前半「暗黒星」は1939年の中編。明智が登場するスタンダード(スタンダードすぎる)な乱歩作品で、どちらかというと子供の頃に”少年探偵シリーズ”を読んでいた人が楽しめる内容になっている。暗黒星とは「真っ黒の巨大な星が地球に接近したとき、実際に衝突するまで人間は気付かない」という意味で、そういう不気味なコンセプトのもとにストーリーが展開する。
後半「闇に蠢く」は1926年の中編。初期・乱歩の真骨頂が発揮された一品となっていて、とある山の中のホテルで起こる奇怪な事件を描く。プロットは粗く、英米のミステリーに慣れている人は低評価を下すかもしれないけれど、繊細で卓越した文章や、乱歩独特の、友達が隠している秘密のビデオを観てしまった時のような雰囲気はたまらないし、中編では乱歩のベストにこの作品を挙げる人もいる。特に冒頭の演出は必読。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
暗黒星,闇に蠢く 新装 (江戸川乱歩文庫) 文庫 – 1988/2/1
江戸川 乱歩
(著)
- 本の長さ303ページ
- 言語日本語
- 出版社春陽堂書店
- 発売日1988/2/1
- ISBN-104394301262
- ISBN-13978-4394301264
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 春陽堂書店 (1988/2/1)
- 発売日 : 1988/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 303ページ
- ISBN-10 : 4394301262
- ISBN-13 : 978-4394301264
- Amazon 売れ筋ランキング: - 889,596位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1894年三重県生まれ。早稲田大学卒業。雑誌編集、新聞記者などを経て、1923年「二銭銅貨」でデビュー。以後、「D坂の殺人事件」などの探偵小説を 次々発表。怪奇小説、幻想小説にも優れた作品が多い。代表的なシリーズに、「怪人二十面相」「少年探偵団」などがある。日本の小説界に多大なる業績を残 す。65年没(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 大槻ケンヂが語る江戸川乱歩 私のこだわり人物伝 (ISBN-13:978-4041847213)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
7グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
イメージ付きのレビュー
3 星
日ねもす狂暴なる遊戯とはww(ネタバレ注意)
Amazonで購入したが、表紙が掲示されたものとは異なっていた。 古い本の割にはかび臭くなく、折れや破れも一切ない程度の良いものだったが、表紙違いはそのアドバンテージを吹き飛ばしてしまう。いつものように到着時にはスルーしてしまっており、今さら本屋に文句を言うのも時間切れなので、ここに書いて憂さを晴らす。 下に書いたように、本書に収録された二作品には13年の時差があり、共通する登場人物もいなけりゃ掲載雑誌も異なる。 両作品を合わせたのは、単に落穂拾いの頁数合わせか。(1)暗黒星(『講談倶楽部』昭和14年1月号~12月号/152頁)★★ 150頁あるから長篇にカウントしてもよいだろう。 通俗明智小五郎長篇シリーズ第10作。 自分は光を発さず、陰に隠れて得体の知れない犯人を、明智が称して暗黒星と呼んだ。 いやはや……犯人からプロットからバレバレですやん。 探偵小説の被害者が記号だとわかっていても、周囲の人物の反応は違和感を覚えるほどにプアすぎるし。 『魔術師』でもそうだが、いくら血縁と怨念教育があったとしても、生まれた時から同じ屋根の下で暮らしている家族をあっさり殺せるものかね? もし乱歩作品を本書で初めて読んだという奇特な人がいれば、それなりに楽しめるかもしれないが、二番煎じ、三番煎じの出がらしネタで、これを以て、暗黒星だと豪語するとは、乱歩の肝は太すぎる。 いや、太くないのに無理をしていたからこそ、定期的に執筆から逃げることになったのだろう。 やんなるかな。 ただし本作を『講談倶楽部』に連載していた1939年の一年間は、1930年に続く多作の年である。 本作と同月に『富士』で連載が始まった『地獄の道化師』と、『少年倶楽部』での少年探偵団もの『大金塊』に加えて、『日の出』四月号からはジョルジュ・シムノン作品の翻案『幽鬼の塔』が始まっている。 次の1940年の連載が、少年向けの冒険もの『新宝島』一本になっているのは、一般的な見解としては時局の統制が進んで執筆し辛くなったからというものだが、いつもの厭世的なものもあったのでは……。 【注1】ふと逢禍と書いて思ったが、あうのが災いなら遭を使うべきではないのか? 逢魔が時から転じたのだろうか。魔なら逢うでもよいとは思うのだが。(2)闇に蠢く(『苦楽』大正15年正月号~11月号/148頁)★★★ 乱歩が旅の船内で拾った原稿という態の、未だ『一寸法師』の連載も始まっていなかった大正15年の作品である。『暗黒星』とは、執筆時期も含めてまったく共通点がない。 本篇と連載時期が重なる『湖畔亭事件』は、良かれ悪しかれ乱歩の趣味が前面に出た探偵小説だが、本作は人肉食を扱った異色作である。謎はあるものの、読後感としては同年の短篇、「踊る一寸法師」の方が近い。 なぜか未完の作品だと思っていたが、しっかり完結している。 内容故に紹介されることが少くて、耳に入ることがなかったからだろうか。後の『悪霊』と混同していたかも。【注2】 ただしグロテスクとは言え、直截的な描写はほぼないので、読み進めにくいといったことはない。 いつものように地下迷宮を彷徨ったりもするが、閉所恐怖症のわたしが読めるほどのあっさりテイストである。 【注2】軍人や戦争が絡まないので、同じくグロと評されながらも、「芋虫」のようには共産主義者から好まれなかったようだ。
フィードバックをお寄せいただきありがとうございます
申し訳ありませんが、エラーが発生しました
申し訳ありませんが、レビューを読み込めませんでした
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2021年4月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
Amazonで購入したが、表紙が掲示されたものとは異なっていた。
古い本の割にはかび臭くなく、折れや破れも一切ない程度の良いものだったが、表紙違いはそのアドバンテージを吹き飛ばしてしまう。いつものように到着時にはスルーしてしまっており、今さら本屋に文句を言うのも時間切れなので、ここに書いて憂さを晴らす。
下に書いたように、本書に収録された二作品には13年の時差があり、共通する登場人物もいなけりゃ掲載雑誌も異なる。
両作品を合わせたのは、単に落穂拾いの頁数合わせか。
(1)暗黒星(『講談倶楽部』昭和14年1月号~12月号/152頁)★★
150頁あるから長篇にカウントしてもよいだろう。
通俗明智小五郎長篇シリーズ第10作。
自分は光を発さず、陰に隠れて得体の知れない犯人を、明智が称して暗黒星と呼んだ。
いやはや……犯人からプロットからバレバレですやん。
探偵小説の被害者が記号だとわかっていても、周囲の人物の反応は違和感を覚えるほどにプアすぎるし。
『魔術師』でもそうだが、いくら血縁と怨念教育があったとしても、生まれた時から同じ屋根の下で暮らしている家族をあっさり殺せるものかね?
もし乱歩作品を本書で初めて読んだという奇特な人がいれば、それなりに楽しめるかもしれないが、二番煎じ、三番煎じの出がらしネタで、これを以て、暗黒星だと豪語するとは、乱歩の肝は太すぎる。
いや、太くないのに無理をしていたからこそ、定期的に執筆から逃げることになったのだろう。
やんなるかな。
ただし本作を『講談倶楽部』に連載していた1939年の一年間は、1930年に続く多作の年である。
本作と同月に『富士』で連載が始まった『地獄の道化師』と、『少年倶楽部』での少年探偵団もの『大金塊』に加えて、『日の出』四月号からはジョルジュ・シムノン作品の翻案『幽鬼の塔』が始まっている。
次の1940年の連載が、少年向けの冒険もの『新宝島』一本になっているのは、一般的な見解としては時局の統制が進んで執筆し辛くなったからというものだが、いつもの厭世的なものもあったのでは……。
【注1】ふと逢禍と書いて思ったが、あうのが災いなら遭を使うべきではないのか? 逢魔が時から転じたのだろうか。魔なら逢うでもよいとは思うのだが。
(2)闇に蠢く(『苦楽』大正15年正月号~11月号/148頁)★★★
乱歩が旅の船内で拾った原稿という態の、未だ『一寸法師』の連載も始まっていなかった大正15年の作品である。
『暗黒星』とは、執筆時期も含めてまったく共通点がない。
本篇と連載時期が重なる『湖畔亭事件』は、良かれ悪しかれ乱歩の趣味が前面に出た探偵小説だが、本作は人肉食を扱った異色作である。謎はあるものの、読後感としては同年の短篇、「踊る一寸法師」の方が近い。
なぜか未完の作品だと思っていたが、しっかり完結している。
内容故に紹介されることが少くて、耳に入ることがなかったからだろうか。後の『悪霊』と混同していたかも。【注2】
ただしグロテスクとは言え、直截的な描写はほぼないので、読み進めにくいといったことはない。
いつものように地下迷宮を彷徨ったりもするが、閉所恐怖症のわたしが読めるほどのあっさりテイストである。
【注2】軍人や戦争が絡まないので、同じくグロと評されながらも、「芋虫」のようには共産主義者から好まれなかったようだ。
古い本の割にはかび臭くなく、折れや破れも一切ない程度の良いものだったが、表紙違いはそのアドバンテージを吹き飛ばしてしまう。いつものように到着時にはスルーしてしまっており、今さら本屋に文句を言うのも時間切れなので、ここに書いて憂さを晴らす。
下に書いたように、本書に収録された二作品には13年の時差があり、共通する登場人物もいなけりゃ掲載雑誌も異なる。
両作品を合わせたのは、単に落穂拾いの頁数合わせか。
(1)暗黒星(『講談倶楽部』昭和14年1月号~12月号/152頁)★★
150頁あるから長篇にカウントしてもよいだろう。
通俗明智小五郎長篇シリーズ第10作。
自分は光を発さず、陰に隠れて得体の知れない犯人を、明智が称して暗黒星と呼んだ。
いやはや……犯人からプロットからバレバレですやん。
探偵小説の被害者が記号だとわかっていても、周囲の人物の反応は違和感を覚えるほどにプアすぎるし。
『魔術師』でもそうだが、いくら血縁と怨念教育があったとしても、生まれた時から同じ屋根の下で暮らしている家族をあっさり殺せるものかね?
もし乱歩作品を本書で初めて読んだという奇特な人がいれば、それなりに楽しめるかもしれないが、二番煎じ、三番煎じの出がらしネタで、これを以て、暗黒星だと豪語するとは、乱歩の肝は太すぎる。
いや、太くないのに無理をしていたからこそ、定期的に執筆から逃げることになったのだろう。
やんなるかな。
ただし本作を『講談倶楽部』に連載していた1939年の一年間は、1930年に続く多作の年である。
本作と同月に『富士』で連載が始まった『地獄の道化師』と、『少年倶楽部』での少年探偵団もの『大金塊』に加えて、『日の出』四月号からはジョルジュ・シムノン作品の翻案『幽鬼の塔』が始まっている。
次の1940年の連載が、少年向けの冒険もの『新宝島』一本になっているのは、一般的な見解としては時局の統制が進んで執筆し辛くなったからというものだが、いつもの厭世的なものもあったのでは……。
【注1】ふと逢禍と書いて思ったが、あうのが災いなら遭を使うべきではないのか? 逢魔が時から転じたのだろうか。魔なら逢うでもよいとは思うのだが。
(2)闇に蠢く(『苦楽』大正15年正月号~11月号/148頁)★★★
乱歩が旅の船内で拾った原稿という態の、未だ『一寸法師』の連載も始まっていなかった大正15年の作品である。
『暗黒星』とは、執筆時期も含めてまったく共通点がない。
本篇と連載時期が重なる『湖畔亭事件』は、良かれ悪しかれ乱歩の趣味が前面に出た探偵小説だが、本作は人肉食を扱った異色作である。謎はあるものの、読後感としては同年の短篇、「踊る一寸法師」の方が近い。
なぜか未完の作品だと思っていたが、しっかり完結している。
内容故に紹介されることが少くて、耳に入ることがなかったからだろうか。後の『悪霊』と混同していたかも。【注2】
ただしグロテスクとは言え、直截的な描写はほぼないので、読み進めにくいといったことはない。
いつものように地下迷宮を彷徨ったりもするが、閉所恐怖症のわたしが読めるほどのあっさりテイストである。
【注2】軍人や戦争が絡まないので、同じくグロと評されながらも、「芋虫」のようには共産主義者から好まれなかったようだ。
Amazonで購入したが、表紙が掲示されたものとは異なっていた。
古い本の割にはかび臭くなく、折れや破れも一切ない程度の良いものだったが、表紙違いはそのアドバンテージを吹き飛ばしてしまう。いつものように到着時にはスルーしてしまっており、今さら本屋に文句を言うのも時間切れなので、ここに書いて憂さを晴らす。
下に書いたように、本書に収録された二作品には13年の時差があり、共通する登場人物もいなけりゃ掲載雑誌も異なる。
両作品を合わせたのは、単に落穂拾いの頁数合わせか。
(1)暗黒星(『講談倶楽部』昭和14年1月号~12月号/152頁)★★
150頁あるから長篇にカウントしてもよいだろう。
通俗明智小五郎長篇シリーズ第10作。
自分は光を発さず、陰に隠れて得体の知れない犯人を、明智が称して暗黒星と呼んだ。
いやはや……犯人からプロットからバレバレですやん。
探偵小説の被害者が記号だとわかっていても、周囲の人物の反応は違和感を覚えるほどにプアすぎるし。
『魔術師』でもそうだが、いくら血縁と怨念教育があったとしても、生まれた時から同じ屋根の下で暮らしている家族をあっさり殺せるものかね?
もし乱歩作品を本書で初めて読んだという奇特な人がいれば、それなりに楽しめるかもしれないが、二番煎じ、三番煎じの出がらしネタで、これを以て、暗黒星だと豪語するとは、乱歩の肝は太すぎる。
いや、太くないのに無理をしていたからこそ、定期的に執筆から逃げることになったのだろう。
やんなるかな。
ただし本作を『講談倶楽部』に連載していた1939年の一年間は、1930年に続く多作の年である。
本作と同月に『富士』で連載が始まった『地獄の道化師』と、『少年倶楽部』での少年探偵団もの『大金塊』に加えて、『日の出』四月号からはジョルジュ・シムノン作品の翻案『幽鬼の塔』が始まっている。
次の1940年の連載が、少年向けの冒険もの『新宝島』一本になっているのは、一般的な見解としては時局の統制が進んで執筆し辛くなったからというものだが、いつもの厭世的なものもあったのでは……。
【注1】ふと逢禍と書いて思ったが、あうのが災いなら遭を使うべきではないのか? 逢魔が時から転じたのだろうか。魔なら逢うでもよいとは思うのだが。
(2)闇に蠢く(『苦楽』大正15年正月号~11月号/148頁)★★★
乱歩が旅の船内で拾った原稿という態の、未だ『一寸法師』の連載も始まっていなかった大正15年の作品である。
『暗黒星』とは、執筆時期も含めてまったく共通点がない。
本篇と連載時期が重なる『湖畔亭事件』は、良かれ悪しかれ乱歩の趣味が前面に出た探偵小説だが、本作は人肉食を扱った異色作である。謎はあるものの、読後感としては同年の短篇、「踊る一寸法師」の方が近い。
なぜか未完の作品だと思っていたが、しっかり完結している。
内容故に紹介されることが少くて、耳に入ることがなかったからだろうか。後の『悪霊』と混同していたかも。【注2】
ただしグロテスクとは言え、直截的な描写はほぼないので、読み進めにくいといったことはない。
いつものように地下迷宮を彷徨ったりもするが、閉所恐怖症のわたしが読めるほどのあっさりテイストである。
【注2】軍人や戦争が絡まないので、同じくグロと評されながらも、「芋虫」のようには共産主義者から好まれなかったようだ。
古い本の割にはかび臭くなく、折れや破れも一切ない程度の良いものだったが、表紙違いはそのアドバンテージを吹き飛ばしてしまう。いつものように到着時にはスルーしてしまっており、今さら本屋に文句を言うのも時間切れなので、ここに書いて憂さを晴らす。
下に書いたように、本書に収録された二作品には13年の時差があり、共通する登場人物もいなけりゃ掲載雑誌も異なる。
両作品を合わせたのは、単に落穂拾いの頁数合わせか。
(1)暗黒星(『講談倶楽部』昭和14年1月号~12月号/152頁)★★
150頁あるから長篇にカウントしてもよいだろう。
通俗明智小五郎長篇シリーズ第10作。
自分は光を発さず、陰に隠れて得体の知れない犯人を、明智が称して暗黒星と呼んだ。
いやはや……犯人からプロットからバレバレですやん。
探偵小説の被害者が記号だとわかっていても、周囲の人物の反応は違和感を覚えるほどにプアすぎるし。
『魔術師』でもそうだが、いくら血縁と怨念教育があったとしても、生まれた時から同じ屋根の下で暮らしている家族をあっさり殺せるものかね?
もし乱歩作品を本書で初めて読んだという奇特な人がいれば、それなりに楽しめるかもしれないが、二番煎じ、三番煎じの出がらしネタで、これを以て、暗黒星だと豪語するとは、乱歩の肝は太すぎる。
いや、太くないのに無理をしていたからこそ、定期的に執筆から逃げることになったのだろう。
やんなるかな。
ただし本作を『講談倶楽部』に連載していた1939年の一年間は、1930年に続く多作の年である。
本作と同月に『富士』で連載が始まった『地獄の道化師』と、『少年倶楽部』での少年探偵団もの『大金塊』に加えて、『日の出』四月号からはジョルジュ・シムノン作品の翻案『幽鬼の塔』が始まっている。
次の1940年の連載が、少年向けの冒険もの『新宝島』一本になっているのは、一般的な見解としては時局の統制が進んで執筆し辛くなったからというものだが、いつもの厭世的なものもあったのでは……。
【注1】ふと逢禍と書いて思ったが、あうのが災いなら遭を使うべきではないのか? 逢魔が時から転じたのだろうか。魔なら逢うでもよいとは思うのだが。
(2)闇に蠢く(『苦楽』大正15年正月号~11月号/148頁)★★★
乱歩が旅の船内で拾った原稿という態の、未だ『一寸法師』の連載も始まっていなかった大正15年の作品である。
『暗黒星』とは、執筆時期も含めてまったく共通点がない。
本篇と連載時期が重なる『湖畔亭事件』は、良かれ悪しかれ乱歩の趣味が前面に出た探偵小説だが、本作は人肉食を扱った異色作である。謎はあるものの、読後感としては同年の短篇、「踊る一寸法師」の方が近い。
なぜか未完の作品だと思っていたが、しっかり完結している。
内容故に紹介されることが少くて、耳に入ることがなかったからだろうか。後の『悪霊』と混同していたかも。【注2】
ただしグロテスクとは言え、直截的な描写はほぼないので、読み進めにくいといったことはない。
いつものように地下迷宮を彷徨ったりもするが、閉所恐怖症のわたしが読めるほどのあっさりテイストである。
【注2】軍人や戦争が絡まないので、同じくグロと評されながらも、「芋虫」のようには共産主義者から好まれなかったようだ。
このレビューの画像
2008年8月6日に日本でレビュー済み
「暗黒星」と「闇に蠢く」の2篇が収められている。
いずれも短めの長篇である。
「暗黒星」は、明智もの。どこかで見たような場面ばかりで、新鮮さの感じられない話であった。タイトルの付け方は面白い。
「闇の蠢く」も、出来の良い作品とは言いがたい。グロテスクな内容で、乱歩の極致のひとつではあるかも知れないが、気持ちの良い物語ではない。
ざっと読むべき一冊か。
いずれも短めの長篇である。
「暗黒星」は、明智もの。どこかで見たような場面ばかりで、新鮮さの感じられない話であった。タイトルの付け方は面白い。
「闇の蠢く」も、出来の良い作品とは言いがたい。グロテスクな内容で、乱歩の極致のひとつではあるかも知れないが、気持ちの良い物語ではない。
ざっと読むべき一冊か。