ボルヘス編集なのに、レヴューの一つもない淋しさ。
白壁の緑の扉、プラットナー先生奇譚、亡きエルヴシャム氏の物語、水晶の卵、魔法店、の5編が収められています。表題作は他のアンソロジーで既読だったので跳ばしてしまったが、他の4編とも面白く、ボルヘスが「序文」で述べている次の印象的な言葉を、裏書きするものになっています。「ウェルズは、自分の夢が、ヴェルヌの単なる予見とは違い、決して実現することのないものであることを自慢した。」
特に「亡きエルヴシャム‥‥」は、身体強壮な青年が、騙されて老いさばらえた哲学者と体を交換してしまう話で、何と恐ろしいことだと心から思うほど、その奸計ぶりは真に迫っていました。
「高名な哲学者エルヴシャム」とありますが、19世紀末のこの時代としては、「哲学者」は現代とは異なり、どうやら万学に秀でた科学者を指しているようです。国が違うが、ドイツのヘルムホルツのような人物をイメージすればよいでしょう。
体を交換するには、説明として最も合理的で近未来に実現しそうなのは脳の交換で、ハインラインの『悪徳なんかこわくない』もそうでした。その対極には、今『漫画アクション』で連載中の押見修造作「ぼくは麻里のなか」で、ヒキコモリ大学生の「ぼく」が、憧れていた女子高生の体に、なぜか意識転移してしまう話があります。合理的な説明は未だ、一切ありません。ウェルズのこの話では、青年は騙されて薬を飲むことで、老科学者に転移させられてしまいます、どうやら「幽体」といった、当時勃興しつつあった心霊研究などで使われていた概念が、下敷きになっているようです。しかも主人公は、エルヴシャムが、こうしてずっと昔から肉体から肉体へ渡り歩いて死の問題も解決しているのではないかと、疑うにいたるのです。伝説の大錬金術師アグリッパと不死の人サンジェルマン伯爵を合せたような恐るべき人物です。
また、これもボルヘス序文で改めて知ったのですが、ウェルズがその最高傑作「タイム・マシン」を書いたのは、1895年だから、アインシュタインの相対性理論の10年も前のことなのです。今までてっきり、相対性理論を下敷きにしてタイムマシンを書いたのだとばかり、思い込んでいたのですが。独力で、4次元時空連続体に相当する概念を思いつくなんて。まさに、これもボルヘスを引くならば、「それ以後に出たサイエンス・フィクションのあらゆる作品を、すでに半世紀前に予告しており、しかもそのどれをも凌駕している」のです。
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白壁の緑の扉 (バベルの図書館 8) 単行本 – 1988/9/24
- 本の長さ174ページ
- 言語日本語
- 出版社国書刊行会
- 発売日1988/9/24
- ISBN-104336025630
- ISBN-13978-4336025630
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登録情報
- 出版社 : 国書刊行会 (1988/9/24)
- 発売日 : 1988/9/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 174ページ
- ISBN-10 : 4336025630
- ISBN-13 : 978-4336025630
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,118,660位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 191,286位文学・評論 (本)
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