『待ってくれ、洋子』の続編にに位置づけられるものです。
上記書の読後感が凄絶なものだったがために、早くに入手しつつ中々ページを開けませんでした。正直『辛かった』のです。
ソウコウするうちに筆者自身が亡くなり、更に今度は『怖い』存在になりました。でも、前冊の圧倒的な筆力と迫力には
耐えられず、ページを開くこととなったのですが・・・
前巻よりも更に悲痛な絶叫に満ちた、渾身の文章です。治療法を変えて、いくらか快方の兆しが見えていた愛妻(それも、
一代の役者馬鹿・放蕩三昧で『仮面夫婦だった』、と前冊で吐露しています)が、本来の意味で心底から愛おしく思えて
いた矢先のあっけない急逝。ただ、愛妻が倒れてから心肺停止になるまでの四日間、舞台に立ち続けたという筆者。そして
妻の死後も千秋楽まで舞台に立ったという筆者。心底からの『役者』だったのでしょう。
その後の葛藤も、迷い、惑い、自死も考えつつ妻の一言で踏み止まり、という心の彷徨が赤裸々に描かれています。また
痴呆が進んだ頃の、老夫婦同士の性愛までストレートに放りだすように思い出として描写されている。そして、自分の生死
を賭けた心臓手術。【天が僕を戒めている。「お前に死ぬ機会をあげよう」と今試されているような気がする。】(P116)
それを克服して(筆者は、一度心臓を外したのだから、一度死体になったのだ、と表現してます)、発行されたこの一冊
ですが、内容は凄絶ながら、どこか非常に微妙なところで乾いた冷静なものを感じます。前冊を読んで圧倒された身には、
夜は読めない、という印象があったのですが、筆致そのものは粘液質なものがあまり感じられず、突き抜けた感がある。
同い年の会を持っていた、という、愛川欣也が記者会見で号泣するところを、藤村俊二は微笑みさえ浮かべて「洋子ちゃん
のところに早くいきたかったんじゃないかなぁ」と。これをTVで見たときハっとしました。筆者は意識するとしないに
関わらず、この心境だったのでしょう。だからこそ、この本の文体は一面では乾いた突き抜けたものを感じる。それだけに
じつに痛々しいものがあります。その意味で、この本は、筆者の「最後の強がり」の具現、と思えてなりません。
奇しくも、更に同い年(1934年生まれ)の知性派俳優、児玉清氏も亡くなりました。私の父親と同じ世代なのですが、
皆、私自身、モノクロのTV時代から親しんできた方々だけに、寂しい限りです。合掌。
前篇にあたる1冊です。併せて読まれると、文体やスタンスの微妙な相違が判ります。是非お勧めです。
待ってくれ、洋子
こちらは痛快かつ奥深い、児玉清氏の知性の煌めきを縦横無尽に感じられる快作です。ウェットなものは苦手な「活字中毒」
の方々にはお勧めしつつも、下手にハマりると危険な一冊です。
寝ても覚めても本の虫 (新潮文庫)
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洋子、やっぱりいってしまったのか 単行本 – 2010/10/1
長門 裕之
(著)
- 本の長さ159ページ
- 言語日本語
- 出版社主婦と生活社
- 発売日2010/10/1
- ISBN-104391139456
- ISBN-13978-4391139457
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登録情報
- 出版社 : 主婦と生活社 (2010/10/1)
- 発売日 : 2010/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 159ページ
- ISBN-10 : 4391139456
- ISBN-13 : 978-4391139457
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,303,100位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 297,475位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
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2011年8月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2010年11月9日に日本でレビュー済み
第1章を読み始めてからまもなく、涙が止まらなくなってしまった。
こんな経験は初めて。
長門裕之さんが、愛妻洋子さんの認知症介護をしている事は、TV「金スマ」の特集番組を見ていたので知っていた。
いっときは認知症状が良くなったのもつかの間で、くも膜下出血で亡くなってしまった洋子さん。
その洋子さんが、急変し病院へ運ばれ危篤状態となり、最期の4日間、天国へ召される経過と日記を読んだだけで、涙と鼻水が止まらなくなった。
妻が重篤な状態でも役者稼業の因果で舞台を休まず、大橋巨泉さんに「仕事なんかしてるのは、ばかじゃないか!」と言われたという。
舞台中に亡くなった妻、冷たくなった亡きがらを見て、「ばかやろー」と叫ぶしかなかった。そんな長門さんに欽ちゃん(萩本欽一)が頷き、優しさに満ちた言葉をかけた。ここでもまた泣かされた。
介護中の洋子さんは、自分の芸名は言えないが、夫の本名や誕生日は覚えていた。
「介護される人だって、人に何かしてあげたいのだ」
「過剰な先回りの介護は、自分でできる、やろうとすることを摘み取ってしまう」
洋子さんを介護中に得た教訓が、非常に重みを持つ言葉。
まだ認知症状が発症する前、洋子さんの70歳の誕生日、洋子さんからの誘いで夫婦の営みが2日間あったという。老人の性的な営みを描いているが、嫌らしさがなく、逆に清らかで崇高な愛を感じた。
こんな経験は初めて。
長門裕之さんが、愛妻洋子さんの認知症介護をしている事は、TV「金スマ」の特集番組を見ていたので知っていた。
いっときは認知症状が良くなったのもつかの間で、くも膜下出血で亡くなってしまった洋子さん。
その洋子さんが、急変し病院へ運ばれ危篤状態となり、最期の4日間、天国へ召される経過と日記を読んだだけで、涙と鼻水が止まらなくなった。
妻が重篤な状態でも役者稼業の因果で舞台を休まず、大橋巨泉さんに「仕事なんかしてるのは、ばかじゃないか!」と言われたという。
舞台中に亡くなった妻、冷たくなった亡きがらを見て、「ばかやろー」と叫ぶしかなかった。そんな長門さんに欽ちゃん(萩本欽一)が頷き、優しさに満ちた言葉をかけた。ここでもまた泣かされた。
介護中の洋子さんは、自分の芸名は言えないが、夫の本名や誕生日は覚えていた。
「介護される人だって、人に何かしてあげたいのだ」
「過剰な先回りの介護は、自分でできる、やろうとすることを摘み取ってしまう」
洋子さんを介護中に得た教訓が、非常に重みを持つ言葉。
まだ認知症状が発症する前、洋子さんの70歳の誕生日、洋子さんからの誘いで夫婦の営みが2日間あったという。老人の性的な営みを描いているが、嫌らしさがなく、逆に清らかで崇高な愛を感じた。