岡本太郎生誕100年を迎えた今年(2011年),太郎の著作の全貌を明らかにすべく,ちくま学芸文庫から「岡本太郎の宇宙」全五巻が刊行されている。これはその第一巻。ここでは太郎の「芸術」に留まらない「人生」を一貫して貫くキーワード「対極」と「爆発」に関係する著作を集め,太郎の思想の核に迫ろうとする。責任編集は美術評論家の椹木野衣で,解説も秀逸である。
太郎は初期の頃,先人の開拓した二十世紀美術の歴史を前に,その未だ行方定まらない激流を自らの作品の中で受け止めようとした。太郎は知的・合理的なアブストラクト・アートと,本能的・非合理的なシュールレアリズムの二つの芸術の潮流を,安易に調和させずに対立させたまま画面に配置する手法を取った。これが「対極主義」であり,まだこの時点では美術の方法論に留まるものであった。
しかし,やがてその「対極」は,より根本的な原因,すなわち生きると言うことの本質そのものに根差した問題として深化して行く。
それは弁証法的・発展的・楽観的な歴史観,社会観や人間観に対立するものとして浮かび上がってくる。芸術や自己,世界に内在する相反する二つの要素を,弁証法的に「止揚される」として知的に・歴史的に処理しても,現実を,今の瞬間を生きる我々にとって何のプラスにもならない。「対極」とは,むしろ今現在,そのような相反する二つの要素によって引き裂かれた自分を,そのまま差し出し,そのまま生きて行く態度・生き方を意味する。
そしてその矛盾する二つの要素の間で炸裂する激しい摩擦・火花が「爆発」であり,その爆発の輝き・美しさにこそ芸術の意味,生きる意味を見いだそうとする。当然芸術は無意味に熟達した職人芸や暇つぶしの趣味であってはならず,芸術は必然的に抜き差しならない戦い・生き方そのものになって行く。
二十世紀の,そして太郎の取り組むべき芸術の課題は,人間の自己疎外状況からの解放であった。人間が機能として・部品として扱われ,人間としての全体性が失われて行く状況に対し,太郎は「対極と爆発」の思想で,矛盾に引き裂かれつつも命輝く人間像を提示して対決を挑んだ。二十一世紀の現在,太郎の頃と比べて,何か解決が見られているだろうか。世界のグローバル化による均質化圧力と,生産者過剰による労働価値の低下により,むしろ人間の疎外状況は一層ひどくなっているのではないか。
このような状況下で,若い世代から太郎の思想と生き方が見直され,渇望されているのはある意味当然と言えるかも知れない。旧来型の人生の成功パターンが成立しなくなり,依って立つべき生き方が見えなくなっている今,金銭的・地位的な成功よりも自分の命の炎を燃やし尽くしたいと願う人が増えてくるのも自然だろう。芸術の枠を越えた太郎の「対極と爆発」の人生観・価値観は新しい時代の生き方の指針として,志ある人々の前途を強烈な光で照らしてくれるであろう。
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対極と爆発 岡本太郎の宇宙 1 全5巻 第1回配本 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2011/2/8
- 本の長さ594ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2011/2/8
- 寸法10.8 x 2.3 x 14.9 cm
- ISBN-104480093710
- ISBN-13978-4480093714
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2011/2/8)
- 発売日 : 2011/2/8
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 594ページ
- ISBN-10 : 4480093710
- ISBN-13 : 978-4480093714
- 寸法 : 10.8 x 2.3 x 14.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 451,516位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,512位ちくま学芸文庫
- - 79,887位ノンフィクション (本)
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2014年1月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
すばらしい作品です。敏子さんの岡本太郎を作り上げる二人三脚の思いが伝わりました。是非、日本の唯一無二の天才芸術家に触れて感じて熱くなろうではありませんか!
2015年2月19日に日本でレビュー済み
岡本太郎という人は稀に見る「マジな人」だったようだ。
狂おしいまでの本気の実践。
妥協なき一本槍。
まさに我が人生を‘‘生きた‘‘といえるのではないか。
本書にも所収されている『今日の芸術』は衝撃的だった。
私が初めてこの本を読んだのはかれこれ2年前。
もう半世紀以上前に書かれた本書がいまだに衝撃的であることを、喜ぶべきか悲しむべきか。
美術といえば西洋美術、それも特に18世紀とか19世紀。
現代芸術なんてわけわからないだけだし、いわゆるニホンビジュツなんてねえ・・・・・・。
そう思っている日本人はいまだに多いのでは。
周りを見渡してもそうだし、私自身そう思っていた口だった。
多くの日本人は西洋美術に対するコンプレックスを覚え、
一方で「伝統」とされる「日本美術」の渋くてダサい負の遺産に引け目を感じている。
『今日の芸術』は岡本太郎がそうした現状に放った一本の矢だった。
明治官僚が西洋美術に対抗するためにでっち上げた「日本美術」なる幻想を解体し、
いま、ここに生きていることの絶対条件からたくましく創造していくことを宣言した。
本書にはいま取り上げた『今日の芸術』のほかに、
詩
夜の会での花田清輝らとの座談会
対極主義についての一連の著述(対極主義→対極という変遷が読み取れる。)
そのほか短いが重要な著述(本書の「瞬間と爆発」の章――瞬間、爆発、対極、呪術といった基本概念を知るうえで貴重)
大阪万博についての著述
が収められている。
岡本太郎の思想を知るうえで、よくまとめられている本だろう。
狂おしいまでの本気の実践。
妥協なき一本槍。
まさに我が人生を‘‘生きた‘‘といえるのではないか。
本書にも所収されている『今日の芸術』は衝撃的だった。
私が初めてこの本を読んだのはかれこれ2年前。
もう半世紀以上前に書かれた本書がいまだに衝撃的であることを、喜ぶべきか悲しむべきか。
美術といえば西洋美術、それも特に18世紀とか19世紀。
現代芸術なんてわけわからないだけだし、いわゆるニホンビジュツなんてねえ・・・・・・。
そう思っている日本人はいまだに多いのでは。
周りを見渡してもそうだし、私自身そう思っていた口だった。
多くの日本人は西洋美術に対するコンプレックスを覚え、
一方で「伝統」とされる「日本美術」の渋くてダサい負の遺産に引け目を感じている。
『今日の芸術』は岡本太郎がそうした現状に放った一本の矢だった。
明治官僚が西洋美術に対抗するためにでっち上げた「日本美術」なる幻想を解体し、
いま、ここに生きていることの絶対条件からたくましく創造していくことを宣言した。
本書にはいま取り上げた『今日の芸術』のほかに、
詩
夜の会での花田清輝らとの座談会
対極主義についての一連の著述(対極主義→対極という変遷が読み取れる。)
そのほか短いが重要な著述(本書の「瞬間と爆発」の章――瞬間、爆発、対極、呪術といった基本概念を知るうえで貴重)
大阪万博についての著述
が収められている。
岡本太郎の思想を知るうえで、よくまとめられている本だろう。
2014年2月1日に日本でレビュー済み
岡本太郎というと、”芸術は爆発だ!”という言葉だけが、よく取り上げられ、
あまり論理的な人物であるという印象はないが、それは、マスコミが作り上げた、偽りの岡本太郎だった。
この本を読むと、岡本が、美術史全体について、豊富な知識を有していたことに驚かされる。
日本の芸術界における、閉鎖性、保守性を批判する姿勢は、痛快。
とにかく、岡本太郎という人物の多面性に、あらためて感心させられた。
あまり論理的な人物であるという印象はないが、それは、マスコミが作り上げた、偽りの岡本太郎だった。
この本を読むと、岡本が、美術史全体について、豊富な知識を有していたことに驚かされる。
日本の芸術界における、閉鎖性、保守性を批判する姿勢は、痛快。
とにかく、岡本太郎という人物の多面性に、あらためて感心させられた。