著者は、本書の中で「何もかもあいまいな話であるが、単に一般的な原理を導き、そこから大まかな結論を引き出すのが目的であり、このような過程は、より正確な数学モデルを作るのに重要な準備となる」と述べている。自然と対峙する工学技術者は、未知の現象を雑駁に推論し、徐々に精度を高め、現象の核心に迫ろうとするアプローチを、日常茶飯事に選択する。最初から解析的な偏微分方程式を構築し、スーパーコンピュータで解を探索するような愚かな浪費を行わない。裏紙にポンチ絵を描いて、簡単な数式を電卓で計算し、理論の見通しを立てるところから始まる。
学生時代は、「理論を学び、その応用を考える」だけで、未知の現象を解析するテクニック、つまり「現象をモデル化し、理論を作る」思考過程を学ばなかった。数式で表すことすらためらうような現象をモデル化し、具体的な数字を入れて実際と合っていることを確かめ、新たな分野を開拓して行く。これが現代の技術者の生き残るための特殊技能になる。
さて、本書の中で扱う以下の先達の理論は、コンピュータに頼らず、どのようにしてモデルを単純化し、計算したのだろうか？ 是非、技術者の道を志す読者は、本書を開いて「シンプルな思考過程」を体感してほしい。尚、本書の価値を見い出された翻訳者の方々に敬意を評します。
【下巻から抜粋した、興味深いモデルの例】
８章 安定性
・波高1m、1m四方の波は、ビルを壊す鉄球の1/10のエネルギー
・海岸線100km、８秒周期1ｍ波のエネルギーは3ギガワット
９章 ボア（潮津波）と非線形の波
・月と地球の距離変動40万kmは、引力28％、潮汐力42％変動
・月の潮汐力は太陽の2倍以上
１０章 フィボナッチ数列と黄金率
・ひまわりのN番目の小花の位置角度は137.507°である。
・ 黄金率τ=1.618…は、部分商1の無限単連分数である。
１１章 ハチ、ハチの巣、泡、土のかけら
・正三角形、正方形、正六角形だけが、平面を埋め尽くすことができる。
・閉曲線で囲う面積では、円が最大となる証明。ラグランジュ方程式。
１２章 川の蛇行、枝分かれのパターン、木々
・どんな川も川幅の10倍以上まっすぐに流れない
・川の蛇行と弾力あるワイヤの応力は類似の解析ができる。
・木の高さの限界は、半径の2/3乗に比例する。
・50人のカクテルパーティの騒音で難聴を患う確率は、4.5年続けて50％。
１３章 鳥の飛行
・翼長3倍の大きい鳥は、1.7倍の速度で飛ばなければ墜落する。
・ホバーリングできる鳥の重さの限界は、15～18kgである。
１４章 ヒョウはいかにして斑点を手に入れたか？
・カップ１杯の紅茶に入れた砂糖は、３ヶ月の自然放置で全体に拡散する。
・地表の温度変化が地中へ伝わる限界（5％以下）となるのは、4.3ｍである。
補遺 フラクタル ━━ 興味をそそる物…
・フラクタル次元：１次元（線）を少し超え２次元（面）に侵入した蛇行の度合い。
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