ざっくり言ってしまうと、大阪の一商家の跡目争いが、大阪、江戸の両方を舞台にした大規模な贈収賄事件に発展し、あろうことか贈賄側(主人公側)の求められもしない自白によって、収賄側の大勢の武士たちが厳しく処罰されるにもかかわらず、贈賄側は主犯(語り手が仕える主人)も含めてさほどの極刑には処せられないというなんとも後味の悪い話です。(特に跡目争い自体がどちらが正しいとも言えないだけに、巻き込まれた大阪町奉行所の役人たちは気の毒でしょうがない)
また、物語の中心となる語り手の主人の商人は、よくありがちな賢がってる馬鹿にしか過ぎないし、語り手自身が、いかにも愚直なように描かれてはいても、内面はどうあれ行動は主人の愚行に追随する愚鈍な存在でしかありません。
(病床の姪を放置しての、京都への遊行、体を張ってでも止めろよと思いませんでした?)
と、思いっきり批判したわけだが、困ったことに一冊の書物としては実に面白い。
江戸時代の大阪の商家の内部の様子、大阪の街の様子。あるいは役人との関係。また京都の公卿と町人との関係、裁判、刑罰等々、他の歴史小説ではあまり描かれないような事柄が実に精緻に描かれてて大変興味深く読むことができました。
他の方が、小説ではなくて資料集と批判されてて、全く同感なんすが、その資料集として呼んだ場合、ここまで面白ければ、それはそれでまた一つの価値ではないかと思われます。
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辰巳屋疑獄 (ちくま文庫 ま 34-1) 文庫 – 2007/9/10
松井 今朝子
(著)
- 本の長さ313ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2007/9/10
- ISBN-104480423753
- ISBN-13978-4480423757
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2007/9/10)
- 発売日 : 2007/9/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 313ページ
- ISBN-10 : 4480423753
- ISBN-13 : 978-4480423757
- Amazon 売れ筋ランキング: - 606,458位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1953年、京都祇園生まれ。歌舞伎の企画・制作に携わった後、故武智鉄二に師事して、歌舞伎の脚色・演出を手がける。97年『東洲しゃらくさし』で小説家としてデビュー。『吉原手引草』で第137回直木賞受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 今朝子の晩ごはん―仕事も遊びもテンコ盛り篇 (ISBN-13: 978-4591117569)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年9月11日に日本でレビュー済み
2010年12月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分の知る限り江戸時代の大坂をこれだけ描写できている小説は知らない。
大坂の古地図解説書からたどり着いた本だけれど、勉強した古地図が突然命を宿して動き出したような感覚を覚えた。
今でも北御堂や、西横堀、堀江はある事にはあるが、大阪人を名乗っていながら昔の姿を知っている人はほとんどいない。ましてや、銅の精錬所が、ミナミにあったなんて、しかもそこに炭を供給して大財をなした辰巳屋の話は、大阪商人のDNAを垣間見る思いだ。
物語は、その辰巳屋のお家騒動を、一人の丁稚、元助の視点から描く。
何処までが史実かは研究していないのでわからないけれど、かなりの部分が実話のようだ。
大阪を愛するひとにはぜひ読んでもらいたい一冊。
大坂の古地図解説書からたどり着いた本だけれど、勉強した古地図が突然命を宿して動き出したような感覚を覚えた。
今でも北御堂や、西横堀、堀江はある事にはあるが、大阪人を名乗っていながら昔の姿を知っている人はほとんどいない。ましてや、銅の精錬所が、ミナミにあったなんて、しかもそこに炭を供給して大財をなした辰巳屋の話は、大阪商人のDNAを垣間見る思いだ。
物語は、その辰巳屋のお家騒動を、一人の丁稚、元助の視点から描く。
何処までが史実かは研究していないのでわからないけれど、かなりの部分が実話のようだ。
大阪を愛するひとにはぜひ読んでもらいたい一冊。
2007年9月19日に日本でレビュー済み
大岡越前守の最後の事件と紹介されています。見出しの一つに「大岡忠相の憂鬱」というところがあるように、訴えた方も訴えられた方もという感じの事件です。江戸時代のことであり、帳簿の改竄や収賄など日常茶飯事だったのではと思います。この事件は、大阪と江戸では裁決が分かれてしまいます。それも、どちらが上位の人物に話を通したかで決まってしまうという、何ともしっくりこない結果になります。
そうした中で、この話の進行役元助の純朴な一途さが溜まりません。そして、彼の人生の師とも言うべき万年先生の「欲心」を戒める言葉が響きます。口下手で生き方も上手くないこの主人公が、最後には「聖人」のように思えてきます。
この何ともやりきれないような決着を見た事件の最後の最後に、思いもかけない人の働きで更に意外な最後が待っています。経緯はどうあれ、このラストの「湖畔の晩鐘」が、読む者をほっとさせ、気持ちよく読了となります。このあたりが、作者の上手さというか、サービス精神でしょうか。
そうした中で、この話の進行役元助の純朴な一途さが溜まりません。そして、彼の人生の師とも言うべき万年先生の「欲心」を戒める言葉が響きます。口下手で生き方も上手くないこの主人公が、最後には「聖人」のように思えてきます。
この何ともやりきれないような決着を見た事件の最後の最後に、思いもかけない人の働きで更に意外な最後が待っています。経緯はどうあれ、このラストの「湖畔の晩鐘」が、読む者をほっとさせ、気持ちよく読了となります。このあたりが、作者の上手さというか、サービス精神でしょうか。