宮崎学さんと言えば、ヤクザの組長の息子として生まれ、自らのアウトロー経歴か'ら物を言う作家として有名だ。
本書のサブタイトルは「この国を動かしている本当のカネの流れ」。わずかGDPの1.5%と言われている地下経済が、どのように日本を動かしているというのだろうかと、読み始めたのだが、本書の視点は想像したものとは全く違っていた。
本書の基本スタンスは、経済を語るうえで、裏経済は表経済と独立して存在するものではなく、両者は表裏一体となっている経済を造りだしている、というもの。経済活動とはそもそも裏や地下的なものなのだとしている。宮崎さんの視点は、ここへ集中している。
大企業の活動が、極めて裏の部分と密接不可分であるかを示す例として、電力会社が原発トラブルを隠ぺいしその一方で推進するために、表では巨大な広告費を使いイメージアップを図り、その一方で裏社会の手を借り、事実の隠ぺいを進めていることを取り上げている。日ごろから電力会社はメディアや専門家に金をばらまき、メディアを'潤わせ、原発が問題を起こしたいざというときに口をつぐんでもらおうとしているという。電力会社の体質を鋭くとらえている。それも１０年前の状況においてである。「企業とい'うのは、背負った公共性の度合いが大きければ大きいだけ、腐った体質になっていく」という言葉で、電力会社のような公共性の大きい企業こそが、経済活動を継続する過程で裏の世界へとつながりやすいのだと指摘している。
おそらく東日本大震災以前にこの言葉に触れても、興味を煽る言葉の一つぎないと誰もが見逃していたと思う。ところが原発事故という大惨事の後に、ここで宮崎さんが指摘していたことが現実に起こったことを僕らは今知っている。俄然、宮崎さんの指摘に興味がわいてくる。
宮崎さんの指摘は極めて広範囲だ。電力会社に続いて、「フランチャイズ商法」が取り上げら、マルチ商法まがいの灰色なものと位置づけられている。これにも強く共感を覚えた。先日、ある仕事でフランチャイズビジネスに関する話をうかがう機会があった。そこで語られていたのは、もはや売れなくなったものをさも売れるように見せかけ、フランチャイズ加盟店舗を如何に増やすかの方策であった。売れるモノを売り、フランチャイズ加盟店も本社も、そしてエンドの消費者も喜びや富を分かちうるのであれば健全であろうが、ある種のフランチャイズは、加盟店からの搾取のみを目的としていることを知って愕然とした。「南極で小売りを売る」ことがビジネスというわけであろうが、僕の薄っぺらな理感に照らし合わせてもかなりあくどいビジネスと言わざるを得ないもので、気分が悪くなった。宮崎さんの予言が正しければ、今後フランチャイズビジネスの中から矛盾が露呈し、大きな社会問題へとつながっていく可能性は高そうだ。
つづくバブル期の地上げの話しでは、自らの体験をもとに、不動産ビジネスに関わる地上経済と地下経済の表裏一体の関係をリアルに伝えている。バブル期の金融機関が行った湯水のような金の貸し出しは、一般市民に及んだが、一度バブルが崩壊と、有無を言わさぬ資金回収が始まり、一般市民のなけなしの巻き上げていった。優良な企業と言われるものであっても、儲けるための行動はヤクザの振る舞いと大きくは違わない、むしろヤクザの振る舞いの中で顕在化している手法から、表社会の企業活動を捉えた方が、裏を含めた社会の全貌が理解しやすい、と言っている。
指摘は、最後にはアメリカが主導する「グローバルスタンダード」にも広がる。巨大化したアメリカがやがて、大きくなったゆえに自ら崩れ始めることを予言しているのだが、我々が目の当たりにしているオバマ政権以後のアメリカの衰退をすでに10年前に予測していたものとも受け取れる。
批判的に言えば、すべての論拠は、個人的体験から得た裏社会の構図がきわめて恣意的にベースに据えられている。さらには、その構図が実は表の世界の経済活動にもそのまま相似的に当てはまるというというストーリ展開であり、極めて主観的なもので、客観的な論理はない。しかし、記述された主観的指摘は、10年を経た現在から見るとことごとく命中している。恐るべし、宮崎学！
この本に記載されている一流企業の悪徳な行為がバブルの狂乱がもたらしたあだ花であれば、このシュリンクした経済の下であれば、我々はまっとうな生活を送れるのかもしれない、と期待した（笑）。ところがどうもそうではないらしい。シュリンクした経済状況下こそ、地下と地上の経済が密接不可分な行動を始める温床になると宮崎さんは言っている。
事例として挙げられているのが、駅などで見かけた「無審査で融資をします」の看板。今でいえば「借金の整理のお手伝いをします」とかたちを変えた「整理屋」の話し。多重責務者を食い物にして稼ぐ整理やと悪徳弁護士の手口が示されている。最後は依頼者が自己破産してしまえば、全てがうやむやになり罪に問われる可能性がないという手口だ。
宮崎さんによれば、日本の経済は、政界、官僚、財界がつくる「アイアン・トライアングル」というアーキテクチュアに深く依存し、そのアーキテクチャは表の社会か'ら見るよりも、裏社会のヤクザの構図との類似性から見たときに極めて明快に読み取れると指摘している。実は経済そのものが地下的であり裏社会的であるため、そのアーキテクチュアを理解しない限りは、負け組となるといいうことなのだ。タイトルは地下経済であるが、宮崎さんの指摘は経済そのものが地下的であるという点が面白い。個人的な突飛な見方のように思われるが、10年前の記述が、この10年間の中で次々と現実のものとなり状況を見ると、宮崎さんの読みの確かさを感じざるにはいられない。宮崎さんの他の著作にも手を伸ばしたくなってきた。
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