手塚治虫が雑誌連載マンガを最終的に単行本にする際、時として大幅な加筆修正をしていたということはつとに知られています。しかし具体的にどう修正されたのかについて、連載時と単行本それぞれの画を掲げて比較検討した本はこれが初めてではないでしょうか。連載時の作品を発掘してきた著者の多大なる労に深い敬意を表したい一冊です。
取り上げられている作品の多くがかなりの手塚治虫マニアでないと耳にしたことがないもの、もしくは耳にしたことがあっても実際に読み通したことがないものかもしれません。「スーパー太平記」「こじき姫ルンペネラ」「スリル博士」などの単行本を手にとったことがある読者はそれほど多くはないと思います。その点でこの本は、学術的資料価値があるにもかかわらず...一般読者を遠ざけるうらみがあるでしょう。
それでも私は長年かかえていた疑問のひとつがこの本によって氷解しました。
「火の鳥」には平安朝期が舞台の「羽衣編」という小品があります。「火の鳥」は各編が相互に何らかの連関性を持っているのですが、この「羽衣編」だけは他編との関係の見出せない独立した一編として単行本に収められています。それがなぜなのか、どこかに<ミッシング・リンク>があるのか、子どもの頃からずっと気になっていました。
しかし「羽衣編」で「おとき」と呼ばれる主人公が、核戦争の時代から過去へと時間旅行する「時子」なる人物として雑誌連載時の「望郷編」で一旦は描かれていたというのです。「望郷編」が単行本化にあたって描きかえられた結果、「羽衣編」が持っていた「望郷編」との連関性が失われたことが良く分かりました。また被爆者から障害児が生まれる物語として当初描かれた「羽衣編」自体も、単行本化にあたって描きかえがおこなわれたことがこの本には書かれています。
私としてはこの一点だけで十分価値のある一冊でした。
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手塚治虫の奇妙な資料 単行本 – 2002/8/1
野口 文雄
(著)
- 本の長さ290ページ
- 言語日本語
- 出版社実業之日本社
- 発売日2002/8/1
- ISBN-104408394998
- ISBN-13978-4408394992
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
マンガの神様が、描き直しを続けた理由とは一体何だったのか…? 手塚治虫が執筆した多くの作品の図版から、雑誌連載時に掲載されたものと単行本化される際に描き直されたものを選び出し、比較する形で構成し、解説する。
登録情報
- 出版社 : 実業之日本社 (2002/8/1)
- 発売日 : 2002/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 290ページ
- ISBN-10 : 4408394998
- ISBN-13 : 978-4408394992
- Amazon 売れ筋ランキング: - 739,242位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 908位コミック・アニメ研究
- - 13,789位社会学概論
- - 322,269位コミック
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上位レビュー、対象国: 日本
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2003年6月22日に日本でレビュー済み
2006年4月5日に日本でレビュー済み
手塚漫画には膨大な量の未収録があります。ハッキリ言って未収録については追求しだすとキリがありません。また、全集を読んだ上での未収録のチェック…となると、コピー代も大変な額になるんですよね。でもちょっとだけでも未収録の知識についてかじりたいって人にオススメなのはこの本。野口文雄氏著『手塚治虫の奇妙な資料』。ここ数年手塚関連出版物の中で一番おもしろかったです。ちなみに「おもしろい」には二通り意味があり、「興味深い、へ〜と関心するおもしろさ」と「ゲラゲラ笑うおもしろさ」がああると思うんですが、この本は両方のおもしろさがあります。まあ、堅苦しいこといわんと、いっぺん読んでみましょ、絵を見てるだけでおもしろいですから(^^)
2004年2月21日に日本でレビュー済み
手塚治虫が自身の作品をどのように描き換えたのか、今ではなかなか目にすることができないオリジナルバージョンと、その後のバージョンを、実際に紹介しながら比較・検討する本。
一般にあまり知られてない作品が多く取り上げられるのだけれど、現在ここでしか見れないようなレアなバージョンを多数見ることができるし、こうしたバージョンの中には、現在目にするバージョンよりも良い出来であるもの、非常にクオリティが高いものが多いので、手塚の熱心なファン、マニアなど出なくても、本書は十分楽しめる・・・どころか、これ読むと今までの手塚作品の見方が変わること間違いなし!
ぼく個人の経験から語って恐縮だけど、今まで手塚作品を読んでると、絵やストーリーに「?」となる点も多かった。どうして「?」なのか、その疑問を解くカギを本書は十分に与えてくれる。中の文章を読まないでも、紹介された複数のバージョンを見比べるだけで、いろんな発見があるよ。「スーパー太平記」を持ってきてトリミングについて述べたところなどが個人的に興味深かった。いやだって、オリジナルとそうでないもの、全くの別作品になっちゃってるもの。
問題は著者の文章。やたら長いし、結びがおかしいし、ヘンな箇所がたくさんある。資料収集の努力はすごいと思う。でも、もうちょっと文章なんとかならなかったのかな。それがおしい。あと、出すまでに20年かかったのがどうしてもくやまれるなあ。手塚先生が存命中に出せていれば、さらにいろんな謎が解けたかもしれない・・・こんなことも思ってしまう。ま、欲を言えばキリがないっすけど。
一般にあまり知られてない作品が多く取り上げられるのだけれど、現在ここでしか見れないようなレアなバージョンを多数見ることができるし、こうしたバージョンの中には、現在目にするバージョンよりも良い出来であるもの、非常にクオリティが高いものが多いので、手塚の熱心なファン、マニアなど出なくても、本書は十分楽しめる・・・どころか、これ読むと今までの手塚作品の見方が変わること間違いなし!
ぼく個人の経験から語って恐縮だけど、今まで手塚作品を読んでると、絵やストーリーに「?」となる点も多かった。どうして「?」なのか、その疑問を解くカギを本書は十分に与えてくれる。中の文章を読まないでも、紹介された複数のバージョンを見比べるだけで、いろんな発見があるよ。「スーパー太平記」を持ってきてトリミングについて述べたところなどが個人的に興味深かった。いやだって、オリジナルとそうでないもの、全くの別作品になっちゃってるもの。
問題は著者の文章。やたら長いし、結びがおかしいし、ヘンな箇所がたくさんある。資料収集の努力はすごいと思う。でも、もうちょっと文章なんとかならなかったのかな。それがおしい。あと、出すまでに20年かかったのがどうしてもくやまれるなあ。手塚先生が存命中に出せていれば、さらにいろんな謎が解けたかもしれない・・・こんなことも思ってしまう。ま、欲を言えばキリがないっすけど。