現代アートは「分からないもの」の代名詞ともなっている。
しかし、現代アートの芸術家たちは、ただ無意味に訳の分からないものを作ったのでは全くなく、芸術が直面した課題・問題に対し、それぞれの仕方で応答した結果としての作品作成なのである。
印象派は、写実主義から「感覚の純粋化」を教えられ、そしてそれを徹底した結果として現実の描写からは離れていくという帰結を生んだ。
その先にあるポスト印象派では、セザンヌが形態の純粋性を、ゴーギャンが色彩の純粋性を志向し、それぞれキュビズムやフォービズムへとつながる。
その先には、例えば形態の抽象化としてのモンドリアン、色彩の抽象化としてのカンディンスキーなどを見ることが出来る。
しかし、両者の系統には大きな違いも見出すことが出来る。
現代アートの系譜の一つとして「宇宙を支配する純粋美の法則を表出する」というものがあり、モンドリアンやブランクーシなどが属する。
一方、「画家の内なる魂を表出する」というものも存在し、これはシュルレアリズムや幻想主義などが引き継いでおり、カンディンスキーもこちら側にいる(こちら側は、顔を描き出すのも特徴とされている)。
絵画は、それが描きだすところであり観衆が想起する「イマージュ」を、現実世界の対象である「オブジェ」と結びつける。
両者の結びつきは印象派以降破綻するが、キュビズムは当初、オブジェの確認のために「オブジェそのもののコンポジション」を描いたとしている。
キュビストの画に登場する楽器やコップは、直線と曲線の単純な組み合わせで出来ていると同時に、「触れる」ことで機能する対象である。
しかし、オブジェを純粋化する試みはオブジェを空間から切り離すことになっており、それはむしろオブジェの非現実性を一層明らかにしてしまうというパラドキシカルな帰結をもたらした。
そこからの一つの方向は新造形主義だが、その代わりブラックやピカソは、紙や布を貼り付ける「コラージュ」によってオブジェの維持に向かう。(逆方向として、オブジェからの歩み寄りとしてはレリーフが挙げられる)
別方向からのオブジェのイマージュ否定はデュシャンの『LHOOQ』やラウシェンバーグの『消されたデ・クーニング』などのように、イマージュを掻き立てる作品が所詮一つの物理物体に過ぎないことを明らかにすることからもなされている。
クラインの青のモノクロニズムが到達した「可能な限りオブジェを排したイマージュ」は、フォンタナが切れ目を入れることで一気にオブジェへと引き戻される。
一方、描画や造形ではなく「描くこと」自体の解体が、アクション・ペインティング以降に起こる。
ボロックは絵画の「中に入る」ことを主張し、マチューは即興政策を行う。
その後の流れは、画家自身に「スキャンダル」を巻き起こす形で進んでいくことはその分かりやすい証左と言える。
また別の流れであるポップ・アートは、イマージュのオブジェ性の表れとして理解されている。
徹底された抽象的計算性の上に成り立つ「オップ・アート」はさらにまた別の応答である。
現代アートの取り組んできた問題を分かりやすく分析し論じてくれている良書である。
ただしストーリーをもって理解しようとするため、それに合わない芸術、例えばダリやマグリット、ムンク、あるいはホッパーやウッド等はあまり顧みられてはおらず、いわゆる抽象方向をメインとしている点は注意が必要である。
分からない現代アートを理解する視座を与えてくれる著作であり、やや難しいものの多くの人に薦めたい本である。
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20世紀美術 (ちくま学芸文庫 タ 6-1) 文庫 – 1993/4/1
高階 秀爾
(著)
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- 本の長さ269ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日1993/4/1
- ISBN-104480080554
- ISBN-13978-4480080554
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- 出版社 : 筑摩書房 (1993/4/1)
- 発売日 : 1993/4/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 269ページ
- ISBN-10 : 4480080554
- ISBN-13 : 978-4480080554
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2019年1月19日に日本でレビュー済み
本書では現代美術の発展を「イマージュとオブジェの関係」「色とか形と自己の感情など、ある側面に焦点を当てて描く」などの数個の視点から、丁寧に解説されています。著者の高階氏は、一つの論点にも、さまざまな証拠やたとえを引き、色々な言い方をしながら、実に論理的に説明され、言葉を様々に選び、読者の全員に理解できるように心遣いされています。現代美術を見るときのガイドとして最適でしょう。通常の美術史家ならば、知っている話を色々と前てしまい読者を混乱させかねないところ、実にスッキリしている。文章を読んでも全く偉そうではなく、実にわかりやすい。それには紹介すべき材料や言葉遣いに非常な努力を払い、またクリアな論理を構築し、それをわかりやすく書くことができる著者の力量、これを読み取るべきでしょう。
実は私は、この本をもう30年以上前に読みました。ここに書かれた論旨もまた例としてあげられた作品の写真もよく覚えています。今回、同じ本をもう一冊購入して、毎晩寝る前に、少しづつゆっくりと読み直して見て、実に明確な路線で説明をされ、しかもその文章から、平明に見えて、説得力のある説明から、著者の神経のこまやかさ、言葉の使い方の巧みさ、を感じます。
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2013年5月2日に日本でレビュー済み
高階秀爾が本書で論じる論点の多くは、未だに有効性を失わない。まず巻頭で、オブジェとイマージュをめぐる決定的な分析枠組が、現代美術の具体的文脈から引き出される。そして、写実主義から印象派への展開とその臨界点としてのモネの出現から、その愚直なまでの論理的帰結であるブラックとピカソの出現、さらにモンドリアンの新抽象主義への推移が極めて論理的に導き出される。このアイデアは、社会哲学における規範の抽象化をモダンの特徴とする論考や、ある方向性の徹底化が逆説的に相反する結果を生み出すメカニズムの指摘に十年単位で先行している。本書は著者33歳での出版であり、内容の先進性と分かりやすさには目をみはる思いがする。
2009年6月30日に日本でレビュー済み
自分はカンディンスキーの絵画が妙に好きなのだが、20世紀美術といえば、いわく難解というのが相場で、しかしこの著書を読み込めば、その営為は決して難解さのための難解さではないこと、現代美術とは、ある種の純粋さを追求しようとする行為が、いつだって重層的である現実の一側面を捉え切ったときに極度に抽象的に、あるいは極度に幻想的になっていく結果として表象していることが了解できる。音楽にたとえてみれば、パンクやハードコアパンク、ジャーマンロックなどのラウドな音楽が野蛮に響くだけかえって純粋で優しくて知的でもありえる、といった感覚に似ている。
構成は序章の後に「オブジェとイマージュ」「構成と表現」「新しい伝統」「今日の諸潮流」終章、と続いていて、各個人・各流派の狙っていた表現の意図が、先行する流派と同時並存する流派とのせめぎあいでどんな風に生まれ、実践され、変容していくかをわかりやすく跡付けてくれる。その経過では、美術界内の影響だけではなく、科学や技術の変化や、社会生活の変化、国内情勢の変化や国家間の関係の変化にも影響を受けていく。
読み進めていくと気づくのは、20世紀美術の新技法は、大きな問いかけがなされた際の切り返しとして生成し、実行されたということだ。根源的問いかけは芸術家の外部から発せられることもあれば、芸術家の内部で生まれることもあり、時代が経過していくにつれて、そんなもともとの問いかけの声が小さくなっていくのが今に至る20世紀美術史のモチーフなのではないか。現代美術のわかりにくさは、ここにあるのだと思う。
その問いかけの内実について詳しく明らかにするのは今の自分には難しいが、生きていくこと、生きていることの実質はなにか、といった域にまで達する深さを持ったものだっただろう。その声を途絶えさせたのは「生産性の政治学」でもあり、この類の書籍を読んでいると自分の周りに強く感じる、根源的に問うことを無効にするハビトゥス、イデオロギーなのだと思う。
岡本太郎の著作と一緒に読みたい一冊。
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marva hancock
5つ星のうち5.0
Grammy Hammy
2012年11月3日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
Have enjoyed every book in this series. They are worth reading if you are interested in art. Informative and instructional.
111
5つ星のうち5.0
good
2014年1月1日にドイツでレビュー済みAmazonで購入
Ich mochte dieses Buch
Sowohl der Deckel fühlt sich sehr Textur oder Inhalt
Die Inhalte können sehr aufschlussreich als schönes Geschenk für jemand anderes zu sein
vorgeschlagene Kauf
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vorgeschlagene Kauf
MR KENNETH D HOGG
5つ星のうち4.0
Very good series of books
2013年6月19日に英国でレビュー済みAmazonで購入
Very good condition as described. Received promptly. No Complaints. This procedure is far too tedious to continue any further comment.