物語の主たる登場人物は二人。
気の病を患い、離婚して身辺整理をした作家の「私」。
そして、その「私」が暮らす九州の町に東京からある事情を抱えてやってきた「男」。
「私」と「男」は互いに面識がない。しかしその二人が繁華街で起こった発砲事件をきっかけにして、実に奇妙な交差模様を紡いでいく…。
私の大好きな作家、佐藤正午の最新刊。迷わず手にしました。そして今回もたっぷりと楽しませてもらいました。
この小説は第一に、上質のミステリーです。
「男」が町にやってきた理由とは一体何なのか。そしてそれがなぜ一面識もない「私」の人生を揺さぶることになるのか。
登場人物たちの行動はその時系列をバラバラに解体された形で提示されるため、事態を呑み込むのは容易ではありません。それでありながら深まる謎を追って、最後まで頁を繰る手を一度として休めることができません。
そしてあまりの面白さに私はこの書を一旦閉じた後も、物語をもう一度自分の脳内で時系列に沿って並べ直すために、冒頭から読み直すというという作業をいそいそと始めたくらいです。
この小説は第二に、縁(えにし)の不可思議さを感じさせる物語です。
「男」が町に降り立ったことが推力となり、見知らぬ人たちを巻き込むドミノ倒しの物語が始まります。やがてそのドミノ牌は「私」へと及んでくるのです。
「六次の隔たり(Six Degrees of Separation)」を思い起こさせる人間関係。ほんの束の間とはいえ、人と人との間にはつながりが生まれる可能性があることを、今一度いとおしく感じないではいられません。
そしてこの小説は第三に、再生の物語です。
この物語は「死様(しにざま)」というテーマで6人の作家が競作するという企画の中で生まれたものだとか。「最期のあり方を考えると、今の生き方が見えてくる」というキャッチコピーが添えられています。
しかしそのものずばりの「最期」が「私」や「男」に訪れるお話というよりも、人生に倦んでいたかのような各人が今回の事件をきっかけに、明日への一歩を踏み出す物語として私は読みました。
「話が早いとか遅いとか、能率の問題じゃないんです。そんなものを追求するなら誰も小説なんか読む必要ない」(170頁)。
まさにこの言葉が唱えるように、一筋縄ではいかないこの小説が、人生を中途で放棄しない人々の物語となって読者に力を与えてくれる気がしてなりません。
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ダンスホール (テーマ競作小説「死様」) 単行本 – 2011/6/18
佐藤正午
(著)
四年前、小説家である「私」の身に災難がふりかかる。医者を含めたまわりの人間は、気の病というが、本人には災難としか言いようがなかった。ある日、原稿に向かっていると、不規則な動悸を感じる。ほどなく呼吸が苦しくなり、息を吐くことも吸うことも自由にならない恐怖を覚えた。脂汗をかきながら、床にじっと横たわっているうちに症状はいくぶん抜けていったが、このときから小説書きの仕事が困難になる。十年前に結婚していた。その十年間で付き合う人種は以前と変わってしまっていたが、とくに用のある人間はいない。その交際をすべて絶つ。妻とも離婚。取り壊しの決まっている単身者向けマンションに入居。皮肉にも収入のあてのない独り住まいを始めたあたりから、症状はめったに出なくなっていく。 馴染みのバーで、東京から来たという男と居合わせる。ダンスホールで働いている女を探しているのだと、店主に語った。「私」は、心配してくれている昔の知り合いからある物を受け取るように言われ、その受け渡しの連絡を待っていた。ところが、すぐ近くで発砲事件があり、それが叶わなくなった。 違法な物を巡る「私」の物語と、「私」の想像が膨らんでいく東京から来た男の物語とが巧みに織りなされていく。──誰にも書けなかった、ストーリーテリングな私小説。
- 本の長さ216ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2011/6/18
- ISBN-104334927602
- ISBN-13978-4334927608
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登録情報
- 出版社 : 光文社 (2011/6/18)
- 発売日 : 2011/6/18
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 216ページ
- ISBN-10 : 4334927602
- ISBN-13 : 978-4334927608
- Amazon 売れ筋ランキング: - 552,831位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 148,618位文学・評論 (本)
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年7月23日に日本でレビュー済み
2013年6月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
離婚するために知らない女性の署名と捺印をもらわなければならない(何故かは小説でご確認を)
・・・大変そうだ
しかしこりごりだとは思わないみたいですね
・・・大変そうだ
しかしこりごりだとは思わないみたいですね
2011年7月30日に日本でレビュー済み
デビュー作以来の佐藤正午ファンですが、今回の作品は内容にちょっと無理があるように感じました。
離婚した元妻からの依頼で、元妻の再婚予定の男の妻に、離婚届に署名捺印してもらう為にわざわざ福岡まで人探しに行ったりというのは、
常識では考えられない話で違和感を感じました。またテーマの「死様」に関しても登場人物が確かに一人亡くなりますが、
テーマ競作とうたう程の印象は薄かったです。次回作に期待します。
離婚した元妻からの依頼で、元妻の再婚予定の男の妻に、離婚届に署名捺印してもらう為にわざわざ福岡まで人探しに行ったりというのは、
常識では考えられない話で違和感を感じました。またテーマの「死様」に関しても登場人物が確かに一人亡くなりますが、
テーマ競作とうたう程の印象は薄かったです。次回作に期待します。
2015年8月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
普段読んでいる作者以外の作者の本を探していて、タイトルにひかれて購入したが、
私のイメージより少し違っていたようでした。でも他に沢山出されているので、気を
つけて見て、良かったら購入します。
私のイメージより少し違っていたようでした。でも他に沢山出されているので、気を
つけて見て、良かったら購入します。
2013年12月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
年間100冊ほどジャンルを問わず
本を読みますが
この本だけは何が言いたいのか
よくわからなかったです
私の読解力不足なのか?
時間の無駄でした。。
本を読みますが
この本だけは何が言いたいのか
よくわからなかったです
私の読解力不足なのか?
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