この著者の話術は巧みだ。生半可な歴史小説などよりも余程面白く、数ページ読み進めただけで彼の描く世界へと引き込まれていく。しかしこれを「歴史の本」として評価しようとした時、二の足を踏まざるを得ない。
彼が「だめな宰相」と名指しする将軍徳川慶喜は、果たして本当にバカ殿様だったのか。龍馬の暗殺犯が西郷だったというのも、諸説ある中の一つでしかない。それらを断定的に書いてしまっている部分に危険を感じる。会津に対する身贔屓的な何かが見え隠れする部分もかなり気になる。
小説からの引用がちらほら見受けられる部分も気になる。小説とは高度に虚構化された主観的真実である。例えば司馬遼太郎の小説は司馬の主観的真実を「昔」という虚構の舞台を借りて表現したものであり、客観的真実の解明を求められる史学の世界とは相容れないものだ。尤も言葉がある一個人の主観を通過して発せられるという仕組みを持つ以上、完璧な客観的真実が書物上に存在する筈はないのだが、虚構性の低さを求められる史学に小説を引用するのはあまり良い選択ではないだろう。
上記の理由から星３つに評価を抑えた。
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