。史実の人物であっても名前だけとか、あるいは完全な架空人物ならば、作者の裁量でその人物をいかに魅力的に描けるか変わってくる。 田中先生の作品だと、短編なら荀灌やイシハ、一冊読み切りなら天竺熱風録の王玄策や彼岸法師など、いずれも良いキャラだった。彼岸法師などは特に物語を面白くする役割をよく担っていたものだと今更ながらにも思う。 翻って本作品はどうか。主人公のエリックが実在なのかあるいはどこかの資料に名前だけレベルなのか架空なのかは不明だが、少なくとも歴史上の有名人ではないはず。
ならば、序盤でそのキャラクター性に共感を持てれば良かったのだが、先述の通りこの時代のハンザ同盟の舞台設定の説明蘊蓄が多く、主人公キャラに入り込めない。だったら美人のヒロインでもほしいところ。だが、出てくるのはホゲ婆さん。いやBBAだから駄目というよりは、本作中にかなり多いご都合主義部分を担っていたキャラであるためあまり好きになれなかった。 ウィットのきいた会話の応酬なども少なく、そういうことでキャラの魅力という点でも弱かったと思う。
また、刊行当初ならまだ良かったかもしれないけど、今、読むと鼻につくのが、過度な中華至上主義。ヨーロッパが世界史を常にリードしてきたわけじゃなく、同時代のヨーロッパに較べて中華が進んでいることは多々あった、というのは、中華を舞台にした作品で言うならまだいいとしても、ヨーロッパが舞台の作品でわざわざ中華を引き合いに出してヨーロッパを貶める必要は無いと思った。 まあそういうことなので小説としての面白さよりも、ハンザ同盟まわりについての概説をプチ物語仕立てで行ったものとして見れば、確かに興味深いとはいえる。★3
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バルト海の復讐 (光文社文庫 た 24-4) 文庫 – 2008/12/9
田中 芳樹
(著)
バルト海の復讐 (光文社文庫) [Dec 09, 2008] 田中 芳樹
- 本の長さ297ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2008/12/9
- ISBN-10433474513X
- ISBN-13978-4334745134
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登録情報
- 出版社 : 光文社 (2008/12/9)
- 発売日 : 2008/12/9
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 297ページ
- ISBN-10 : 433474513X
- ISBN-13 : 978-4334745134
- Amazon 売れ筋ランキング: - 2,136,041位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 10,290位光文社文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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1952年10月22日、熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年在学中に「緑の草原に…」で、幻影城新人賞受賞。1988年「銀河英雄伝説」にて第19回星雲賞受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 野望円舞曲〈9〉 (ISBN-13: 978-4199052019 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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2008年4月27日に日本でレビュー済み
ハンザ同盟。あまり馴染みのない言葉に惹かれました。
この同盟の背景や位置づけなどがわかりやすくまとめられており、
導入編としてストレスなく理解できます。
もう何冊か、この同盟に関する資料を読んでみたいと思いました。
田中芳樹さんの本には、いわゆる活劇の要素を期待してしまうのですが、
その意味では、淡々と物語が進み、盛り上がりにかける感も否めません。
知識を広げつつ、気軽に読める一冊というところでしょうか。
この同盟の背景や位置づけなどがわかりやすくまとめられており、
導入編としてストレスなく理解できます。
もう何冊か、この同盟に関する資料を読んでみたいと思いました。
田中芳樹さんの本には、いわゆる活劇の要素を期待してしまうのですが、
その意味では、淡々と物語が進み、盛り上がりにかける感も否めません。
知識を広げつつ、気軽に読める一冊というところでしょうか。
2004年12月27日に日本でレビュー済み
物足りない。その一言に尽きる。
学生時代に銀英伝や創竜伝にハマったファンとしては、
この『バルト海の復讐』はひたすら退屈。
海洋冒険小説としては書き込みが甘いし、
田中芳樹節とも言える、あの毒舌がまったく冴えていない。
この本の一体どこを読めばいいのか?という感じだ。
彼の著作で最近一番売れる「薬師寺涼子」シリーズも、
主人公のモチーフは明らかに創竜伝の小早川奈津子。
出版社が変わっても「アルスラーン」が進む様子は見えず、
(つーか何年止まっているんだ)
古巣・中国物も、いまひとつ精彩を欠く。
新しい、キレのある田中芳樹はもう読めないのだろうか。
あの冴えを、爽快感を、ファンは待っているのに。
学生時代に銀英伝や創竜伝にハマったファンとしては、
この『バルト海の復讐』はひたすら退屈。
海洋冒険小説としては書き込みが甘いし、
田中芳樹節とも言える、あの毒舌がまったく冴えていない。
この本の一体どこを読めばいいのか?という感じだ。
彼の著作で最近一番売れる「薬師寺涼子」シリーズも、
主人公のモチーフは明らかに創竜伝の小早川奈津子。
出版社が変わっても「アルスラーン」が進む様子は見えず、
(つーか何年止まっているんだ)
古巣・中国物も、いまひとつ精彩を欠く。
新しい、キレのある田中芳樹はもう読めないのだろうか。
あの冴えを、爽快感を、ファンは待っているのに。
2015年4月26日に日本でレビュー済み
タイトルにあるように復讐劇の物語ですが,描かれるそれはとても小さくまとまり,
そこへと至る計画や準備もなく,ただ淡々と流れて終わってしまった感は拭えません.
船乗りらしく船の上でとなる終盤も,見せ場のはずなのにこちらもあっさりと片付き,
そこにあるであろう重苦しい感情や雰囲気は,最後まで感じることができませんでした.
このほか,魔女や何かありそうな黒猫など,おもしろそうな素材も中途半端な扱いで,
印象に残っているのが,当時の文化にまつわる豆知識というのはあまりに残念過ぎます.
そこへと至る計画や準備もなく,ただ淡々と流れて終わってしまった感は拭えません.
船乗りらしく船の上でとなる終盤も,見せ場のはずなのにこちらもあっさりと片付き,
そこにあるであろう重苦しい感情や雰囲気は,最後まで感じることができませんでした.
このほか,魔女や何かありそうな黒猫など,おもしろそうな素材も中途半端な扱いで,
印象に残っているのが,当時の文化にまつわる豆知識というのはあまりに残念過ぎます.
2008年7月30日に日本でレビュー済み
私は、もう3回ぐらい読み返してるけど、面白い。深すぎず、浅すぎず。読者に人生や世界の無常を考えさせるような小説は、苦痛だ。でも、小説には何か新しい発見がほしい。そんなのにはピッタリだと思う。田中芳樹の小説は続編が必ず出るとは約束されてないから、1刊で完結しているこの本は、お買い得。
2009年5月14日に日本でレビュー済み
最初、この本のレビューがひどかったので読もうか迷いましたが、読んでみると普通におもしろかったです。当時の十五世紀の北ドイツという普段なじみのない舞台は新鮮で、歴史小説としても楽しめました。
2001年11月5日に日本でレビュー済み
ハンザ同盟についてはとてもよくわかりますし、15世紀のヨーロッパについてはわかりやすい説明があって大変勉強にはなりますが、純粋にストーリー内容について考えるといまいちのような感じがします。 少なくとも心躍るような面白さはありません。
2009年1月2日に日本でレビュー済み
正直 最近の田中氏の本の売り方はおかしいです。 名作をリーズナブルに読者にと言うのも判りますが、この作品自体もハードカバーからソフトカバーそして文庫へと安直に出版されてます。
もう田中氏には執筆能力は無くなってしまったのでしょうか?
落胆と失望と氏のやる気の無さに怒りを感じます。
もう田中氏には執筆能力は無くなってしまったのでしょうか?
落胆と失望と氏のやる気の無さに怒りを感じます。