代表作「牡丹灯籠」が収録されていない、「真景累ケ淵」が一部抜粋だけ、というので、ちょっと手を出しかねるが、それらは別に文庫本で読めるので、この一巻の価値は別のところにあると考えなおして購入した。円朝の入門書としては最良の編み方を意図したものと思える。確かに怪談話だけが円朝ではない。話し家としての円朝の全体像がきちんと把握できるように配慮されていると見るべきだろう。そして、各ページごとに詳細な注と図がつけられているので、情景や時代背景が過不足なく理解できる。
円朝の口演筆記は言文一致体への道を拓いたものであるが、この一巻を通読すればそれが体感的にはっきりわかる。明治文学史の必読資料としても、十分な価値のある買い物である。
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