『集英社世界文学大事典』の2ページ強にわたる「ポーランド文学」の項に「スタニスワフ・レム」の名はないが、本書の編者解説(沼野充義)によれば《ポーランドの作家で、日本にこれほど多くの著作が翻訳されているのは、レムだけである》という。しかも2004年の時点であり、その後も続々と翻訳され続けている。
レムの邦訳のほとんどは小説であり、唯一の例外が、自伝と評論中心の本書だといっていい。そして本書を読むことで、私たちはレムという作家がたんに人気のあるSF小説家を越えた、世界の主流の文学にも見事な批評眼を持つ、おそらくSF作家としては世界的に珍しい人だということを知る。
上記の沼野解説を読めば、レムが小説以外に膨大な批評、研究を著わしていることが分かるが、専門的なそれらが訳されることは望み薄だろう。本書はレムの批評のなかでは、論じられている対象が日本の読者にも馴染みのあるもので、日本オリジナル版として巧みな選択がほどこされている。
私はそのなかで特にウェルズ『宇宙戦争』論に興味を持った。レムは『宇宙戦争』の実際のハッピーエンド的な結末をほとんど無視し、小説のなかで登場人物による予想として語られる人類敗北後における二種類の人間の描写に関心をもつ。《人類の一部は火星人の支配下に留まり、屠殺用の家畜になるだろう。〔略〕自己への背信につながる卑しい隷属状態へ陥りながら、火星人に奉仕するだろう。残りの人類は地下の下水道に隠れる。火星人の命令に従って逃亡者を追跡するのは、しかるべく訓練され飼い馴らされた、奴隷人間たちなのである。》
レムはウェルズが世界大戦なかんずくホロコーストとそれに加担するか見過ごすかした人々の地獄絵図のはるか以前に、未来を予見したことで最大級の評価を惜しまない。
そうした評価の根源にはナチによるポーランド侵略、まさにかろうじて生き残ったユダヤ人レムの凄絶な体験があるだろうが、ある意味で歴史は繰り返されている。ウクライナを侵略しているプーチンが望むのは、まさにウクライナの人々の奴隷化であろうから。
さて自伝の標題となっている「高い城」のある街は、現在ウクライナの「リヴィウ」であり、レムが誕生した1921年にはポーランド領「ルヴフ」だった。いま、侵略によってウクライナ人の亡命のかなめとなっている都市であり、歴史地区は世界遺産に登録されている。本書の訳者解説によれば、戦後追い出されるようにこの町を出てポーランドに移り住んだレムは、《作家としてソ連を訪れた際にルヴフ再訪を勧められたりもしたようだが、みずから断って》おり、その後一度も訪れていない。懐かしい街への再訪を拒否する心の奥にあるものを推測するしかない。
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高い城・文学エッセイ (スタニスワフ・レム コレクション) (スタニスワフ・レムコレクシヨン) 単行本 – 2004/12/1
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- 本の長さ443ページ
- 言語日本語
- 出版社国書刊行会
- 発売日2004/12/1
- ISBN-104336045062
- ISBN-13978-4336045065
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登録情報
- 出版社 : 国書刊行会 (2004/12/1)
- 発売日 : 2004/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 443ページ
- ISBN-10 : 4336045062
- ISBN-13 : 978-4336045065
- Amazon 売れ筋ランキング: - 745,634位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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- - 101,967位ノンフィクション (本)
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2012年4月30日に日本でレビュー済み
最初の「高い城」は幼少期からの回想のようなもので普通によめましたが、その後の論文は典型的なSF文学論で兎に角難解、韜晦、晦渋、と三拍子揃った難しさで私のような者には歯が立たない高等な理論でした。ただ、SFは文学でなければならず、世界、地球、文明に寄与ないし発展に貢献しなければならない、という著者レムからのメッセージは行間からひしひしとえ伝わってきました。この人のSFがE・R・バロウズやレイ・ブラッドベリ等の作家とは位相の違う地点で一人孤高のSFを追及しているのもなんとなくわかりました。個人的には吉田健一の文学はあまり真面目に読むものではない、という文学論を信奉しているのでここで展開されるレムの文学論にはもろ手を挙げて賛同は致しかねますが、そのSFに対する熱意のようなものには感銘を受けました。
値段も高いし難しい本ですがSFに興味のある人は読むべきだと思います。
値段も高いし難しい本ですがSFに興味のある人は読むべきだと思います。
2005年2月1日に日本でレビュー済み
レムの作品をある程度読んでいる人なら、迷わず買うべきです。文学エッセイと言いつつ、これもれっきとしたSFだと思いました。
彼の作品で、所謂3部作と呼ばれる「エデン」「ソラリス」「無敵」を発表年代順に読めば明らかなように、「未知」に対しての人間の存在、というか有り様について、レムが一種の回答を持ってそれぞれの作品に取り組んでいたことが、そのままそれぞれの作品のテーマとなっているのですが、本書を読んで新たにそのテーマの真髄が確認できます。その昔、多くのSF作家の構成主義的作品を強く非難していたことや、ディックと喧嘩したことなど、レムには逸話も多いですが、ここまで一貫している作家は他にいないかもしれません。
先日読売新聞に掲載されていた沼野氏による作品紹介も、非常に興味深い記事でした。多くの人がこの作品を手に取ることを期待させます。
サンリオ文庫なき今となっては、レム作品に限らず、国書刊行会には大いに期待するところですが、「マゼラン星雲」は…やっぱり一生読めないのかなぁ。
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サンリオ文庫なき今となっては、レム作品に限らず、国書刊行会には大いに期待するところですが、「マゼラン星雲」は…やっぱり一生読めないのかなぁ。