本書は、ブルターニュ地方で語り継がれた怪異譚を纏めた実録集である。
収められた話は全部で97話。
ホラー映画のような押し出しの強い恐怖ではなく、忍び寄る不気味さと不思議な余韻…。
成程「ブルターニュ版・遠野物語」とは、上手い例えだと思う。
本書は21章で構成されている。
死、或いはその予兆や死後の世界、アンクー（死神）、呪い、溺死、殺人、呑み込まれた幻の町、幽霊、悪魔と地獄、そして魂と天国…。
知られざる未知の世界に纏わる物語をたっぷりと味わえる充実度だ。
然も「何処かで誰かが、いつの間にか作った話」…ではなく、あくまでも「体験談」として実名収録されている所は一層の臨場感を醸し出す。
尚、前半は絶望感や残酷さで満たされた悲惨な話が中心となるが、後半は御伽噺のような世界、或いは「死＝神の救い」という結末が多いので、全体的には後味の悪さを感じる事も無いであろう。
因みに、個人的に興味深かったのは、その全てが日本と比較考察出来る所であった。
言う迄もなくフランスはキリスト教国家である為に、発想そのものが違うのは当たり前なのだが、その一方で、意外にも我が国の民話や俗信との類似性を見出す事が出来るのだ。
例えば、日本では誰か親しい人が亡くなる際に「夢枕に立つ」事があると言うが、全く同様の現象を語った内容が多くある。
或いは「地獄」の観念に共通点があったり、「縁起でもない」事をしてはいけない…という教訓が似通っていたり。
更には、海難事故に纏わる話が多く存在するのもブルターニュ地方ならではであろう、地域の特性が表象されている点も中々面白い。
先に『遠野物語』を例に挙げたが、言う迄もなく『遠野物語』の奥の深さは、単なる「お化け話」に留まる事無く、そこに見出される民俗学的要素にある。
そして、本書も同様、ブルターニュという地域性、その地で培われた独特の風習、環境、日々の営み、信仰心等など、その土地ならではの民俗誌を垣間見られる所が非常に意義深かったように思う。
勿論、似たような話、或いは結末が想像出来る話も多いので、若干中弛みしてしまう部分もあるかもしれない。
また、非常に丁寧に訳されているのだが、何しろ実体験だけではなく見聞に依る話もある所為で、主語や登場人物が混乱してしまう時も無くはない。
然しながら、こうしたマイナス点は非常に些細なものなので、とにかく「世の中の不思議な話」に興味がある方には是非ともお読み頂きたい。
未知の世界に関心がある方、民俗学に興味のある方、或いはブルターニュ地方に思い入れのある方…それぞれの視点で、それぞれの面白さを味わえる一冊だと思う。
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