対談集『百年の誤読』(岡野宏文・豊﨑由美著、ちくま文庫)では、ここ100年間のベストセラーについて言いたい放題の書評が繰り広げられています。
豊﨑由美は私が私淑する書評家だが、私の好きな作品たち、例えば、『友情』(武者小路実篤著)を「トンデモ本に近い?」と、『砂の器』(松本清張著)を「ご都合主義」と、『気くばりのすすめ』(鈴木健二著)を「想像力が欠如」と、『サラダ記念日』(俵万智著)を「短歌革命なんてもてはやされ、いかにも新しいって顔してますけど、この中に提示されてる男女関係ってものすごく古風でしょ。おじさんはそこにメロメロになっちゃったんですねー」と――扱き下ろしているのには、どうあっても同意できません!
一方、『みだれ髪』(与謝野晶子著)、『羅生門』(芥川龍之介著)、『楢山節考』(深沢七郎著)、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫著)などは、髙く評価しています。
『みだれ髪』――
「●豊﨑=わたしが凄いと思ったのは、<乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き>ですかね。これ、女性のオナニーについて詠んだ歌なんじゃないですか? やるなー、晶子っ。●岡野=この人のことは森鴎外も認めてたんですよね」。
『羅生門』――
「●豊﨑=古典の換骨奪胎のお手本的な作品だと思います」。
『楢山節考』――
「●豊﨑=深沢さんは『アンチヒューマニズム』の作家ってよく言われるけど、わたしは違うと思うんです。人間の生きる喜びって、どこから生まれてくるかというと、やっぱり死ぬということが前提になってるからだと思う。そういう生の核としてある死を、徹底的に突き放すような視点で描いたのが、この小説の凄みになってるんじゃないかな」。
『赤頭巾ちゃん気をつけて』――
「●岡野=普通の青春小説って世界にバツをつけていく話だと思うんだ。たとえばサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』なんかも、ホールデン少年が世の中やまわりの人物に、あれもダメ、これもインチキって、とめどなくバツを付けていく小説の典型。だけど、薫くんは自分にどんどんバツをつけていく代わりに、世界にマルをつけようと頑張るわけ」。「●豊﨑=サリンジャーは今でも読み継がれてるのに、庄司薫をちゃんと語る人はほとんどいない、それって、かなり不自然。庄司さんがこう文体を創出したからこそ、80年代に村上春樹が登場できたと思うんですけどねえ。時代を伴走する優れた批評家を持てなかったのが、庄司薫の悲劇のような気がします」。
これらの高評価には、頗る満足!
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百年の誤読 (ちくま文庫 お 59-1) 文庫 – 2008/11/10
- 本の長さ483ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2008/11/10
- ISBN-104480424946
- ISBN-13978-4480424945
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2008/11/10)
- 発売日 : 2008/11/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 483ページ
- ISBN-10 : 4480424946
- ISBN-13 : 978-4480424945
- Amazon 売れ筋ランキング: - 345,985位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年6月14日に日本でレビュー済み
2013年7月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
若いときは、本を有り難い説法のように読んで、内容をそのまま受け入れ、そしてすぐに忘れていた。
社会人になってからだろうか、「は?なんだそりゃ」と引っかかるようになったとは。
読書は、本の内容に疑いを持ち、反論し、ツッコミを入れられるようになると断然面白くなった。
本書は、本読みの達人2人が1900年以降のベストセラーについて、夫婦漫才(?)を繰り広げる。
厳しいけど、「文学大好き!」のお二人には作品に対する愛がある。
ただ、それも1960年くらいまでかなあ。それ以降はボルテージが下がる一方。
気持ちはわかりますがな。
斎藤美奈子さんの『趣味は読書。』も面白かったけど、掛け合いの妙が楽しめる分、こちらのほうがオススメ。
それにしても、佐藤春夫と志賀直哉には泣かされた(笑いすぎて)。
社会人になってからだろうか、「は?なんだそりゃ」と引っかかるようになったとは。
読書は、本の内容に疑いを持ち、反論し、ツッコミを入れられるようになると断然面白くなった。
本書は、本読みの達人2人が1900年以降のベストセラーについて、夫婦漫才(?)を繰り広げる。
厳しいけど、「文学大好き!」のお二人には作品に対する愛がある。
ただ、それも1960年くらいまでかなあ。それ以降はボルテージが下がる一方。
気持ちはわかりますがな。
斎藤美奈子さんの『趣味は読書。』も面白かったけど、掛け合いの妙が楽しめる分、こちらのほうがオススメ。
それにしても、佐藤春夫と志賀直哉には泣かされた(笑いすぎて)。
2022年3月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
おふたりの褒めておられる本は参考になり読みたいと思ったので感謝です。
批判された本のことですが、たしかにお二人から見てトンデモないと思われる本が売れたのだと思います。
トンデモ本への歯に衣着せぬ徹底批判は私も大賛成ですが、その本を苦心して書いた人や読んで感動した人も中にはおられると思います。批判するならその根拠・理由を(もちろん書いてはおられますが)更に丁寧に詳しく述べられた方がよかったと思います。(注に会話中の作者へのあだ名を蔑称と書かれたり、たまに容姿をひきあいにだすとかは、余計と私は思います。)徹底批判は賛成ですが、ただし個人の尊厳はトンデモ本作者にもあります。釈迦に説法でした。すいません。
批判された本のことですが、たしかにお二人から見てトンデモないと思われる本が売れたのだと思います。
トンデモ本への歯に衣着せぬ徹底批判は私も大賛成ですが、その本を苦心して書いた人や読んで感動した人も中にはおられると思います。批判するならその根拠・理由を(もちろん書いてはおられますが)更に丁寧に詳しく述べられた方がよかったと思います。(注に会話中の作者へのあだ名を蔑称と書かれたり、たまに容姿をひきあいにだすとかは、余計と私は思います。)徹底批判は賛成ですが、ただし個人の尊厳はトンデモ本作者にもあります。釈迦に説法でした。すいません。
2010年7月28日に日本でレビュー済み
お二人の舌鋒のあまりの鋭さに辟易しているレビューも散見しますが、大昔に読んで読んだことすら忘れている本も多いので、そういった記憶の暗闇に光を当ててくれるという意味においては、十分楽しむことができました。
2017年4月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
アマゾンの中古で1円という価格だったので、話のネタにと買ってしまって大後悔。輸送費返せ。
要するに、文学好きな凡人二人による、平凡な「飲み屋の世迷言」レベルの妄言が延々とつづくだけという、拷問のような書物。
そんな内容であるから、そりゃ中古で1円という価格設定にも納得するしかない。商品解説に辛口などと書いてあるが、なにが「辛い」のだかさっぱりわからない。「これいいね」「これだめだね」が、ただ大した根拠もなく列挙されるだけ。読者からのつっこみを事前に想定しているであろう標題の「誤読」という語によって、どんな批判がきても「だから誤読っていってるでしょ」と言い逃れができる、という卑怯なやり口は感心しない。最大の問題はこの書を読むことで、「本を読んでみよう」という気にならないところである。
要するに、文学好きな凡人二人による、平凡な「飲み屋の世迷言」レベルの妄言が延々とつづくだけという、拷問のような書物。
そんな内容であるから、そりゃ中古で1円という価格設定にも納得するしかない。商品解説に辛口などと書いてあるが、なにが「辛い」のだかさっぱりわからない。「これいいね」「これだめだね」が、ただ大した根拠もなく列挙されるだけ。読者からのつっこみを事前に想定しているであろう標題の「誤読」という語によって、どんな批判がきても「だから誤読っていってるでしょ」と言い逃れができる、という卑怯なやり口は感心しない。最大の問題はこの書を読むことで、「本を読んでみよう」という気にならないところである。
2014年4月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
抱腹絶倒!とにかくお二人の教養と口の悪さに感動します!これはKindleではなく、紙の本を買うべきだったと。だって、何度もあの笑いの壺に戻りたいと思うけど、Kindleってそういうとき不便ですよね。ま、とにかく1度は読むことをお勧めします。面白いから。
2010年12月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これと、同様に二人で海外文学について述べたもの、豊崎氏単独で最近のベストセラーについて述べたもの、計三冊を、ほぼ同時に読んだ。後の二冊については、あまり得るところがなかったとしか言えない。しかし本書は面白く読めた。
日本人によく読まれた本を時間順に並べて軽くコメントを付けているいるだけのものなのだが、それがきちんと表層文化の一断面の見取り図となっている。なまじ日本人論とか政治状況の解説などに踏み込まず、「現代の普通の教養の持ち主が読んだ場合、いまでも面白いと言えるのか」という単純な割り切り方をしていることで効果があがっているのかもしれない。歴史年表を見るような楽しさがある。
いや、これはけがの功名というべきなのかな。世界の大文学は、常識人として語ってもらっては困るという側面も確かにあるのだ。しかしベストセラー('略々大衆文化)なんて軽薄なものは、面白く読めるかどうかだけで十分。なぜなら当時の人もそれほど深く考えて享受していたわけではないから。皮肉な言い方になって申し訳ないが、お二人のコメント程度の読み方ができるなら、読み手としては上々の部類だろう。
昔のベストセラーの大半が、今の目からするとガラクタにしか過ぎないといえる程度には、われわれは進歩したのか。それとも大衆の変わらぬ浅はかさを嘆くべきなのか。
個々の作品についてのコメントには、「あまりにも勉強不足だろう」と言いたくなったところもあるが、それは置いておく。(途中、特殊数学記号を使ったところなぜか文字化けがあったので、妙な言い回しになっています)
日本人によく読まれた本を時間順に並べて軽くコメントを付けているいるだけのものなのだが、それがきちんと表層文化の一断面の見取り図となっている。なまじ日本人論とか政治状況の解説などに踏み込まず、「現代の普通の教養の持ち主が読んだ場合、いまでも面白いと言えるのか」という単純な割り切り方をしていることで効果があがっているのかもしれない。歴史年表を見るような楽しさがある。
いや、これはけがの功名というべきなのかな。世界の大文学は、常識人として語ってもらっては困るという側面も確かにあるのだ。しかしベストセラー('略々大衆文化)なんて軽薄なものは、面白く読めるかどうかだけで十分。なぜなら当時の人もそれほど深く考えて享受していたわけではないから。皮肉な言い方になって申し訳ないが、お二人のコメント程度の読み方ができるなら、読み手としては上々の部類だろう。
昔のベストセラーの大半が、今の目からするとガラクタにしか過ぎないといえる程度には、われわれは進歩したのか。それとも大衆の変わらぬ浅はかさを嘆くべきなのか。
個々の作品についてのコメントには、「あまりにも勉強不足だろう」と言いたくなったところもあるが、それは置いておく。(途中、特殊数学記号を使ったところなぜか文字化けがあったので、妙な言い回しになっています)
2005年8月8日に日本でレビュー済み
著者らのいう「1960年代における変化」が、ベストセラーの大衆消費化であるとすれば、その程度のことは中島梓著「ベストセラーの構造」がはるかに高い水準で指摘している。おわりのところで「あらすじだけではなく、本は丸々読んで、初めて理解できる」なんて「あたりまえ」のことが書いてあって、著者には特にこれといった意見はないんだなあというのがわかり、正直脱力した。(丸々読んだら理解できるなんて、本当に言えるの?ともいえる)。対談の妙味に誤読や誤解があるのは確かで、思いつきと思いっきりのよさが、テキストの枠を超えた面白い評価を引き出すことは多々あると思う。だけど、ベストセラーを嗤うって、誰でもできることじゃない?。著者がいうように、ベストセラーの低レベル化はすすんでいるのかもしれない、それとともに批評の力も低下しているんだなあということも実感した。ただしかし、読み手の低レベル化かどうかは留保が必要だろう。「低レベルな読者」に著者が軽妙に働きかけている、そんな構図が作られてはいまいか。