17世紀末のメキシコの宗教的な抑圧社会の只中で、時代を先取りし、目覚ましい活躍をした才色兼備の作家(詩人)がいたことを、『知への賛歌――修道女フアナの手紙』(ソル・フアナ著、旦敬介訳、光文社古典新訳文庫)で知り、びっくりした。
ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルス(「十字架の修道女、フアナ・イネス」を意味する宗教名)がメキシコを代表する女性であることは、200ペソ紙幣に彼女の肖像が描かれていることからも知れる。
その文学的才能のため、宮廷の権力者たちからかわいがられていたフアナは、17歳の時、自ら修道女となり、以降、43歳で亡くなるまで、修道院から一歩も出ない生活を送るのである。宗教(カトリック)に特に熱心というわけではなかった彼女が修道女という道を選択したのは、「修道院に入れば、結婚に伴うさまざまな不快事を避けることができ、日々のスケジュールで定められた必要最小限の宗教的勤めさえ果たせば、後は自由時間を勉強なり詩作なりに使うことができる」と考えたからだというのだから、この決断にも驚かされる。
この本には、抒情的な詩10篇と、2つの長文の書簡が収められているが、「告解師への手紙」と「ソル・フィロテアへの返信」の内容の大胆さ、率直さに、またまた驚かされることになる。
彼女は、これらの手紙の中で、当時、女性に課されていた社会的制約の理不尽さを告発し、女性であっても知的活動・文学活動に携わりたいのだと強く訴えている。そして、男性に依存せずに生きる女性の生き方や、生前からほぼ全ての作品が全集として刊行されるという名声を得たが故の苦痛、苦悶、孤独にも言及している。
司教という聖職高位者に対しても、相手に対する敬意を装いながら、ぞの実、臆することなく、堂々と自己主張を貫いているところに、フアナの意志の強さと勇気が如実に表れている。
フアナについて、さらに知りたい向きには、『ソル・フアナ=イネス・デ・ラ・クルスの生涯――信仰の罠』(オクタビオ・パス著、林美智代訳、土曜美術社出版販売)がある。
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知への賛歌――修道女フアナの手紙 (光文社古典新訳文庫) 文庫 – 2007/10/11
ダブルポイント 詳細
- 本の長さ234ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2007/10/11
- 寸法10.7 x 0.8 x 15.3 cm
- ISBN-104334751423
- ISBN-13978-4334751425
登録情報
- 出版社 : 光文社 (2007/10/11)
- 発売日 : 2007/10/11
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 234ページ
- ISBN-10 : 4334751423
- ISBN-13 : 978-4334751425
- 寸法 : 10.7 x 0.8 x 15.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 806,219位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 20位その他の外国文学作品(日記・書簡)
- - 189位スペイン・ポルトガル文学研究
- - 286位スペイン文学
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上位レビュー、対象国: 日本
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2012年4月11日に日本でレビュー済み
2010年10月30日に日本でレビュー済み
収録されている修道女フアナの手紙2篇が、ものすごく明晰かつ論理的に書かれていて、舌を巻いた。礼儀正しく目上の人に反論したり自己主張するのって、知性が要るんですね、と思ったり。訳文が明快だし、註も欲しいところについていて、よかった。複雑な作品のようだけれど、「解説」で触れられている、同じソル・フアナのバロック詩「第一の夢」とやらも読んでみたくなった。
2008年3月16日に日本でレビュー済み
何げなく手に取った一冊だったが、読み進むほどに
居住まいを正させるかのような本だった。
著者は17世紀メキシコの修道女。
生への賛歌とも言える詩篇と手紙は、キリスト教徒でもない私を
なぜか敬虔な気持ちにさせた。
私が美貌も評価しないのは、それが期限がくれば
戦利品として年月が持ち去っていくものだから。
豊かさもまた私を騙して喜ばせることはない、
なぜなら私が真実の心において選ぶのは
人生の幻を費やすことであり、
人生を幻に費やすことではないのだから。
――最後の2行。
要するに「人の生を表現した文学などの虚構を味わい尽くすことであり、
人生を空虚な虚栄に費やすことではない」……という意味なのだろう。
日本ではきちんとした翻訳が出てなかった人の作品集だけに、
光文社古典文庫の意気に拍手したい。
詠み込むほどに心洗われる思いになる、愛すべき一冊である。
居住まいを正させるかのような本だった。
著者は17世紀メキシコの修道女。
生への賛歌とも言える詩篇と手紙は、キリスト教徒でもない私を
なぜか敬虔な気持ちにさせた。
私が美貌も評価しないのは、それが期限がくれば
戦利品として年月が持ち去っていくものだから。
豊かさもまた私を騙して喜ばせることはない、
なぜなら私が真実の心において選ぶのは
人生の幻を費やすことであり、
人生を幻に費やすことではないのだから。
――最後の2行。
要するに「人の生を表現した文学などの虚構を味わい尽くすことであり、
人生を空虚な虚栄に費やすことではない」……という意味なのだろう。
日本ではきちんとした翻訳が出てなかった人の作品集だけに、
光文社古典文庫の意気に拍手したい。
詠み込むほどに心洗われる思いになる、愛すべき一冊である。