本と読書が好きで、若い頃から本を買い込み乱読してきたが、75歳を過ぎてふと気づくと読了したのは蔵書の4割に満たない。これからの人生では、せめて名の知れた文学作品だけでも、せめてそのあらすじだけでも知っておきたいと思い、高価な本事典4巻を購入した。
もちろん、この事典もまだ一見したに過ぎないが、その読前感(?)を次に記しておきたい。労作である。日本のこの種の事典では最多1001の作品が収められており、一つひとつの作品に関する記述の形式が統一されていることに好印象を持った。肝心のあらすじも未読に等しいが、既読の小説のあらすじ二・三を読んだところではほぼ妥当なものと思われ、ストーリーとプロットの混在もやむを得ないものと許容できる。
このように評価でき、期待も持てるのだが、それだけに疑問、不満、惜しまれる点も多い。
●原書は、Frank N. Magill 編 Masterpieces of World Literature in Digest Form (1952-69) とのことだが、その原書がどのような思想で構成されているのかという説明が全く無い。古代から現代のいつまでの作品を、どのような基準で取り上げているの か、その解説が皆無なのが一番の欠点である。
●これに関連して、本事典が原書とどのような点で異なるのかという説明のないことも不満である。「序」には、「本事典は翻訳というより、Masterpieces of ……を雛形として新たにつくりあげた書物と考えていただくほうがいいだろう」とあるだけに、こ れは大きな欠点であり欠陥である。具体的には、どんな基準で、原書からどんな作品を取り除き 、どんな作品を加えたのか、を明らかにしてほしかった。
●この種の本では収める作品の取捨選択が最も注目されるところであるが、この本においても同様である。詩とエッセイを何故除外したのか。英・米に厚く北欧・南米に薄いのは何故か。古代から多く採り現代に少ないのは何故か。「序」には、原書を大きく 改善したとあるのだから、原編者の偏りを更に是正してほしかった。
●フロイトの『夢判断』、ニーチェの『ツァラトゥストラ』、ユングの『変容の象徴』が入るのなら、キェルケゴールの『あれかこれか』などは、当然入ってしかるべきであろう。そもそも、これら作品は本事典の小説主体の構成に適合しないのではないか。 適合するのなら、他にも取り上げるべき著名な哲学的作品が多くあるのではないか。
●巻末の作家別索引は役立つので嬉しいが、作家の国籍の付記および国別作家名簿もほしかったし、巻頭には作品の五十音順索引を付してほしかった。
以上、疑問や不満を並べたが、一つには期待が大きかったが故のことであり、二つにはこれだけの大作にしては私が指摘したような基本的で当然備わっていなければおかしい解説やデータが欠けていることに驚いたからである。
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