筆者は戦後の日本外交を、大国外交と理想的平和主義の中庸に位置する「ミドルパワー」外交として捉え直すことで、その実態と将来の日本外交の方針を探ろうとしている。
まえがきと序論なかで、「ミドルパワー」を、軍事力を最終的な拠り所とする「大国」による権力政治の舞台ではなく、「大国」が規定する国際システムを所与としそれ以外の領域(多国間協力など)に外交資源をつぎこんで影響力を発揮する外交だと、定義している。
本書の構成は、戦後日本外交は「ミドルパワー」外交だったという前提に基づき、吉田路線の誕生からそれが定着されていく日本外交史を冷戦後まで追っている。軍国主義を封じ込めるためにつくられた憲法9条と、冷戦の産物としてできた日米安全保障条約という、異なる環境で生まれた二つの日本外交の基本方針が矛盾の関係にあったことがねじれを生み出したが、それが日本の「ミドルパワー」外交の端緒となった。その後、日本外交は左右に揺れながらも、基本的にこの路線が踏襲されてきたのである。筆者はこの中庸の政策を歓迎し、冷戦後の世界においては、人間の安全保障の分野などでカナダやオーストラリアなどと協力していくことが、日本の「ミドルパワー」外交を最大限発揮できると論じている。
論理が明快であり、歴史の実証もしっかりした枠組みのもとに行われている。今後の展望についても、現実的かつ示唆的で説得力があった。
ただ、「ミドルパワー」外交という概念の精緻化作業がほとんど手つかずになっているのが惜しまれる。新書ということで紙幅の都合もあったのだろうが、「ミドルパワー」外交が大国政治のなかでその役割を発揮できる領域の限界性や、国際システムが日本にとって不都合なルールで形成された場合などの危機的状況における「ミドルパワー」外交の意味といった点まで、論じてほしかった。また、通商ルールの既定やAPECなどの地域統合を推進している日本の経済面における大国「的」な外交は、「ミドルパワー」外交の理論の射程内に収まるのだろうか?あとがきに「ミドルパワー」ということばが人々の思考を停止させてしまったと書いてあったが、筆者自身も思考を停止させることのないよう、さらなる理論展開を待ちたい。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
日本の「ミドルパワー」外交: 戦後日本の選択と構想 (ちくま新書 535) 新書 – 2005/5/1
添谷 芳秀
(著)
- ISBN-104480062351
- ISBN-13978-4480062352
- 出版社筑摩書房
- 発売日2005/5/1
- 言語日本語
- 本の長さ236ページ
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2005/5/1)
- 発売日 : 2005/5/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 236ページ
- ISBN-10 : 4480062351
- ISBN-13 : 978-4480062352
- Amazon 売れ筋ランキング: - 338,307位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
7グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2005年7月8日に日本でレビュー済み
ミドルパワーとしてここで想定されているのは、カナダや北欧諸国である。例えばカナダの安全保障におけるアメリカへの依存度は日本以上であり、経済力などからいっても間違いなく「大国」ではない。しかしG8のメンバーとして世界の主要国に名を連ねているし、対人地雷禁止条約の交渉では、大国が身動きとれない状況で、カナダが主導権を発揮し、不可能と思われていた条約締結を可能にした。このように「大国」ではないが、国際政治に影響を与えるパワーを持つ国家が「ミドルパワー」である。したがって、日本を「ミドルパワー」と言うことは、間違っても日本が「その他大勢」の国家だということを意味しない。
著者は、憲法9条と日米安保という矛盾を抱えた(それは日本が大国を諦めたことを意味する)吉田路線がどのようにして生まれ、それから後の政権がどのようにして吉田路線に吸収されていったか(=吉田路線がどれだけ強固だったか)、その中でどう自主性を追求しようとしたかを丹念に記述する。
非常に優れた分析だと思う。著者の言うように、憲法が押し付けられたかどうかということに拘泥するのではなく、正しい現実認識に基づいた未来志向の外交論が活発になることを期待する。
唯一残念なのは、日米安保の交渉で、日本が憲法9条を捨てて再軍備化すべきだというアメリカの圧力に対し、吉田首相が憲法9条を守ろうとしたのはなぜか、書いてないことだ。恐らく日本社会の状況からいって無理だと踏んだのだろうが、アメリカに対する完全な軍事的従属を拒んだため、という解釈も成り立つ。吉田路線を読み解く上で非常に重要なので、画竜点睛を欠く感がする。とはいえ、この本の素晴らしさが大きく損なわれるわけではない。
著者は、憲法9条と日米安保という矛盾を抱えた(それは日本が大国を諦めたことを意味する)吉田路線がどのようにして生まれ、それから後の政権がどのようにして吉田路線に吸収されていったか(=吉田路線がどれだけ強固だったか)、その中でどう自主性を追求しようとしたかを丹念に記述する。
非常に優れた分析だと思う。著者の言うように、憲法が押し付けられたかどうかということに拘泥するのではなく、正しい現実認識に基づいた未来志向の外交論が活発になることを期待する。
唯一残念なのは、日米安保の交渉で、日本が憲法9条を捨てて再軍備化すべきだというアメリカの圧力に対し、吉田首相が憲法9条を守ろうとしたのはなぜか、書いてないことだ。恐らく日本社会の状況からいって無理だと踏んだのだろうが、アメリカに対する完全な軍事的従属を拒んだため、という解釈も成り立つ。吉田路線を読み解く上で非常に重要なので、画竜点睛を欠く感がする。とはいえ、この本の素晴らしさが大きく損なわれるわけではない。
2005年12月26日に日本でレビュー済み
よくまとまった日本外交論だと思う。
日本をミドルパワーと位置づけ、米中をグレートパワーと位置づけ分析するのはなかなかに興味深い。
ただ、一読しても、筆者の言うみドルパワーがいったい何を意味するのかくっきりと浮かび上がってくることはなかった。
「ミドルパワー」というより、何か他のネーミングが日本外交には必要でないかと思われる。
それでも、現実主義の立場からの面白い論考であると思うので星四つ。
筆者のこのフレームワークを用いたより深い外交論に期待したい。
日本をミドルパワーと位置づけ、米中をグレートパワーと位置づけ分析するのはなかなかに興味深い。
ただ、一読しても、筆者の言うみドルパワーがいったい何を意味するのかくっきりと浮かび上がってくることはなかった。
「ミドルパワー」というより、何か他のネーミングが日本外交には必要でないかと思われる。
それでも、現実主義の立場からの面白い論考であると思うので星四つ。
筆者のこのフレームワークを用いたより深い外交論に期待したい。