初刊はJICC出版局の「コレクターシップ」。コレクションという行為そのものをテーマにその理念や意義を追求した本。文庫解説は紀田順一郎氏。この紀田氏の解説がなかなか良い。解説の中で、収集というものは、多く生活者意識とは遠くかけ離れた、つまり世俗的な価値観とは別次元の地点でなければ成立しないという事実であり、コレクターをコレクターたらしめるものは、尋常ならざる情熱であり、それを長期にわたって持続させるのは狂気であるとしている。本書の独創として、紀田氏は、「玩物文化の流れを、欧米文化や日本文化に共通する『引用と再構成の歴史』と関連づけた点としている。引用は、膨大な知識量を前提とするがゆえに、「量の叡智は文化の前提である」と結論が導かれる。紀田氏の指摘で最も印象的だったのが、西洋文化の根底には「量にたじろがない精神」が存在し、ライプニッツによる計算機の発明がその典型で、後のコンピュータを作り上げる原動力になっているという。しかし、日本の近代化は貧困や教養主義など、さまざまな制約から「量にひるむ精神」を作り上げてしまったとし、何事も中途半端ですぐ腰砕けに終わる。それをカバーするために精神論が持ち出される。熊楠の業績は、このような日本の風土の下で成し遂げたから、一種の偉大さがあると述べている。そのうえで、紀田氏は自分に大きな影響を与えた横浜震災記念館の展示物は、倉庫に引っ込み、どこかに消えたとしていて、戦前から戦後にかけての公的な収集の多くは、コレクターシップ不在のゆえに、悲惨な運命をたどっているとしている。
まさに、西洋の「量にたじろがない精神」は、Googleを生み、「量にひるむ精神」の日本は、何事も中途半端ですぐ腰砕けに終わる。この差は、コレクターシップを通じても、本当によくわかる。
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おたくの本懐: 「集める」ことの叡智と冒険 (ちくま文庫 な 29-2) 文庫 – 2005/1/1
長山 靖生
(著)
- 本の長さ271ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2005/1/1
- ISBN-104480420479
- ISBN-13978-4480420473
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2005/1/1)
- 発売日 : 2005/1/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 271ページ
- ISBN-10 : 4480420479
- ISBN-13 : 978-4480420473
- Amazon 売れ筋ランキング: - 676,149位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年6月17日に日本でレビュー済み
2006年3月15日に日本でレビュー済み
好きなものを,ある思想に基づき,とことん集めぬいた時、そのコレクションは一つの世界をおのずと形成する。それは,文化を支えている,文化そのものともいえるものではないだろうか。著者は,コレクターの一人として,「集める」ことに注目し,主にここでは日本の強力なコレクターたちや,パトロン達のあまりに面白い歴史を語る。
また,豊かな財力を持った人々のみでなく,ただの人がコレクターとして生きた半生についての記述も面白い。
タイトルは,元のとおり「コレクターシップ」でよかったのでは?集めることに興味のある人もない人も絶対楽しめます。
また,豊かな財力を持った人々のみでなく,ただの人がコレクターとして生きた半生についての記述も面白い。
タイトルは,元のとおり「コレクターシップ」でよかったのでは?集めることに興味のある人もない人も絶対楽しめます。
2005年2月9日に日本でレビュー済み
『コレクターシップ』という題で出た本を増補改題したものだそうです。
コレクターシップ、というのは著者の造語です。
< じつは、私が秘かに本書で企てているのは、“集める”ことが、そのまま生活と精神の両面を豊かにし、さらには自分自身の発想を自由に広げていく叡智の基礎となる、そんなコレクションの楽しみ方を確立することである。その方法、あるいは精神を、私はコレクターシップと呼ぶことにしたい。>(35~36頁)
ということで、おもに古今のさまざまなコレクターのコレクターシップぶりを紹介するものになっております。
いや、よかったですね。今西菊松なんて人のコレクション人生には感動すらおぼえます。
俺も鳥居絵はがきコレクターのはしくれではありますが、俺なんてほんとちっぽけな、コレクターとも呼べねえレベルだなあ、って思います。つうかなりたくない。
まあ、俺の文章よりも、巻末の紀田順一郎の解説をお読みいただいたほうが。
コレクターシップ、というのは著者の造語です。
< じつは、私が秘かに本書で企てているのは、“集める”ことが、そのまま生活と精神の両面を豊かにし、さらには自分自身の発想を自由に広げていく叡智の基礎となる、そんなコレクションの楽しみ方を確立することである。その方法、あるいは精神を、私はコレクターシップと呼ぶことにしたい。>(35~36頁)
ということで、おもに古今のさまざまなコレクターのコレクターシップぶりを紹介するものになっております。
いや、よかったですね。今西菊松なんて人のコレクション人生には感動すらおぼえます。
俺も鳥居絵はがきコレクターのはしくれではありますが、俺なんてほんとちっぽけな、コレクターとも呼べねえレベルだなあ、って思います。つうかなりたくない。
まあ、俺の文章よりも、巻末の紀田順一郎の解説をお読みいただいたほうが。