稲葉振一郎の『
社会学入門
』といういわば「理論編」の教科書を読んで以来、社会学の「実践編」の教科書がほしいと思っていたところ、偶然にも本書を見つけた。本書は、社会学的な分析の方法論を真剣に論じた上で、「日本人とは?」という問いに対して、実際に「多元的階層モデル」というのを作って見せてくれる。人文社会学系の必読書にしたいくらいだ(いや、専門家様に物申す気はないけれど)。
絶版になってしまっているのが本当に惜しい。たしかに用語も含め議論がかなり高密度で読者を選ぶが、間違いなく名著だろう。読者を下手におだてたり、著名人に媚びたりしないところが良い。いや実は、だからこそ「批判することにも、批判されることにも慣れていない日本人」に嫌厭されて、絶版の憂き目に会ってしまった。(これは思いつきの仮説で証明はされていない。だから誰か証明してくれないかなあ。)
いつもは自分であれこれ長々と書くのだが、今回ばかりは、とくに気に入ったところを二つ三つ引用するだけにする。そのほうが著者たちの厳しく真摯な態度がよく伺えると思う。
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「実感や直観は仮説を作るための重要なエンジンだが、それだけでは仮説の証明をしたことにはならない。/部分的な小体験と全体的な大体系の間を結ぶ環はどこになるのか。この問題が比較分析の視覚から日本社会を熟視しようとする私たちの前にあらわれる。」(p. 22) ーー 本書の基本的なスタンス。
「より重要な問題は、[ベネディクトの『菊と刀』において、]「菊文化」を持ったいる日本人と「刀文化」を持っている日本人とは二つの別々のグループである可能性が、全く考えられていない点にある。つまり、「菊文化」と「刀文化」が日本の中の二つのサブ・カルチャーであり、そのにない手は異なる社会階層であるという仮説を検討していけば、逆説と見えたものが、逆説ではなくなるという筋道が全然検討されていない。・・・/・・・日本社会の逆説性とか非予測性とかの言葉は、しゃれた概念のようにも見えるが、実はよくわからないということの言い換えだとも言える。・・・[日本社会に「逆説」を見出そうとする言説は]日本社会を説明する理論の不在を告白しているだけのことかもしれない。」(pp. 51-53) ーー ありがちな知的怠慢に対する批判。
「土屋の「甘え」説にも・・・[定義と証明を混同する]傾向が強い。例えば「日本の子どもは甘えているから、母親が部屋を出て行くときに泣き出すのだ」というような命題がそうである。泣いているという現象が「甘え」という状態の一部を表現する観察指標として持ち出されている以上、「甘え」が原因で子が泣く、という因果関係を導くことは、論理的におかしい。」(p. 178) ーー 誤謬推論に対するきわめて簡潔な批判。
「民族差別であろうと、宗教儀式であろうと、女性差別であろうと、あるいは日本人論であろうと、知識社会学は、私たちの「知識」というものが、どういうふうにして私たちの頭にはいって来るか、一定の見方が私たちの自己利益を正当化するためにどう役立っているのか、という問題に目を開かせるのである。自分の信念や確信として自分の中に持っている社会のイメージと向き合うことは、痛みを伴う作業となりがちだ。ある種の問題については、私たちは自分に問いかけること自体、不愉快だったり恐ろしかったりする。・・・しかし、・・・。」(p. 120) ーー 読者に必要な心構え。
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日本人論の方程式 (ちくま学芸文庫 ス 1-1) 文庫 – 1995/1/1
- 本の長さ347ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日1995/1/1
- ISBN-104480081798
- ISBN-13978-4480081797
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (1995/1/1)
- 発売日 : 1995/1/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 347ページ
- ISBN-10 : 4480081798
- ISBN-13 : 978-4480081797
- Amazon 売れ筋ランキング: - 606,758位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,817位ちくま学芸文庫
- - 11,272位社会学概論
- - 58,892位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
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2015年1月19日に日本でレビュー済み
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2017年3月28日に日本でレビュー済み
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日本と日本人は優れている、類い希な民族(集団)である、こういう考えやこれに基づく言説がかつてなく盛り上がっている現在、この本を読めばこそうした現象に対して冷静な分析と的確な批判ができそうだ。
「このフレーズがいい!」「この視点は大切だ!」と思える箇所が多数あって刺激的なアイデアに満ちている。一読したが、再読をして2人の著者の視点と方法を学びたい。驚くことに、この本は1970年代の現象を対象にしていることが多いが現在でもその主張と見解は全く有効である。進歩がないというのか、同じものが繰り返して生まれていること自体が分析の対象となり得るのは悲しい現実ではないだろうか。
「このフレーズがいい!」「この視点は大切だ!」と思える箇所が多数あって刺激的なアイデアに満ちている。一読したが、再読をして2人の著者の視点と方法を学びたい。驚くことに、この本は1970年代の現象を対象にしていることが多いが現在でもその主張と見解は全く有効である。進歩がないというのか、同じものが繰り返して生まれていること自体が分析の対象となり得るのは悲しい現実ではないだろうか。
2004年11月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
1982年刊の『日本人は「日本的」か』という本の文庫化。
日本人論のイデオロギー的機能を社会学的に分析した本です。
様々な手法を駆使しつつ、「日本人論」の胡散臭さを暴き出す。
「日本人って××だよね~」という説明を求める方にはお勧めしません。むしろ、「日本人って××だよね~」という説明に対して、一定の距離を置きたい方、置いている方にどうぞ。
日本人論のイデオロギー的機能を社会学的に分析した本です。
様々な手法を駆使しつつ、「日本人論」の胡散臭さを暴き出す。
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2006年1月27日に日本でレビュー済み
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この本は、今まで自分は何を基準に「日本人らしい」とか「日本人は〜だ」と思っていたのかを、根本から考え直させてくれる本でした。賛否両論あるにせよ、日本人論とは何かを考えている、または考えたことがある人に関してはこの本は必読書ではないかと思います。ステレオタイプで作られてきた日本人論を覆す非常に興味深い本でした。
2005年5月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「日本人」とは誰か?誰が「日本人」なのか?「日本人」はどこから来たのか?など、「日本人」はこういうテーマが好きだとされています。
しかし、本当にそうなのでしょうか?そんなことに関心を持たない「日本人」もいるはずです。それなのに「日本人は○○だ!」というような意見を書いた本が数多くあります。この本は「日本人は○○だ!」という一般化を行う「日本人論」という書物郡について、批判的な考察を行なっています。
「日本人は○○だ!」と書いてある本を疑わしいと一度でも思ったことがある方、「日本人は○○だ!」という意見を信じてしまいがちな方、いろいろな方に読んで貰いたい一冊です。
しかし、本当にそうなのでしょうか?そんなことに関心を持たない「日本人」もいるはずです。それなのに「日本人は○○だ!」というような意見を書いた本が数多くあります。この本は「日本人は○○だ!」という一般化を行う「日本人論」という書物郡について、批判的な考察を行なっています。
「日本人は○○だ!」と書いてある本を疑わしいと一度でも思ったことがある方、「日本人は○○だ!」という意見を信じてしまいがちな方、いろいろな方に読んで貰いたい一冊です。