ぼくは、この本を二回ほど読み通した。赤と蛍光ペンで線を引き倒し、ページの角を折りまくった。
ぼくは、医師からは「統合失調症と神経症の中間」と診断告知されているが、自分の体験が書かれている本はないものか、といろいろな本を手に取り、探していると、木村敏の著作に、自分の体験が克明に書かれてあることがわかった。木村敏の本は、7冊ほど読んだ。
主に、自分の発症前の神秘体験、宗教体験と言えるようなものや、発症前、離人神経症と診断されていたころの体験、現在の寡症状性分裂病的、つまり幻覚妄想が顕著でない、陽性症状が前面に出ていない、破瓜型分裂病、あるいは単純型分裂病的な、世界との疎隔体験などが、木村敏の著作において克明に説明されているように思った。
自分は、症例アンネ・ラウのような、自分の症状、異変について、自覚的であるタイプの、寡症状性分裂病なのではないか、と思っている。また、分裂病というと、たとえば笠原嘉『精神病』などには、自分の症状、異変に対して、自覚的ではないのが特徴的だと書かれてあったり、ぼくの手に取った、多くの分裂病(統合失調症)に関する、概説的な本には、ぼくの感じている違和感を説明しているものは、ほとんどなかった。
そこで出会ったのが、木村敏だった。または、ミンコフスキー『精神分裂病』だった。
ぼくが問題にしているのは、「世界との親しさ」を感じられなくなったこと、シュルレアリスムでいうデペイズマンのように、自分が世界のなかにあって、場違いで、疎隔されているような感じなのだけど、一般向けの統合失調症に関する概説書には、この問題について、一切触れられていないのが、不思議だった。
そこで、笠原嘉『精神病』のなかで、木村敏の「あいだの障害」という概念や、ミンコフスキーの提唱する、「現実との生ける接触の喪失」という概念に出会い、この二人の本を手に取り、「ここには自分のことが書かれてある」と思った。
……
また、話が横道にそれるが、上に書いた、いわゆる前駆期における神秘体験については、木村敏『時間と自己』のなかの「祝祭の精神病理」という章において、ジャン・ジャック・ルソーの体験したといわれる神秘体験、世界との合一体験が書かれてあり、これにもとても強く共感した。この神秘体験は、てんかん患者が発作の前の数秒間に体験することがあるといわれる、「アウラ体験」という宗教的、神秘的体験と、質的にまったく同質である、とされている。
ぼくの場合、「世界との親しみ」という感情において、危機に瀕しており、そのなかで、ときおり、世界と自分が一体になっているような、離人感の克服と言えるような、幸福感、恍惚感を感じていた。それは、愛をともなったものでもあった。主観的には、自分は世界への、人間一般への愛を失いつつある、この感情において、危機的な状況にあると感じられていた。
……
自分は、発症後、まともに読書ができなくなったが、木村敏の著作は、立ち止まりながらではあるけれど、とても興味深く読むことができた。もっとも、木村敏の著作に、自分の置かれている状況が克明に書かれているとは言っても、当然のことではあるけれど、自分の状況が好転するわけではない。ただ、自分の身に起こったことを、また、起こっていることを、言語化したいという欲求が、自分にはあるみたいだ。
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新編分裂病の現象学 (ちくま学芸文庫 キ 14-5) 文庫 – 2012/12/10
木村 敏
(著)
- 本の長さ478ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2012/12/10
- 寸法10.8 x 1.8 x 15.2 cm
- ISBN-104480094970
- ISBN-13978-4480094971
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2012/12/10)
- 発売日 : 2012/12/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 478ページ
- ISBN-10 : 4480094970
- ISBN-13 : 978-4480094971
- 寸法 : 10.8 x 1.8 x 15.2 cm
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