私は本書を読んで、平等で対等な人間関係でないと真のコミュニケーションは成立しない、と言う印象を受けました。
矢川さんにとって夫、兎にとって神、かぐや姫にとって帝 との関係は、どう言い繕っても、好意的に解釈しようとも主従関係から一歩も出る事はない、と言う事を矢川さんは分かっていて、その事実から目をそらす事は出来なかった。
矢川さんの職業上、神を盲愛する、盲信すると言う事は難しかっただろうし、見ざる、言わざる、聞かざるに徹するには矢川さんは知性が高過ぎた。
矢川さんの孤独な魂は死後、神の元でも、夫の元でもなく、従姉妹の元へ向かう所で物語は終わるのですが、本書で矢川さんは外からどう見えようと生きている間、孤独であった事を示しています。
失われた庭では作者、本書では神が登場し、矢川さんの分身（兎）を翻弄しますが、これは矢川さんの心象風景であって現実の話ではないと思っていたのですが、現実に矢川さんの遺言を公表させない圧力があり、遺族も公表したくでも出来ない事情がある。
矢川さんが気兼ねなく自由にものを書けたのは死を意識して書いた遺言の中だけだと思うと、矢川さんの孤独に呆然とするし、矢川さんが私達に残したかったエッセンスというものを今手に取れる矢川さんの著書からくみ取る事しか私達には出来ません。
矢川さんの翻訳が大変素晴らしく完成度が高いのは、矢川さんにとって本の世界だけが矢川さんが息をつける場所だったからかもしれません。
現実の世界にとって矢川さんの居場所はなかった、そういう現実というものを感じてしまうのは私だけではないと思います。（２０１６，１２，２１）
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