全3巻を2日で読み、その言葉回しの詩的な完成度と、序破急の完璧さ、そして青春期の自我確立と心情の衝突、そして完結を描くこの作品によって私のボーイズラブは完結しました。
それまで何年か、ボーイズラブを読んでいました。いろいろなパターンを眺めてきて(数百冊はボーイズラブコミックを読んだと思います)それらは少しずつ様々な形で私の感じてきた痛みや重みを解消してきてくれてきたと思います。
その蓄積の結果、最後の頂門の一針になったのかもしれません(さすがにこの作品一作だけの力ではないと思います)
私がボーイズラブをなぜ必要か分からないまま読んでいた理由、決定的に必要としていた精神の飢餓、危機感を、この作品を通じて自らに投影することができました。
セラという人物のオープンハートな純粋さと、セラよりも遥かに屈折した甘夏(カンナ)という主人公(基本的にこの漫画はカンナの一人称視点で進みます)の自己解析の終点に、作中のカンナは、セラに守られていた被保護者としての精神的幼児であったものが、性愛を含めた精神的な愛を自覚し、対等な人格としてパートナーであるセラと関わっていく、という成熟した青年・大人への羽化を遂げる人格の変容のプロセスを描き、個人的なことで恐縮ながら、この作品は私にも欠けていた成熟を示唆することによって、ボーイズラブが私にとっては、愛を通じて成熟した人格への変容を求める、成長への誘いをメインテーマとするジャンルであることを定義させました。
(注・私にとっての位置づけで、他のBL愛好家の皆様はもちろんそれぞれの楽しみを求めておられます)
この本は私のボーイズラブにとって「卒業論文」でした。
この後も、著者・藤たまきさんの以後の著作を含めてボーイズラブを読み続けていますが、それは肩の凝らない純粋な楽しみとしてであり、以後、私はボーイズラブに人格を預け、世界観を作り出すために体重をかけるような重さを感じることはなく、バラエティに美食を楽しむ感じです。
他の作家さんの作品を挙げることは不穏当かもしれませんが、以後も、草間さかえ「マッチ売り」緒川千世「紅のテアトル」赤星ジェイク「グルメのふくらみ」四宮和「心情呼吸」日塔てい「本日中にお召し上がりください」倫敦巴里子「童貞ってパレたら死ぬ」楢崎ねねこ「ミッドナイト・スパイシーセックス」など、傑作は沢山ありますし、それらも愛読しております。
が…人格的な境界を画した、分水嶺となる作品に出合えることは、ボーイズラブというジャンルに関わらず生涯でもそう多くはありません。
このような形で私にとってのジャンルの窮極となる作品と邂逅できたことを幸福に感じます。
これは極私的な感想です。
他の読者さまがご覧になったも「うーん…それほどかしら」と思われても責任は取れないので、その場合はご容赦ください。
なお、私が本作を読んだのは2005年、今、このレビューを書いている2021年から遡ること16年前です。大正時代と同じぐらいの時間が流れてなお、鮮烈な印象を残しています。
・・・ここまでの思い入れはまあ「個人の感想です」が、これは少なくとも私は自信を以て傑作ですとお薦めいたします。
精神の成長痛に悩み苦しんでいる方におススメです。
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