本書を読むにあたって念頭にあったのは第二次大戦中のフランスである。
1940年のドイツ軍の脅威を前にフランスはペタンを首相に、ウェイガンを参謀総長にすることで対処しようとした。
二人とも第一次大戦中に活躍した軍人である。
世代交代が進みながらもなお、光輝ある過去にすがろうとする姿勢。
近年の政治家の汚職や官僚の腐敗に対する「明治の政治家たちが見たらどう思うだろうか」という批判に
フランスと日本の、敗北する国家の共通点を見出せはしないだろうか。
それは、新しい時代に積極果敢に突き進む進取の気性にあふれた意欲的なものではなく、
未来に背を向け、我が国の伝統や過去に逃避する前兆だと思うからだ。
戦前の東郷平八郎の評伝は限られた資料しか用いることが出来ず、
日本海海戦をクライマックスとすることが多かった。その後東郷は30年近く存命だったにもかかわらず、である。
この様に日本海海戦を終章とする構成は時代的要請から言えば理想的であった。
国難に際し運命的人事によって連合艦隊司令長官となり、天皇に対する至誠が通じて、未曾有の大勝利をあげた救国の英雄。
こうした東郷像は、皇室への忠誠と国家への模範的奉仕を要求する軍部にとって都合が良かったのである。
国威発揚の戦史は、軍人や国民の戦意をかき立てる上で即効性があるにしても、その効果は短期的である。
大日本帝国は戦史から正しい戦訓を抽出することに失敗し、滅んだ。
正しい戦訓を抽出するには真実を記した戦史や、それにもとづいた議論が絶対に必要である。
こうした問題意識に立ち、著者は昭和に於ける日露戦争回帰の過程で潤色された部分を削ぎ落とすことで、
東郷平八郎や日本海海戦の真実を描こうとしている。
著者のアプローチや立場を全面的に支持するわけではないが、
単に歴史を学ぶだけでなく、歴史から学ぼうと説く姿勢には素直に感心した。
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東郷平八郎 (ちくま新書 208) 新書 – 1999/7/1
田中 宏巳
(著)
- 本の長さ237ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日1999/7/1
- ISBN-104480058087
- ISBN-13978-4480058089
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (1999/7/1)
- 発売日 : 1999/7/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 237ページ
- ISBN-10 : 4480058087
- ISBN-13 : 978-4480058089
- Amazon 売れ筋ランキング: - 760,224位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年2月23日に日本でレビュー済み
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2023年1月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
なぜ昭和の日本が軍事国家となったのか、この本で少し分りました。それと神格化を強く嫌った東郷平八郎さんの人柄を好ましく思いました。自分のポジションにより、後世に批判を受けるのは仕方が無いですね。
2017年10月20日に日本でレビュー済み
「日本海大海戦の英雄」聖将・東郷平八郎の光と影。
田中宏巳(たなか・ひろみ) 著
『東郷平八郎』
ちくま新書
《内 容》
日露戦争時の連合艦隊司令長官だった東郷平八郎は、日本海大海戦に奇跡的な勝利を収めた後、東宮御学問所総裁、陸海軍を代表する指導者として近代史に大きな足跡を残した。
その生涯は、近代国家としての道を歩み始めた日本の運命を一身に体現したものとなった。
一次史料をもとに英雄神話の背景を探り、東郷の実像とその時代を描いた本格的評伝。
(本書・端書きより)
《解 説》
東郷平八郎というと、連合艦隊を率い、日露戦争のクライマックス「日本海大海戦」を指揮した、艦隊司令官の模範・偉大な海軍提督というイメージが一般的ですね??
しかし、意外に知られていないのですが、東郷自身は、日露戦争以後も長生きしました。
海軍軍令部長や、軍事参議官などを歴任しています。
また、大正時代には「天皇の学校」とも言うべき東宮御学問所の総裁も務め、若き日の昭和天皇の帝王学教育にも関わっているのです。
彼が亡くなったのは昭和9年(1934年)で、日露戦争から三十年近く経っています。
昭和になると、東郷は帝国海軍のカリスマとして、すっかり神格化されていました。
本書は、日露戦争だけでなく、それ以後、昭和まで生きた東郷を描いています。
昭和の東郷は、神格化されてしまったが故に、海軍の軍拡派の人達に担がれ、政府に圧力をかけ、政治に介入します。
著者は、昭和の東郷がいわゆる「元老」ならぬ「準元老」として軍部に権威を振るっていた、という説を唱えています。
美化されがちな東郷英雄神話を解体し、「近代日本の歴史上において東郷が果たした役割」とその弊害を解き明かしています。
美化された英雄ではなく「歴史上の人物としての東郷平八郎」を知りたいという方に、本書を強く推薦いたします。
《著者略歴》
1943年(昭和18年)、長野県松本市に生まれる。
1974年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。
東海大学、明治大学講師等を経て、防衛大学校教授へ。
専攻は近代及び東アジアの軍事史、特に旧陸海軍の戦史編纂の経緯と問題点、旧陸海軍史料の性格と行方を主要な研究テーマとしている。
田中宏巳(たなか・ひろみ) 著
『東郷平八郎』
ちくま新書
《内 容》
日露戦争時の連合艦隊司令長官だった東郷平八郎は、日本海大海戦に奇跡的な勝利を収めた後、東宮御学問所総裁、陸海軍を代表する指導者として近代史に大きな足跡を残した。
その生涯は、近代国家としての道を歩み始めた日本の運命を一身に体現したものとなった。
一次史料をもとに英雄神話の背景を探り、東郷の実像とその時代を描いた本格的評伝。
(本書・端書きより)
《解 説》
東郷平八郎というと、連合艦隊を率い、日露戦争のクライマックス「日本海大海戦」を指揮した、艦隊司令官の模範・偉大な海軍提督というイメージが一般的ですね??
しかし、意外に知られていないのですが、東郷自身は、日露戦争以後も長生きしました。
海軍軍令部長や、軍事参議官などを歴任しています。
また、大正時代には「天皇の学校」とも言うべき東宮御学問所の総裁も務め、若き日の昭和天皇の帝王学教育にも関わっているのです。
彼が亡くなったのは昭和9年(1934年)で、日露戦争から三十年近く経っています。
昭和になると、東郷は帝国海軍のカリスマとして、すっかり神格化されていました。
本書は、日露戦争だけでなく、それ以後、昭和まで生きた東郷を描いています。
昭和の東郷は、神格化されてしまったが故に、海軍の軍拡派の人達に担がれ、政府に圧力をかけ、政治に介入します。
著者は、昭和の東郷がいわゆる「元老」ならぬ「準元老」として軍部に権威を振るっていた、という説を唱えています。
美化されがちな東郷英雄神話を解体し、「近代日本の歴史上において東郷が果たした役割」とその弊害を解き明かしています。
美化された英雄ではなく「歴史上の人物としての東郷平八郎」を知りたいという方に、本書を強く推薦いたします。
《著者略歴》
1943年(昭和18年)、長野県松本市に生まれる。
1974年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。
東海大学、明治大学講師等を経て、防衛大学校教授へ。
専攻は近代及び東アジアの軍事史、特に旧陸海軍の戦史編纂の経緯と問題点、旧陸海軍史料の性格と行方を主要な研究テーマとしている。
2009年1月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
他書では踏み込んでいない部分に踏み込んではいる。
それは、日露戦争後の東郷平八郎。
又、過去の文献や書物からみる、人間・東郷平八郎が求められた時代の考察という部分である。
そういった時代考察の論文としては高い評価に値すると思うが
東郷平八郎の『物語』として期待した私に、本書はお堅い書物のイメージだ。
又、予備知識がなければ読みにくい構成になっており、内容にも重複がみられる。
明治の英雄、東郷平八郎の活躍を期待して読む方、歴史初心者にはあまりオススメできないかな・・・
それは、日露戦争後の東郷平八郎。
又、過去の文献や書物からみる、人間・東郷平八郎が求められた時代の考察という部分である。
そういった時代考察の論文としては高い評価に値すると思うが
東郷平八郎の『物語』として期待した私に、本書はお堅い書物のイメージだ。
又、予備知識がなければ読みにくい構成になっており、内容にも重複がみられる。
明治の英雄、東郷平八郎の活躍を期待して読む方、歴史初心者にはあまりオススメできないかな・・・