2011年に刊行されたので、本書の内容から状況が変わっている部分はあるにせよ、2014年現在も日本農業が抱える多くの問題は解決されていない。
農業については、他の産業と違い、人間が生きるため(食べるため)に必要なものであるため、議論が感情的になる場合が多いが、本書はありのままに現状の姿を述べて、そこから今後の農業を考えている。
TPPについては、本書後の再度の政権交代により自民党の安倍総理大臣がTPP交渉へ正式に参加することを表明し、具体的に交渉が進んでいる。
自民から民主へ、民主から自民へ政権が交代したことによる政策のブレは多少あったが、大局的に見ると、ほとんど何も変わっていないことが分かる。
食料自給率について、今まで漠としたイメージしかなかったが、重量、生産額、供給熱量等がそれぞれベースになっており、各計算方法の違いにより、全く違った「食料自給率」が算出されることを改めて考えさせられた。
畜産物など、品目によっても計算方法が異なる場合がある。
本書にあるように、何が正解というわけではなく、「何を知るための自給率かという観点に立って尺度を選択すればよいのである」。
逆に言えば、このことを知っておくことで、恣意的な「食料自給率」の算出データがあった際に、それを見破ることができるようになる。
集約型農業と土地利用型農業では、収益構造に大きな違いがある。
概して土地利用型のほうが収益はよいが、土地が広すぎても、コスト削減につながらない。10ヘクタール前後でコストダウン効果が消失する。人手や期間、機械設備等がボトルネックとなるからである。この制約条件を取り除き、全体最適化を図ることが必要となる。
また、本書で語られているように、農産物の加工や販売の領域で、大型法人経営の威力が発揮される。いわば「六次産業化」である。この点においては、本書が刊行された2011年以降に、取り組む農家が増え進歩があったかもしれない。
水田農業は、市場経済によるビジネスの層だけでは完結しない。そこには、「資源調達をめぐって農村コミュニティの共同行動に深く組み込まれた層」がある。
資本主義的に、短期的な利益を追求することは、有形無形の農村文化を手放すことにつながる。とはいえ、利益を生み出さなければ継続的な活動は行えない。
農業においても、長期的な視点から利益を生み出していくための、公益資本主義的な取組が、これからますます必要となってくるだろう。
減反・生産調整について、昔、教科書で習った覚えはあるが、改めて考えさせられた。
コメを作らないことに対して助成金を出すというのは、今思えば、いびつな構造だろう。
しかし、その政策が実行されるときには、中には反対する人もいただろうが、多くの人はそれに従った。そして、その弊害が何年後かに出てきている。
2013年、自民党の安倍首相は2018年に減反政策を廃止するとしたが、転作補助金は維持され、実質的な減反政策の維持と見られている。
本書にあるように、選択的な生産調整を可能として、生産調整のない状態へソフトランディングを図るべきであろう。
これからは、日本の農業が可能なことを見極め、「日本の農業政策は、不可能なレベルを補完するだけではなく、可能なレベルの達成に向かう努力を引き出す装置でなければならない。」
現在は、法人型の農業経営が新規参入のインキュベータとして機能し、30代までの若者の就農者が増えつつある。
生産物の付加価値を高めること、的確な情報発信を行うこと、川下の食品産業への多角化を進めること、アジアへの輸出を増やすこと等々、日本の農業にできることはまだ山ほどある。
製造業やIT業界といった成熟した飽和産業に比べれば、農業はできることが多いし、需要がなくなることもない。可能性が無限に広がる産業といえるかもしれない。
ありのままで、日本の農業の強さと弱さを直視すること。日本の農業に可能なことと不可能なことを見極めること。
農業だけではなく、日本全般を見極めるために言えることかもしれない。
日本の未来を見極めるために、読んでおくべき一冊。
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日本農業の真実 (ちくま新書 902) 単行本 – 2011/5/11
生源寺 眞一
(著)
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わが国の農業は正念場を迎えている。いま大切なのは食と農の実態を冷静に問いなおすことだ。農業政策の第一人者が現状を分析し、近未来の日本農業を描き出す。
- ISBN-10448006608X
- ISBN-13978-4480066084
- 出版社筑摩書房
- 発売日2011/5/11
- 言語日本語
- 寸法10.8 x 1 x 17.4 cm
- 本の長さ206ページ
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- 言語 : 日本語
- 単行本 : 206ページ
- ISBN-10 : 448006608X
- ISBN-13 : 978-4480066084
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2014年8月5日に日本でレビュー済み
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2024年5月23日に日本でレビュー済み
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農家のブログを見て購入 そうだったのかぁ〜と 納得やら 改めて憤りやら です
2020年1月31日に日本でレビュー済み
自民党時代、民主党時代の政府がどういった農業政策を打ち出し、それらの意味や効果はどうだったのかが、法律や文書をベースに説明されていて実態を深く理解できたように思います。
「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」と同じ著者で、書いている内容が重複しているところもありましたが、前著では食料と農業に焦点を当てていたのに対し、この本では農政に焦点を当てていたように思います。
「農業がわかると、社会のしくみが見えてくる」と同じ著者で、書いている内容が重複しているところもありましたが、前著では食料と農業に焦点を当てていたのに対し、この本では農政に焦点を当てていたように思います。
2014年10月10日に日本でレビュー済み
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農業を考えるときの難しさは、それが市場経済に組み込まれた層と、コミュニティや自然環境に組み込まれた層のいわば二層構造になっている点にある。そのため、一方では自由化や大規模化・効率化の必要性を強調する経済学者・市場主義者と、他方では農業のコミュニティ性・環境保全性を重視する反市場主義者との間で、とかくイデオロギー的な対立に陥りやすい。
本書の優れた点は、長年日本農業の研究と政策形成に携わってきた著者が、そのどちらの立場にも偏ることなく、農業の市場性・コミュニティ性の両者を踏まえたバランスのよい視点から、日本農業の経緯とあるべき姿を論じていることにある。日本もアメリカ並みに大規模化すべきだという主張に対して、一定の大規模化は必要であるが、10haを超えると大規模化のメリットは少なく、逆にコミュニティ価値が損なわれるという指摘(150ページ)は、その典型であろう。他にも有益な指摘は多い。たとえば、生産額自給率とカロリー自給率の違いをきちんと区別すべきという指摘(50ページ)は、TPPをめぐる対立を自分なりに整理するのに大いに役立ったし、コメの生産調整をめぐる真の公平性とは、生産調整の参加者・不参加者が互いの選択を認め合える制度設計を行うことであるという指摘(138ページ)も、問題のみごとな整理に目からウロコが落ちる思いがした。
私はどちらかというと農業のコミュニティ的価値を重視する方であるが、この本を読んで、自分の立ち位置を客観的にとらえ直すことができた。本書のバランスのよさが、自分の立場をとらえる上での、俯瞰図のようなものを与えてくれるのである。総じて、日本農業の現実を念頭におき、問題の構造をすなおに押さえながら、農業の市場性・コミュニティ性の双方の視点を踏まえて妥当な着地点をさぐろうとする著者のアプローチは、思考方法としても非常に勉強になった。その意味で、農業の市場的側面を重視する人、コミュニティ的側面を重視する人の双方が参照すべき優れた本であると思う。
本書の優れた点は、長年日本農業の研究と政策形成に携わってきた著者が、そのどちらの立場にも偏ることなく、農業の市場性・コミュニティ性の両者を踏まえたバランスのよい視点から、日本農業の経緯とあるべき姿を論じていることにある。日本もアメリカ並みに大規模化すべきだという主張に対して、一定の大規模化は必要であるが、10haを超えると大規模化のメリットは少なく、逆にコミュニティ価値が損なわれるという指摘(150ページ)は、その典型であろう。他にも有益な指摘は多い。たとえば、生産額自給率とカロリー自給率の違いをきちんと区別すべきという指摘(50ページ)は、TPPをめぐる対立を自分なりに整理するのに大いに役立ったし、コメの生産調整をめぐる真の公平性とは、生産調整の参加者・不参加者が互いの選択を認め合える制度設計を行うことであるという指摘(138ページ)も、問題のみごとな整理に目からウロコが落ちる思いがした。
私はどちらかというと農業のコミュニティ的価値を重視する方であるが、この本を読んで、自分の立ち位置を客観的にとらえ直すことができた。本書のバランスのよさが、自分の立場をとらえる上での、俯瞰図のようなものを与えてくれるのである。総じて、日本農業の現実を念頭におき、問題の構造をすなおに押さえながら、農業の市場性・コミュニティ性の双方の視点を踏まえて妥当な着地点をさぐろうとする著者のアプローチは、思考方法としても非常に勉強になった。その意味で、農業の市場的側面を重視する人、コミュニティ的側面を重視する人の双方が参照すべき優れた本であると思う。
2020年1月7日に日本でレビュー済み
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著者がとにかく卑屈な文章の書き方をするので、読んでいて辟易しました。
2013年9月15日に日本でレビュー済み
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TPPなどをめぐり、日本農業に対する極端な議論が横行するなどで、非常に冷静かつ、客観的に、日本農業の現実の強さと弱さを描き出す。
2016年3月1日に日本でレビュー済み
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大学の先生なので、やや難しい部分もあるが、概ねわかりやすく書かれている。もう少し、国内生産の食の安全について詳しく触れてほしかった。たとえば、大規模のアメリカ産などが、雑草の処理をどうしているか、それが健康に及ぼすと思われる影響はどうなのか。大飢饉になった時、輸出国が自国の国民を飢えさせてまで輸出してくれない以上、大企業の持つ資産を吐き出しても、自国農業の守るべき部分は何かなど、もう少し突っ込んでほしかった。今、TPP問題で、5%のために95%を犠牲にするのかなどという暴論を吐く政治家もいるが、もしも戦後のような事態が起こったら、10%の金持ちを除く90%の国民は飢えるしかないのが現実だ。
2011年7月28日に日本でレビュー済み
最近まで、日本の自給率が低いという事に何の疑問も持っていなかったので
本書の冒頭に説明があった自給率の計算方法や自給率といっても種類が
あることがわかって驚いた。
確かに、ここのところ農業について色々な本が出ていて、その中では
本書で指摘があるように過激なタイトルがついた本も多く、
いまいち信用にかける感じを抱いていたが、本書は冷静に農業を多面からみて
これからの農業政策について提言を行っている非常に有益な良書と思います。
特に、今の政策の悪い面を強調するのではなく、その政策が出来上がった
歴史的背景、そしてそこから見える問題点から未来への提言を行っているので
納得がしやすかった。
農業とは生きることに直結することで、他の生産品によって失っていいもので
はないと感じる。だからこそ国全体で維持していく方法を一生懸命考えていかないと
いけないのだろう。本書で一番同意できたのは、自給率を上げることを
目標にするのではなく、いかなる場合も供給が確保できるカロリー(本書では
1日一人、約2000kcal)を維持する事が、国の食料安全保障での1番の
プライオリティであるこという部分である。色々議論はあると思うが
いたずらに自給率だけを目標に上げると見失うものもきっとあるのだろう。
また、本書でいうとおり、農業政策で局面が一気に打開できるような特効薬も
ないだろうと思える現在の状況から、将来を見据えて一歩ずつ着実に
これからの農業を支えていかないといけないと感じる。
政策文書からの引用があり、少し読みにくい部分もありますが、日本の農業の
原点と今実際におこっている農業の実態を把握するには、最適の本だと感じるので
新聞などでの解説よりもっと踏み込んだ内容を求めている人にはお薦めできます。
本書の冒頭に説明があった自給率の計算方法や自給率といっても種類が
あることがわかって驚いた。
確かに、ここのところ農業について色々な本が出ていて、その中では
本書で指摘があるように過激なタイトルがついた本も多く、
いまいち信用にかける感じを抱いていたが、本書は冷静に農業を多面からみて
これからの農業政策について提言を行っている非常に有益な良書と思います。
特に、今の政策の悪い面を強調するのではなく、その政策が出来上がった
歴史的背景、そしてそこから見える問題点から未来への提言を行っているので
納得がしやすかった。
農業とは生きることに直結することで、他の生産品によって失っていいもので
はないと感じる。だからこそ国全体で維持していく方法を一生懸命考えていかないと
いけないのだろう。本書で一番同意できたのは、自給率を上げることを
目標にするのではなく、いかなる場合も供給が確保できるカロリー(本書では
1日一人、約2000kcal)を維持する事が、国の食料安全保障での1番の
プライオリティであるこという部分である。色々議論はあると思うが
いたずらに自給率だけを目標に上げると見失うものもきっとあるのだろう。
また、本書でいうとおり、農業政策で局面が一気に打開できるような特効薬も
ないだろうと思える現在の状況から、将来を見据えて一歩ずつ着実に
これからの農業を支えていかないといけないと感じる。
政策文書からの引用があり、少し読みにくい部分もありますが、日本の農業の
原点と今実際におこっている農業の実態を把握するには、最適の本だと感じるので
新聞などでの解説よりもっと踏み込んだ内容を求めている人にはお薦めできます。